第2話

光一が俳優として売れだしてから3年 23歳になった



相変わらず脇役が多いが 演技力には磨きがかかってきた


CMにも出演するようになり全国にも 浅野光一ファンが多くいる


もう街を一人で歩くことなど許されない日々が続く



光一のマンションにマネージャーの恵梨香が会社の車で迎えに来る


サングラスと野球帽を被り 光一が車に乗り込む



『今日は ドラマの撮影だけだから 夜の食事はどうするの?』


「凜尚園でいいよ」


『そう ストレス溜まってるんじゃない? 遊びに行けなくて』


「芸能人ってこんなものなのかな もっと夢があると思ったけど」


『今じゃ うちの事務所も 五十嵐美麗と浅野光一の2枚看板で大儲けよ 私の給料も上がったし』


「でも主役がやりたいな~ これは俺の夢でもあるしね」


『近いうちにあるわよ 遠藤先生 えらく光一のこと気に入ってるもん 私の直感だとありそうよ』


「恵梨香さんの直感は 鋭いからな~ まぁ期待してるよ」



撮影も終わり 光一が帰ろうとすると 監督の遠藤武から呼び出しがあった 光一は緊張する


監督室のドアをノックした


「入れ~! 光一か ま そこに座れ」


光一は テーブルの席に座った


「お前の演技良くなったな 次回の秋のドラマ 主役でいこう 他の局だがな 俺が呼ばれた」


「え! 俺が主役ですか 夢みたいです」


「この本読んどけ 〔雨のち晴れ〕 これをドラマ化する 難しい役だ お前に賭ける」


「はい」


「秋の準備までは 少し時間がある 役作りに専念しろ ヒロインはお前と同じ事務所の五十嵐美麗だ」


「まじっすか 同じ事務所で共演なんて滅多にないですよね」


「俺も今回の作品に賭けてるんだ ドラマで低迷してるYBSだよ」


「YBSですか 何回かお世話になりましたけど」


「向こうが泣きついてきた 事情はそういうことだ いいな おつかれ」


「はい 失礼します」



夢にまで見た ドラマの主役を掴んだ まさに天にも昇る気分だった



恵梨香の車に乗り込むと いったん事務所に戻り タクシーで中目黒まで向かった


凜尚園に着くと いつもの個室部屋に案内され 遠藤との一件を恵梨香に話した



『嘘! すごいじゃん! ドラマの主役よ 私の直感は鋭いわ でもまさか共演が美麗とわね~』


「それでさ 雨のち晴れっていう本をよこされたんだ 読んどけってさ 知ってるこの本?」


『知ってるわよ 白河神司の新刊でしょ 今売れてるの ベストセラーよ』


「その小説の主役らしい」


『嘘 じゃあ美麗とラブシーンもきっとあるわ』


「もう読んだの? でも俺も俳優だもん それくらい大丈夫さ」


『美麗は 以前にもラブシーンNGでドラマ出演 却下したことあるの 大丈夫かな~』


「相手は誰でもいいよ さあガンガン喰おうぜ お腹空いちゃった」


俳優になって3年 初めての主役に抜擢され 光一の心は躍っていた



ーーー つづく ーーー

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