焼ける空 二

 地面から次々と這い出る魔法より生み出された土の兵士、『俑器兵ようきへい』が人々へと襲い掛かる。

 老若男女を分けることなく、その体中に生えた凶刃を逃げ惑う者達へと向ける。


 ルルヴァが飛燕王を振るい数体を倒す間に、その何倍もの数の土の兵士達が生まれ出て来る。

 ルルヴァ達と一緒に戦っていた女の一人が剣を取られ、抱き付いた俑器兵ようきへいの刃にすり下ろされて絶命した。


「お前達は、僕達に人として死ぬことも許さないのか?」


 ルルヴァの問いに錬金術で生み出された、魂無き俑器兵ようきへい達は答えない。


「皆さん艦の中へお逃げください! お早く!」

「急ぎなさい! 南よ!」


 ゼブの放つ岩と氷の槍が数十体が砕いた。

 エトパシアの放つ魔導矢まどうしの爆発が十数体を砕いた。


 しかしそれを埋めるように、百を超える俑器兵ようきへいが土の中から這い出て来る。

 新しいものはより強くより禍々しい姿へと変わり、今の姿は獣の頭を持ち、或いは蟲の体をして、手には無数の鉤爪かぎつめものとなっていた。


「兄さんっ!」

「おいルルヴァ呆けるな!」


 ペローネとジルルクが、佇むルルヴァを動かそうとする。


『ウラ、ウファ、ウファメシシ』


 動かぬ、動けぬルルヴァ達へと、異形と化した俑器兵ようきへいの群れがその顎門あぎとを開いて飛び掛かって来た。


 ルルヴァを守ろうと前へ出たペローネとジルルク。

 そして彼らの先へと進み出たルルヴァ。


「僕達を悪だと言うのなら」


 鞘より抜き放たれた刃が弧を描き、極大の風の斬撃を走らせた。


『マオウ、マゾク、マゾク!!』


 砕けっ散った土の残骸の全てが地面に振り落ちるより早く、新たな数百の俑器兵ようきへいが生まれ出る。


「お前達の行いが正義だと言うのなら」


 ルルヴァが駆ける。

 飛燕王の放った風の中に、何もないはずのその場所に、斬れなかった何かがあった。

 注視するとそこからは、巧妙に隠蔽された、全ての俑器兵ようきへいへと繋がる魔力の流れがあった。


「ハアッ!!」


 渾身の魔力を込めて振り抜いた飛燕王が虚空の中に潜む、何かを斬った。


『オオオオオオオオオオオ!!』


 黒い炎を中に燃やす水晶の馬が姿を現して、上下が横にずれ落ちて行き、地面に当たって粉々に砕け散った。

 同時、全ての俑器兵ようきへいが姿を崩してただの泥となった。


「お前達を、正義を、僕は斬る」


 遥か上空から影が落ちる。

 とんっ、と黒衣の騎士が着地を決めた。


 とんっ、とんっ、とんっ、とんっ、とんっ、とんっ、とんっ、とんっ、とんっ、とんっ、とんっ、と。


 彼らの抜いた魔導剣が、ルルヴァへと向けられた。


「「くぇええ!!」」


 十二人の騎士達が放つ、音速の斬撃が襲い掛かって来る。

 しかし彼らの必殺の技を、ルルヴァは冷めた目で捉えていた。


「お前らは黒狂徒あいつの足元にも及ばない」


 ルルヴァはオヌルスの剣を受け、その奥義を血肉に受けた。

 それはルルヴァの天賦の才が、黒狂徒オヌルスからには十分なものだった。


 ルルヴァが飛燕王を振り被る。

 柄を握る右手と左手の間を無くす。


 上下左右より同時に迫る騎士達の魔導剣の軌跡を、ルルヴァは刹那の世界から視る。

 平常の世界では隙間なく振るわれたように見える刃でも、ここでは全くのバラバラであり、柵のずれた檻のように、抜け出す道を視ることができた。


 ルルヴァは最も早く自分へと剣を届かせる騎士を斬り、その次を斬る。

 自分へと刃が届く僅かな時間のを歩くように、騎士達を斬り、途切れることの無い翡翠の刃の軌跡を描き、飛燕王を振り抜いた。


 騎士達の剣はルルヴァに届くことはなく、ルルヴァは彼らの背後で地面を踏み、振り返って残心を取った。


「な?」

「ばか、な……」


 魔導剣の剣身がたれて、落ちた。

 魔導鎧がずれて、落ちた。

 そして騎士達の体は、バラバラとなって崩れ落ちていった。


「あれ?」


 体力と魔力の消耗が眩暈めまいとなってルルヴァを襲った。

 浮遊する感覚に倒れることを覚悟したが、誰かの手に支えられた。


「よくやった。流石は飛燕王に気に入られただけはある」

「あ、ありがとうございます」


 エトパシアが笑う。


退くぞゼブ」

「はい、畏まりました~」


 ゼブが氷の大蛙おおがえるを呼び出して、その背に魔法でノイノや負傷者達を乗せた。

 ルルヴァはエトパシアに支えられ、ペローネ達と一緒に飛行戦艦の泊まる場所へと向かった。

 

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