第10話
伸也の自主トレが始まった
身長190cmある大男の食事は 凄い
少しの期間 からだを休めただけでウェイトもかなり増量してしまった
友人でもある同じチームメイトのブルペン捕手の佐々木と 信州の山に籠った
伸也がマスコミを嫌い 佐々木の親戚が経営する民宿で夜を過ごす
何気に 美麗からの携帯の着信を待つ
この日も 撮影を終えた美麗から 深夜の1時に電話が入った
『こんばんは どう調子は?』
「いや パーティーが続いたろ 完全にウェイトがオーバーだ しばらく汗をかく日が続きそうだ」
『明日 私完全オフなの そっちへ行くわ もう変装して準備してるけど 4時頃に着くわよ』
「そうか じゃあ今夜は もう少し走ってくるよ 場所はわかるかい」
『ええ あなたのことは 日本中で有名だもん じゃあこれから車で行くわね』
美麗に逢える
伸也は 冬の信州の夜空を眺めた
澄みきった空に 氷のように煌めく星が まるで雨の雫のように降り注ぐ
伸也は トレーニングウェアーに着替えると 夜の町をひたすら走り続けた
〔見えない努力がいつか実を結ぶ〕
恩師 高校時代の斉藤氏の言葉が頭をよぎる
さすがに 深夜の寂しい町には マスコミもいない
3時間くらい走り続けた 滝のような汗が流れる
その時だった
川向こうから車が伸也の方に向かって走って来た
よく見ると 後部座席に美麗が座っている
伸也の心が躍る
運転手の山田が 伸也の前で車を止めると 後部座席のドアを開けた
「乗ってください この先にペンションを借りてます そこまで送ります」
無表情の山田が 伸也を車に乗せた
山の奥に行くと綺麗なペンションがあった
美麗と伸也をそこで降ろすと 山田の車は消え去った
『ここ なかなか気づきずらい場所でしょ ここならマスコミもわからないわ』
「凄いな 明日の分までトレーニングしたから 俺もからだを休められるよ」
『もう 賄いさんが来て 軽い食事の用意もできてるの さあ入りましょ』
美麗がドアチャイムを鳴らした
中から 賄いのおばさんがでてきた
暖炉に火がくべられ 部屋は煌々と明るかった
賄いのおばさんが 笑顔で挨拶する
『このペンションのオーナーの伊東です 今日は貸し切りですから それから後でサインをくださいね』
「ありがとう ワインある?」
『はい 簡単なオードブルも用意しておきました さあどうぞ お掛け下さい』
伸也と美麗は 熱い抱擁を交わし 席に着いた
外では 粉雪が舞う
ーーー つづく ーーー
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