エルデフィア転生記~異世界転生したら魅力極振りSランクの兎耳半獣人美少女にTS転生したので獣耳美少女達とキャッキャウフフの百合百合学園生活を満喫しながら天辺目指します~
第33話「白露花女学院名物、掌泥闘覇(後)」
第33話「白露花女学院名物、掌泥闘覇(後)」
「それでは、第二回戦。始めっ!!」
開始の合図と同時に、二人の姿が消えた。
――否。
それは刹那の跳躍。
ブーストを利用した一蹴りで、二人は間合いを詰め、一瞬の移動を遂げたのだ。
セフィアちゃんの拳をパリングで捌き、ティエラちゃんの膝を膝でブロックし、二人は開始地点の中央でぶつかり合っていた。
それからはもう、一瞬の猛ラッシュ!
拳、拳、肘、膝、蹴り! 貫手、拳、手刀、蹴り!
お互いに一歩も引かない攻防!
そして、再度ブーストを行い間合いを取るべく離れる二人。
宙空でバク宙をくりだして余裕の着地を行う。
続いて行われるのは当然、魔法による遠距離戦闘だ。
ティエラちゃんが魔法の弾丸を乱射する。
彼女の魔法攻撃の制約は投擲だ。
彼女の魔法は自発的に飛ばない。
投げつけたり、蹴り飛ばしたり、叩き飛ばしたりしなければ相手に届かないのだ。
何かを軽く握るような甘握りの形にする事で掌中央位置に魔力球を生成する。
そして、それを投げつける。これを繰り返す。
「そりゃそりゃそりゃぁぁぁーっ」
無制限にも思われる、無数の魔力弾が投げつけられる。
だけど、セフィアちゃんだって何もしない訳ではない。
「
掌を下に向けてキーワードを放つと、人間大の、大きめな半透明の黒球が虚空に現れる。
それは真っ直ぐにティエラちゃんの下へと前進する。
必然的にティエラちゃんの魔力弾に直撃する。
するとどうだろう。魔力弾は真下に向けて進行方向を変え、落下して地面へと叩きつけられる。
変化球?
違う。
これはセフィアちゃんの放った魔法の効果だ。
重圧付加の魔法。
恐らく、この漆黒の球体は重力を操作する魔法。
放つ際に向けた掌の方向に重力を加圧するのだろう。
重力という不可視の現象を漆黒の球体として視認可能にしているのは制約の一つに違いない。
黒球は魔力弾を打ち落としながらティエラちゃんの下へと前進する。
「ちぃっ」
ティエラちゃんは真横にサイドステップ。
黒球はそのまま場外の見物席へ。
「ほぁ!?」
ドワーフのナタリーちゃんがそのまま飲み込まれ、地面へと縫い付けられるように倒れ伏す。
「ぬぉぉ、重いのじゃぁぁ!?」
一方、試合会場内では、再度ティエラちゃんが魔力球を乱射していた。
「ほんなら、これでどないやぁぁっ!!」
今度の投擲は直線ではなく、曲線を描いて目標へと到達する変化球。
シュート、カーブ、フォーク、スライダー、様々な方向へと各々の曲がり方をする変化球を左右両刀スタイルで投げこなす!
これでは直線的な前進で打ち落とす先ほどの戦法は意味を成さない!
だがしかし!
「
セフィアちゃんの両掌から放たれたのは漆黒の巨大な黒球。
今度の重力弾は移動せずにセフィアちゃんの掌前面に固定されている。
それを器用に盾として使い、迫り来る弾丸を叩き落す。
黒球に遮られた魔弾はあらぬ方向へと進行方向を変えて跳ね飛ばされる。
セフィアちゃんはそのままゆっくりと、じりじりと、確実に魔弾を逸らしながら前進を行う。
そして――。
「
掌を相手に向け、キーワードを唱えるセフィアちゃん。
刹那、ティエラちゃんがブーストジャンプで宙へと飛ぶ。
直後、ティエラちゃんがいた位置に黒球が出現する。
指定距離に突如現れるタイプの魔法。
それを直感的に見抜いてティエラちゃんは上空へと回避したのだ。
お互いに譲らない攻防が続く。
「やるやないかいっ」
上空でティエラちゃんは、両手を軽く合わせた姿勢で数秒チャージする。
すると、さっきよりも大き目の魔力弾が生成される。
それを蹴り飛ばす。
先ほどよりも巨大な魔力弾がセフィアちゃんの下へと向かう。
「
再び、両手前面に黒球を生成し、盾にする。
が、進行方向をずらされ、直撃は回避したものの、地面へと落下した魔弾が爆発し、飛び散ったエネルギーが足元に被弾する。
威力の変わりに被弾報告用の塗料付着設定がなされているため、付着した箇所に被弾を示すペイントマーカーが付着する。
「効いたな? せやったら、これでどうや?」
ブーストで再度、空中二段ジャンプで上空へと距離を取り、さっきよりも多くの時間をかけて巨大な魔力弾の生成をたくらむティエラちゃん。
さすがにそれは盾で防ぎきれないと察したか、セフィアちゃんが上空へとブーストジャンプする。
が、それならばと、ティエラちゃんは生成したエネルギーを直接叩きつけにかかる!
ブーストとスラスターを駆使し、体勢を崩しつつもセフィアちゃんはそれを回避する。
「
生み出した黒球を叩きつける!
「なんとぉっ!?」
黒球の直撃を受け、不自然に体勢を崩すティエラちゃん。
セフィアちゃんが黒球を消してとどめの一撃、拳打を放つ!
だが、それさえも持ち前の直感と体の柔軟性と、ブースト&スラスターの駆使で緊急回避!
さらにカウンターの蹴りを放つ!!
もはや逆さまに近い体勢で放たれた蹴りは、セフィアちゃんを地面へと叩き落す形で直撃する!
両腕でブロックはしたものの、セフィアちゃんはもう空中ブーストの使用回数限界だ。
空中などで連続ブーストを行うのは高等技術。
よほどのバランス感覚があってやっと、三回程度行うのがほぼ人間の限界だ。
ジャンプの際に一回。エネルギー弾を避ける際に一回。とどめとばかりに追撃を放つ際に、体勢を整えるために一回。
この時点でもう、ブーストやスラスターでまともに体勢を整える事ができない状態だった。
そして――。
地面へと向かって急速に落下するセフィアちゃん。
闘技場にも非殺傷設定の呪いがかけられており、実際のダメージは少ないから大怪我はしない。
けど、被弾扱いはされる。
これで試合終了かと思われたその時。
「
上に掌を向け、重力球を生成する。
自らの背中に叩きつけるような形で球体の中に自ら入る事で上空へと加重。
地面へと叩きつけられる前にクッションにして着地する。
「やるやん」
ほぼ同時に、ティエラちゃんも地に降り立つ。
わずか四十秒にも満たない接戦。
こんな魔法ありのスーパーバトル、関節技なんて使う暇ないんじゃない?
武術とか習うだけ無駄なんじゃない?
そんな疑問を浮かべる者もいるかもしれない。
けど、さっきも言ったとおり、ブースト連打がそもそも高等技術だし、魔力容量的にブーストを入れる余裕の無い者も多い。
つまり、私たちはこの世界においても、結構特別なレベルに当たるのだ。
また、魔力総量の低い方々には当然、切り札とも言うべき魔法が存在する。
――魔法禁止領域。
敵も味方も関係無しに、あらゆる魔法が無効化される空間を生み出す魔法である。
もちろん、コストも容量もかかるため、かなりの制限がかけられるだろう。
広範囲での使用なんて、一日一回の制限に加え、三十秒限定とかでなければ難しいだろう。
それでも、短期決戦を狙って、こういった術を使用してくる者もいるらしい。
こうなると純粋に武術勝負になる。関節技など、地道な武術の技量がメインになる戦場も存在するのだ。
余談ではあるが、関節技や投げ技など、超近接戦闘の達人であるドロシーちゃん先生の得意な魔法こそが、短距離限定の魔法禁止空間及び、魔法禁止空間より少し外に張り巡らせるエネルギーケージによる監禁魔法である。
エネルギーチェーンによる引き寄せから連続したこの魔法禁止監禁作戦で強制タイマンモードに移行させ、一人づつ確実に仕留めるのがドロシーちゃん先生の必勝戦術らしい。えぐい。
それはそれとして。
「変身せんのやな」
「あぁ、ロストと蔑まれた私の全身全霊。努力の全てを受け止めてもらいたいからな」
ロスト。これはこの国における差別用語の一つだ。
獣人は元々、もっと獣っぽい顔と毛むくじゃらの体を持つ種族だったらしい。
それは神代の頃や数千年前の話とされ、もはや御伽噺のレベルで語られるが、稀に先祖がえりでそういった姿で生まれる者もいる。
彼らはその異形とともに恐ろしい力を発揮する。
逆に、人と混じりすぎた結果、獣人としての姿も力も喪失してしまった者がいる。
それがロスト。
半獣人族の中に生まれた、純人族の血を強く受け継ぎすぎてしまった、無能力者。
半獣人族の親を持ちながら、純人族として生まれてしまった彼らは、
何を恐れられているのかって? もちろん、自らの種の断絶である。
先にも延べたとおり、かつてはもっと獣らしかった獣人が、今では獣耳、獣尻尾のみにまで薄れてしまっているのである。
それが、完全に失われた姿で生まれてくれば、自らの種の存亡について恐れるのも無理は無い話。
結果、恐れが嫌悪と差別を生み、できた言葉が
「純血たる民でも、君たちに劣らない事を証明するのは、この国家に生まれた者たる使命みたいなものだからな」
「なるほどな。ほな、胸貸したるわ。かかってきぃ」
もちろん、ロストと馬鹿にする子はこの学校にはいない。
それは、まぁ、デスクリムゾンに送られるからとか、そういった理由だったりもするんだけど。
――それでも、未だにこの国家内において、彼らが迫害されているのは事実なのだ。
ちなみに、変身については別の機会で説明する事としよう。その時をお楽しみに、って感じでね。
さて――。
「それでは、ウォーミングアップは終わりとしようか」
「せやな、うちの本気、特別に見せたるわ」
ティエラちゃんは軽く、タップダンスのようなステップを踏むと、両手を広げて優雅にターンする。
「
全身の筋肉がミキミキとパンプアップされる。
筋力強化の魔法?
――だけじゃない。
短いとは言え複雑な動作に長めのキーワード。あれだけの制約を使っている以上、不可視の攻撃力増強、防御力増強、速度上昇の効果も付与されているに違いない。
「
同時に、セフィアちゃんもキーワードを口にしながら前進する。
――早い!
今までの速度じゃない。まるで、重力を操って加速しているかのような――。
それもそのはず。
魔法の発動と同時に、セフィアちゃんは漆黒の半透明のオーラのようなものを身に纏い、地を蹴る際には、足元のオーラが激しく炎のように爆裂していたからだ。
そこからはもう、白熱の戦い。
目にも止まらぬ猛ラッシュをお互いに放ち、さばきあう。
今まで以上の猛スピードで激しい攻撃を放つティエラちゃん。
重力のオーラを炎のように爆裂させながら加速させて超スピードの拳打、蹴りを放つセフィアちゃん。
攻撃力を増したはずのティエラちゃんの一撃がいとも簡単に弾かれる。
ただのパリングじゃない……?
重力のオーラ……そうか。あれ自体が強力な、弾く力による鎧となっているのか。
ゆえに、届かない!
強化されたはずのティエラちゃんの攻撃は届かない!
だけど、セフィアちゃんの攻撃も同じく、届かない!
加速によりスピードを増したセフィアちゃんの攻撃をティエラちゃんは避ける避ける!
恐らく、弾く力により攻撃力も増しているはずのセフィアちゃんの打撃を、触れるのは悪手とばかりに触れずに避ける!
お互いに激しく動きつつも膠着状態が続く。
最初に仕掛けたのはセフィアちゃんだった。
蹴りを放った後の隙だらけの状態。当然ティエラちゃんがとどめとばかりに貫手による攻撃を仕掛ける。
だがしかし!
スルリと、重力を無視した動きで横へと移動する。
重力だけじゃない? 引力を用いての一瞬の不自然な体勢からの移動。
「もらった!
両手に出現させた黒球を合わせ、ティエラちゃんに叩きつける!
「チィッ!」
強引にブーストとスラスターを駆使して真横に飛んだ仰け反るようなアクロバティックな体勢で避けようとするも、かわしきれない!
両脚と腰部分が被弾判定のペイントに塗れる。
だがしかし――!!
「……さすがだ」
セフィアちゃんの腹部がペイントに塗れる。
なんと、あの姿勢で片手に魔弾を生成し、直接叩きつける形で被弾させていたのだ。
「勝負あり! 両者相打ち!!」
先生の宣言で試合は終了する。
凄い熱戦だった。
あれだけの戦い、今の私にできるだろうか……。
ううん、負けてられないよね。みんなライバルだもん。
「ほんまに、最後まで変身せんかったんやな」
「言っただろう。これは力なき者と蔑まれし同胞におくる戦いだ。特殊な力など無くとも互角に戦える事を照明せねば意味が無い」
「なるほどな。やるやん」
倒れた状態のまま、手を差し伸べるティエラちゃん。
セフィアちゃんはその手を掴むと引き起こすのだった。
実に尊いライバル同士の熱い友情的シーンである。
「やはり強いな。君は」
「あんたもなかなかやったで」
力強く握手を交わす二人。
ところが……。
「この馬鹿もんがっ」
ポコリと二人の頭を小突く先生。
「これが試合だったからよかったものの、実戦だったならば下手すれば両者死亡だぞ?」
プンスカと説教を始める。
「倒すよりも生き延びる事を優先せんか! 罰として両者、校庭十週!」
「ひぇぇ」
「なんと……」
熱戦空しく、校庭を走らされる二人の姿がそこにあるのだった。
「しかし、さすがはセフィアの姉御じゃい! ティエラ相手にアレだけ戦い抜くとは」
「あぁ、やはりセフィアの姉御は最強だぜぃ」
「おい、誰が年増だ? 怒るぞ」
姉御扱いするナタリーちゃんとエミリーちゃんに走りながら叱責するセフィアちゃん。
「うひぃ。堪忍じゃぁっ」
実は、ロストである事とか生まれが原因で一浪しているんだよね。
その事を気にしてるんだね。
うん、セフィアちゃんをお姉さん扱いするのはやめておこう。
さて、そんなこんなで白熱した白露花女学院名物、掌泥闘覇。
私の試合はどうなったかと言うと……。
シアとの接戦の末、やはり相打ちとなるのだった。
校庭十週が辛かったです。
しかし、まともに戦ったら相打ちかぁ……。
何か奥の手みたいな技。考えないとだなぁ。
もっと強くならなければ、と心に決める私なのでした。
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