ルルヴァ・パム 三
~ 修練所 ~
荒く息を吐くカグラが、大の字になって地面の上で伸びていた。
「はぁ、はぁ、はぁ。クソッ。だから、お前はっ、嫌いなんだよっ」
「そう言われても……」
汗一つ浮かべなかったルルヴァは、飛燕王を優しく鞘に納めた。
これでもカグラは剣士として一流と呼ばれる程の腕前は持っている。
加えて規格外の怪物たる精霊武器、その中でも頂点に位置する月陽炎を握っているのだ。
仮に小国がカグラ一人に総力戦を仕掛けたとしても、さして労せず返り討ちにすることができる力はあるはずであった。
「これじゃ、はぁはぁ、俺が、はぁは、とんだ、はぁ、道化じゃねえか」
「いえ。ありがとうございます。カグラさんの言うこと、本当は分かっているんです」
「……」
「飛燕王を手にしたこと。カグラさんにお世話になっていること。そして今、こうして生きていること。少し過去の何かがずれていれば、有り得なかったことなんだって」
ルルヴァの朱の瞳を一瞬、夕焼けの赤過ぎる赤のような光が過った。
「証明したかったんです。奪われるだけでしかなかった僕じゃないと。暗闇を斬り裂く力を、僕は手に入れたんだと」
故郷を滅ぼされ、妹と母の手を引いて逃げた日。
絶対的な破滅に襲われて、死を紙一重先に覗いた日。
そして、運命と出会った日。
「あいつを泣かすなよ。俺が携わった仕事でそんな無様晒しやがったら、それこそぜってえ許さねえ」
「はい」
ルルヴァの声を聞いて、カグラは月陽炎を虚空に消した。
「……ちっ」
空には夜と星がある。
パスパグロンのそれよりも大きな輝きを眺めて、知らず、言葉が漏れた。
「お前がそいつを手にしてから、もう三年か」
* * *
~ ? ~
「黒霧森の
「そうか。最適な核を見付けるのと魔獣の誘導に苦労したんだけどな」
傅く美しい女の言葉を聞いて、パタンと、男は左手に持つ本を閉じた。
「まあ予備の計画だったし、すっぱりと諦めるとしよう。しかしほんと、ままならないものだよね」
本を棚に戻し、窓の外の、彼方より迫る夜の闇へと目を向ける。
「
「かなり厳しいとほのか様は。今回の被検体百も、既に八十九が廃人となったそうです」
「そっか。悲しいね」
中身の無い右腕の袖が揺れる。
男は冷めたコーヒーで唇を湿らせて、壁に掛けられた刀を左手で優しく撫でた。
「これ以上邪魔となるなら、斬る事も考えないといけないか」
「お察しします」
「ありがと。まあ、これも義務ってやつだね」
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