第3話

五十嵐美麗は 全ての撮影が終わると 早々と帰り支度を始めた



『山田 送ってくれる 今夜は少し疲れたわ』


マネージャーの山田が美麗の荷物を持つと 強面の顔で美麗に語りかける


「美麗さん 残念ながら いったん事務所に戻れとの事です 今社長から電話がありました」


『今何時だと思ってるの 深夜の2時よ 撮影もヘボ役者だらけでNGばっかじゃん 行きたくないわ』


「緊急の用件らしいです わがままは困ります」


『わかったわ 車だして』



深夜のとばりを抜けて黒い車が闇の中を走りだす


横浜のみなとみらいのロケ地から 目黒まで20分ほどで事務所に着いた


暗い雑居ビルから 美麗や光一のおかげで新しいビルに事務所は 引っ越ししたばかりだ


その美麗の顔が険しい 事務所のドアを開けると 社長室のドアはすでに開いていた


社長の小林が 美麗のご機嫌をとるように笑いかける



「今日もおつかれ 話はすぐ終わるよ まぁ掛けなさい ビールでも飲むかい?」


『1分1秒でもここから出たいの 何? 話って?』


「今年の夏に新しいCM契約が3本入った それと秋の新ドラマのヒロインのオファーもうけた」


『CMはいいわ 新ドラマって監が督誰なの?』


「あの遠藤武先生だ」


『あの狸じじいなの! 別にかまわないけど 相手役は誰? ラブシーンはNGよ』


「それがラブシーンがあるんだ 無ければ君を急に呼ばないよ」


『じゃあ断って 私のイメージにどうしても合わないの 相手によって考えてもいいけどね』


「それが光一なんだ 同じ事務所から二人は困ると言ったが・・・ 相手は遠藤さんだからね」



しばらく沈黙の時間が過ぎた 美麗はスッと立ち上がると 社長室の冷蔵庫から缶ビールを取り出す


それを一気に飲むと また椅子に腰かけ 小林を睨むように見つめた



『相手によりけりだけど まさか光一君とわね 私ももう年なのかな 清純派卒業かしら ハハハ』


「どうするんだい 美麗に任せるが」


『社長も金が欲しいんでしょ いいわよ 相手が光一ならスキャンダルにもなることないだろうしね』


「今日の朝 契約なんだ いいんだね」


『いいわよ もうここにいたくない 帰るわ 明日も早いし 失礼します』


飲みかけの缶ビールをテーブルに置き 後ろを振り返り 美麗は小林の前から姿を消した





一方その頃 光一は 恵梨香とカラオケボックスで二人でいた


まるで何かにとり憑かれたように 鬱憤を晴らすように光一は マイクを離さずシャウトしていた


恵梨香が 優しい目で光一を見つめる



酒の勢いもあったのだろうか


光一の目は まるで野獣のような輝きを放つ


まるで檻から抜けだした虎のように



夏の夜が明けるのは早い



ーーー つづく ーーー




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