第45話「今日は楽しい休息日アフター(中編2)」


 そんなこんなで深夜タイム。


 俺はベッドの中、日課である“とある遊び”をしながらまだ寝ずにいた。


 ベッドの中で深夜に行う日課の遊びって言ってもあれだぞ? 別にエロい事してる訳じゃねぇぞ?


 何ていうのかな。


 寝るまでの暇つぶしがてらに行う儀式みたいなもんだ。



 この世界には魔素マナってもんがあるとされている。


 それは魔法の元であり、どういう現象でそれを行っているのかはわからねぇが、特定のやり方で契約の儀を行う事で、その契約の内容どおりに世界を自在に改変し、望む現象を発生させる神秘の存在だ。


 魔素マナは主に空気中に存在する。


 だが体内にも存在し、循環し続けているというのが通説だ。


 で、その体内に巡っている魔素マナなんだがな?


 薄目にして目を凝らしてよ~く見るとだな……わりかし見えたりするんだ。暗いと特にな。


 腕とか手とか見てみるとな? 体の外側を覆う、うすぼんやりと光るもやみたいなものが見えるんだよ。


 これ、何ていうか……もうアレだよな。まんまオーラみたいな感じなんだ。


 さらに目を閉じて意識すると、体の内側と外側にマナが巡っているのがぼんやりと感じられる。


 ……この体内マナと、空気中のマナが反応を起こして魔法を発生させているのだろうか?


 まぁ、魔法の理屈なんざよくわからねぇけど。一つだけ気付いた事がある。


 このマナな? あんがい自在に動かせるんだよ。


 ゆっくりと体外を循環させてみたり、一点に集中させてみたり、伸ばしてみたり、体内に押し込んで見えなくさせたり。


 最初は上手くいかなかった。けど何年も遊んでいるうちにかなり自在に動かせるようになってきた。


 なんかの役に立てられねぇかなぁって思ってはいるんだけど……今のところ使い道はこれといって特にねぇ。


 だからまぁ、そんな訳で……眠気が訪れるまでの暇な時間を潰すためにひそかに遊んだりしているわけだ。


 こうして部屋全体に広げてるとだな、なんか色々とわかるようになるんじゃないか、とか……。


 それにこう、扉の外にまで広げた気分でいるとだんだんと世界に溶け込んでいくかのように心地よく……。



 ん? 扉の外に何かいる……?



 広げた意識の先端に、蠢く気配のような物を感じ、耳をすます。



 扉の前で止まる足音が聞こえた。



 なんだ?



 誰だ? こんな時間に。



 その瞬間、脳裏に、深夜の暗闇の中を徘徊する虚ろな目をした不気味な村民の顔が思い浮かんだ。


 そう、今日聞かされたあのホラーな怪談にまつわる、体内に寄生し、人を支配するというあのおぞましきワーム。


 まさか、アレに取り付かれた誰かが深夜にうろついて……?



 恐ろしい想像に震えながら様子をうかがっていると……。



 トントン……トントン……。



 小さく扉がノックされる。



 こんな時間に……誰が来るってんだ?



 まさか本当に寄生された何かなのか……!?



 って事は、俺はこのまま暗闇の中、襲われて、体中に卵的な何かを植えつけられて最終的には背中からバリバリと割られてしまうのか!?



「ひぎぃっ!?」



 せっかくこんな恵まれた体に転生できたのにそんなバッドエンドは嫌だぁっ!?




 誰か助けて~……。




 小さな悲鳴をあげつつ布団の中に潜り込む俺。




 だが、そんな俺を嘲笑うかのように、扉の外の存在は小さな声で囁くように声をかけてくる。



「ミリア~……起きとるか? うちや、ティエラや……」



 ティエラ?



 一体ティエラがなぜこんな時間に……?



 まさか……ティエラ……お前、いつのまにかワームに寄生されて……!




「一人じゃ眠れへ~ん……入れてぇなぁ……」




 どう考えても、可愛らしいいつものティエラのようだ。



「……」



 ネガティブ妄想ダメ絶対。


 あ~、もうダメダメだな俺。


 前世からの悪癖。これ本気で治さなきゃだなぁ。



 そんな風に思いつつ、俺はベッドから降り、扉の前まで歩くと、扉を開く。



 部屋の外ではしょんぼりと枕を抱くティエラの姿が。



「……体はめっさ疲れとんのに……全然寝れへんねん。うち、抱き枕抱いてないと寝れへんみたいや」



 普段抱き枕なんか抱いて寝てるのか。


 想像してみる。


 可愛らしいなぁ。



「ミリア、今日だけうちの抱き枕になってくれへん?」



 上目遣いで消え入るような声でおねだりをしてくるティエラ。


 こんなお願い、俺の中の私ちゃんが聞き入れないと思うか?




 ティエラちゃんと添い寝っ! はぅぅ~! おもちかえり~!!




 心の中で万歳三唱していらっしゃる。


 これはもう拒絶なんて選択肢はねぇな。



 俺はティエラの頭を軽く撫でると、彼女を部屋へと招き入れるのだった。





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