第31話「白露花女学院名物、掌泥闘覇(前)」


「見事、受けてみせるか! 白露花女学院名物、掌泥闘覇しょうでいとうは!」


 6限め、戦闘訓練の時間。

 牛人族のナフベル先生が謎の鍛錬法を口にする。


 牛人族特有の豊満なおバスト様がプルンと震えその存在感を主張する。


 レムリアースの半獣人族は獣耳と獣尻尾と多少の種族特性があるだけで見た目はほぼ人間。なので、ナフベル先生は人間目線での趣 味趣向からしてもかなり可愛らしい部類に入る、お姉さん系の美しい女性だったりする。


 実に眼福である。


「むぅ、掌泥闘覇とな」

「知ってるの? シア」

「うむ、話には聞いた事がある」


 なんでもシアが昔読んだ本によると、北方の領区で一部民族が生み出した独特な鍛錬法で、掌に泥を塗り、体に触れて汚しあう事で 攻撃の被弾を判定し、より相手を汚せた方が勝ち、という徒手空拳鍛錬法が元となった戦闘訓練を指すらしい。


「今では主に、非殺傷設定と塗料付着の設定をかけた魔法、非殺傷の呪いをかけた武具に絵の具を塗るなどして、比較的怪我をさせずに実践的決闘訓練を行う事を指すらしいのぅ。あと、これが転じて泥鬼が生まれたとされておる」

「あぁ~、小さい頃よくやったね。泥鬼」

「うむ、服を汚してよく怒られたものじゃ」


 泥鬼っていうのは、掌に付けた泥を付着させあう喧嘩ごっこみたいな遊びだ。

 ちょっと実戦訓練っぽくて楽しくてはまってた時期があるんだよね。


「懐かしいねぇ」

「なるほど。だから……今日はこんな格好なんだね」


 私たちは今、両胸に一巻きのさらしと、股間に前張り一丁という、ちょっぴり卑猥ないでたちで校庭で待機させられていたりする。


 まだ春も始めといった季節。さすがにちょっと寒い。


「うむ、泥鬼は皆も子供の頃によくやったと思う。掌泥闘覇はその上位互換。武器や魔法もアリアリの、より本格的な戦闘鍛錬となっておる」

幻屠獄悶闘岩人げんとごくもんとうがんじんやらその前段階の災禍木人操葬さいかもくじんそうそうやら、対魔獣用の鍛錬を今までやっとったっちゅうんに、何で今さら対人なん?」


 ティエラが疑問を口にする。


「うむ、いい質問である。それには深い理由があってな。まず、弱いうちは弱い者同志で鍛錬しても効果が薄いのだ。成長精度はたかが知れる。強くなったからこそ、強い者同士で試しあう事でより一歩先へと進む事ができるのだ。そのための対人鍛錬である。ついでに、今の自分の強さを測るためでもあるし、生きた相手と戦うための、まぁ、実戦に慣れるための鍛錬という意味もあるな」


 なるほど。確かに鍛錬と実戦は違う。四眼巨大黒毛牛狼ペルペルパンバギウスと遭遇した時に感じた生の恐怖。


 生きた殺意ある相手と遭遇したときの空気。あれは対魔獣用とはいえ、非生物との鍛錬では味わえないものがあった。


「なるほどのぅ。より実戦的な鍛錬というわけか」

「そういうことであるっ。さて、質問はないな。それではまずは試験前の安全チェックを行う」


 使用する攻撃魔法が非殺傷設定になっているかどうかをチェックし、武器に非殺傷の呪いをかける。

 素手の使い手には体全体に。武器を使う者も、体全体にもかける。

 魔法は、実験用の油汁人面背蛙ニュックミーデュにかけることで、対象が怪我をしないかどうか試すのだ。


「よし、では全員準備が整ったな? それでは、第一闘者、前へ!」

「なれば、さっそくワタシがやらせてもらうネ」


 特徴的な南方方言。例えるならば、音を上下する癖がある中華めいた口調。


 細く鋭い眼が特徴的なスレンダーで美しい体躯。左右にシニヨンでまとめた黒い髪型。

 陶器の様に美しい白い肌。そのところどころにうっすらと鱗のような特徴のある少女。

 彼女の名はメイファ・ヴェノムリーパー。

 爬虫人族レプティリオ蛇人族オピスである。


「ぬぅ、ならばオレがいくぜ!」

「なんのわしが先じゃいっ!」


 小人族のエミリーちゃんとドワーフのナタリーちゃんがお互いに妨害しながら闘場に出ようとするものの……。


「やれやれ、貴方達では無様に敗北するのがオチですよ」


 風圧力場エア・ブーストを使って華麗に跳躍し、二人を軽く飛び越えて――。


 闘場に現れたのは、長いプラチナブロンドの美しい長髪に、海のように青いマリンブルーの瞳を持つ、百合の花弁の如き綺麗な白い肌の美少女。


 彼女はタチアナ・ヒエンズ。エルフ族の少女だ。


「なんじゃいタチアナの奴め。格好つけおってぇ」

「そうじゃっ! すっこんでおれ! わしに代われ~っ」

「やれやれ、美しくありませんね」


 謎の決めポーズをとりながら格好付けるタチアナちゃん。

 彼女もいわゆる、ピュアな種族の方なんだけど……。


 なんか、エミリーちゃんとナタリーちゃんと仲良くないんだよね。

 仲良くすればいいのに。


 一方――。


「がんばってくださいまし~」

「負けるな~! なのです~」


 メイファちゃんを応援する二人の姿。

 レイアちゃんとルシエちゃんだ。


 メイファちゃんはレイアちゃんと仲がいい。

 というか、実はレイアちゃんは三人組で行動する事が多い。

 その三人目が彼女。


「一撃でぶっとばしちゃえ~! なのです~」


 彼女の名はルシエラ・アースクレイドル。


 雪のように白い儚げな肌の色に、トパーズのように美しい金色の瞳。肩ほどまで伸ばした茶色い髪に、華奢で小柄な愛くるしい体躯。キュートな鼠の耳と尻尾を持つ半獣人、鼠族ミュースの可憐な美少女だ。


「任せるネ」


 ウインクして身構えるメイファちゃん。


 さっきも言ったけど、彼女たちはレイアちゃんと仲が良い。

 そしてレイアちゃんはなんというか……凄いデスクリムゾンっぽい。


 そんな彼女らは、当然の如く、レイアちゃんと同時に転校してきた子たちなわけで――。


 アレ? なんか思いついてはいけない想像がついてしまったゾ……。


――そっとしておこう。


 考えなかったことにしよう。


「ルールは単純だ。泥や色をより多くつけられた方が負け。それだけでなく、付けられた場所によってポイントが異なる。腕や脚なら有効。頭部や腹、胸などで即一本となる」


 ナフベル先生がルールを説明する。そして――。


「いざ、尋常に、勝負!」


 白熱のバトルが、今、始まる!


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