第30話「今日も楽しく授業モード」


 HRも終わって一時間目。


 今日も今日とて日課のランニング。


 いつものように歌いつつ走ったら、アスレチックコースで運動して一時間目終了。



 そして二時間目は宗教。


 今日は神様の話じゃなくて、国の法律について。

 そういった道徳とかも宗教の授業で習うんだよ~。


「レムリアース、国家ルール第一~!」


 フィオナ先生が号令をかけると――。


『われら、有能な人材たれ。


 他者に迷惑かけるべからず。


 国家のために、皆のために。


 力ある者の責務、忘れるべからず。


 五大神様の教えに従い、清く正しく公正に。


 後は各地方、領土、市町村、集落毎のルールに従うべし。


 以上!』


 全員で暗記させられている国家ルールを復唱させられる。


 大まかなルールはこれに収まってしまうのだ。


 迷惑の範疇はどこからどこまで、のような部分は地方や領土毎に多少違いがあったりなかったり。

 細かい部分はそういった地方ルール部分で補う。


 国家ルールはその前提。


 一言で言えば“モラルを大事に”が法律の大前提として根底にあるのだ。


「それじゃあ、今日はここ、トーリェン・プリムのあるエーフィングランデンのルールについておさらいしましょうね~」

『は~い』


 元気な声が響きつつ、二時間目も穏やかに過ぎていく。



 三時間目の算学の時間も特に何も無く過ぎて去っていって――。



 四時間目は魔法の授業。


 今日は、みんなで考えた有益なコンボや、面白い魔法などを実験、シェアする授業。

 ちなみに魔法の実験は授業で行う。

 そして、習った魔法以外は契約しないよう厳しく指導されている。

 失敗して死んじゃったら悲しいからね。

 きちんと無理の無い魔法かどうか、ちゃんと先生が審査するんだよ?


「それでのぅ、出てきたおしっこを空中に集めておいて、後で処理できる魔法など考えてみたのじゃが、どうかのう?」


 シアがとんでもない魔法を編み出そうとしていた。


「う~ん、実用性はあるかもだけど……」


 私的には浮いているおしっことか見たくない……。匂いとかも、ね?


「……それは、トイレに急いで駆け込めばいいだけじゃないかなぁ?」


 ララちゃんも「何言い出してんだコイツ?」みたいな顔しちゃってる。


容量コストに見合った効能メリットがあるかと言うと……微妙ではないか?」


 セフィアちゃんは意外と真面目に考察してくれている御様子。


「ちょっと限定的過ぎる上に、水に対する上級操作魔法が含まれますものねぇ」


 レイアちゃんもまともに考えてくださっていた。


「ところがじゃ、なんとこれにのぅ。水質浄化の魔法をかければ、な・な・なんと! 新鮮な水にはやがわりなのじゃっ」


 自信満々に宣言するシア。


「それ……飲むの?」

「私は勘弁ねがいたいな」

「うちもや、飲むのも体洗うんに使うのも勘弁や」

「なんか汚いのう」


 私をはじめ、セフィアちゃん、ティエラにナタリーちゃんからも非難される始末。


「むぅ……砂漠地帯など水の無い場所では有効じゃと思うのだがのぅ」


 しょんぼりするシアに。


「確かに、水の精霊魔法が得意な仲間のいない場合など、砂漠とかで使用する分には重宝しそうなアイデアではありますね……コストがちょっと重そうですが」


 フォローしてくれるニミラ先生。


「なれば、呪文詠唱などの制限でコストを最大限軽くすればよいのじゃ」

「そうですね。それと、おしっこに限定しないで水に関わるもの全体をコントロールできるようにしておくとより便利かもしれませんよ?」

「それは……かえってコストがかさむのではないかや?」

「乾燥地帯のレンジャースキルにですね……草食動物のうんちから水を搾り出すテクニックがありましてね……」

「ヒェッ」


 恐るべきその技法に慄くシア。


「なるほど、それをコントロールして空中に集めて水質浄化をかけるのだな」


 冷静に恐ろしい提案を口にするセフィアちゃん。


「どれだけ水質を浄化しようと、器は汚いままですからね。コントロールするアイデアは先人の誰かがすでにやっていたかもしれません」

「なれば、その先輩を探し出して良い方法を聞ければ完成じゃな」

「なんや汚いなぁ」


 こんな風に研鑽したり発案したりして、実際に試すのが魔法授業の醍醐味だ。


 それはともかくとして、乾燥地帯には絶対行かないようにしよう。

 そう決意する私なのであった。


「それでな、もう一つ思いついた案があるのじゃ」

「なになに?」

「お腹の中のうんこをのぅ、転移で取り出して任意の場所に捨てる術など作れないものかのぅ」

「そうですねぇ。転移魔法が上級な上にコントロールが未熟だと自身の内臓も同時に転移させてしまいかねないので、先生として、試す事を禁じますね」

「ヒェッ」


 ……あぁ、これ絶対今朝の出来事が原因なんだろうなぁ。


 ごめんねシア。


 シアも大きな方我慢してたんだね……。



 そんなこんなもありながら。

 給食の時間も終え、お昼休み時間。



 まったりと机でお昼寝していると――。


 なにやらとてもいい香り。


 窓際を見ると。


 アリスちゃんが紅茶を片手に一服していた。


 ちなみに、変身前のアリスちゃんはとても小柄で華奢な美少女。なので、窓際で紅茶を飲む姿はとても見映えする。


 そして、そんなアリスちゃんと一緒に紅茶を嗜んでいたのは――。


 透明な羽を生やした掌サイズの女の子。


 上質な蜂蜜を思わせる金色に煌く整った髪。エメラルドにも似た輝きを宿す美しい碧の瞳。白百合の花弁の如く透明感のある透き通るような白い肌。健康的なその唇の色はまるで桜の蕾にも似て――。

 草原に咲いた一輪の花のように可憐な、スレンダーで華奢な体つきの少女。


 彼女の名はリルルリラ・スピンブロッサム。


 純族に分類されるフェアリー族の少女だ。


 フェアリー族の特徴はなんといってもその大きさ。

 掌の上に乗せられるその体躯は、まるで小動物。

 ついつい愛でてしまいたくなるような、可愛らしい、とても儚く小さな種族だ。


 その大きさゆえ、レムリアースに住まう人族の中でももっとも脆くか弱い。

 戦闘には不向きとも言える種族だが、魔法や知力、感覚に素早さ、そしてその小ささゆえの隠密性から斥候などにとても役立つ。

 ただし、その明るい性格から、暗殺などには不向き。とても優しい種族なのだ。


 ちなみに、ランニングの時は先生の肩の上を飛んで、疲れたら先生の肩に掴まって休んでいる。

 長距離飛翔の訓練になるらしいんだけど、掌サイズのフェアリー族に、他の種族と同様の距離はなかなか厳しいものがあるようで。

 それでも健気に必死に飛び続ける彼女の姿は、とても可愛らしくどこかほっこりする。


「ど~したの~?」


 美味しそうに紅茶を飲んでる姿をじっと見ていたせいか、リルルちゃんがこちらに気付いてパタパタ飛んで来た。


「ミリアちゃんも、紅茶のむ~?」


 お茶会のお誘いが来た。


「いいの?」

「もちろんだよ~。ね?」


 主催者らしいアリスちゃんに問うリルル。


「うむ。来るがよい」


 相変わらず、可愛らしい見た目に似合わない覇王口調のアリスちゃん。


「それじゃあ、いただいちゃおうかな」

「お一人様御案内なの~」


 パタパタ陽気にヒラヒラ飛ぶリルルちゃん。

 可愛らしい。その愛玩動物を思わせる小さな姿にほっこりする。


 ちなみに、アリスちゃんとリルルちゃんは大の仲良し。

 一番大きくなれるアリスちゃんと、一番小さなリルルちゃんのデコボココンビは実際、白兵とサポートというバランスでよく機能している。

 相手にすると中々に厄介な。というか、かなり強力なコンビの一角だったりする。


「あ、私ティーカップとか持ってきてないや」


 しょんぼりする私に。


「なれば、我が」


 どこから取り出したのか、机の上の豪華なティーカップセットが一客増えている。


「これ、収納魔法?」

「うむ、我の体格の都合上、道具の取り出しや早着替えは必須となるのでな」

「なるほど~」

「見て見て~、ブランド物のいい奴なんだよ~」


 とても豪奢で綺麗な花柄デザインのカップだ。


「良い紅茶はやはり、良い食器で嗜まねばな」


 確かに、とても良い香りだ。


「私のママの出身地の名産品なんだよ~」


 フェアリー族の住む森で取れる茶葉かぁ……さぞ美味しい紅茶なんだろうなぁ~。


「飲むがよい」


 アリスちゃんが上手に注いでくれる。


「ありがと~」


 一口いただくと――。


 上品な香りとどこかコクと甘みのある不思議な味わい。


「マブレフの乳飲料プフェを入れるとよりコクが出て美味しいんだよ~」

「果実を絞ってみるのもありかもしれん」

「そのまま飲んでも、加糖果実煮ピュルレとか入れてもいい味するよ~」

「ほぇ~」


 なんだか体中に精気がみなぎるような、そんな感覚がする。


「マナが豊富に含まれているらしいからね~。体力回復にも効果的らしいよ~」

「古来より、戦場の最前線で一戦が終わり疲弊するたびにこの茶葉にてお茶会が開かれたとされるほどの一品らしい」

「確かに……疲れがなんか飛んでく」



 俺、昔さ。ゲームとかでさ。食べ物とか飲み物で回復すんのっておかしくね? って思った事があったんだ。

 もちろん戦闘中に食べたり飲んだりするのが不自然だって意味なんだけどさ。

 けど、今ならわかるぜ……。

 これはマジで回復するわ。


 疲労がポンと飛んでいく感じを味わいながら、紅茶タイムを楽しんだ。



 で、五時間目。


 今日は小説『ディグラルの冬』を読んで国語のお勉強。

 この作品はマジカルオーブチャンネルでドラマにもなった名作で、約三百年前の史実を基にした歴史小説だ。


 聖獣歴752年『ディグラルの冬』と呼ばれる大戦があった。


 四季にさえ例えられる程に波乱万丈な人生をおくったディグラル王の『冬』の時代。

 復活した妖魔との一年以上にも渡る長き戦争。

 そんな、もはやおとぎ話にさえ近い形で語られる程に、過去の歴史としてのみ伝えられる戦。

 この戦争の大きなポイントは、多くの若き命が散っていった非道な作戦にある。


――学徒動員。


 十三で成人可能とはいえ、二十歳にも満たない若人達が大勢、学徒兵として戦に参加した。

 彼らが命を賭したおかげで“陽動”の計は見事に成功し、これにより、主戦力は敵陣への侵入を果たし邪悪なる魔を封じたのだ。

 そして平和は取り戻された。


 レムリアースから妖魔のほぼ全てが駆逐された、まさに英雄的な物語。


 けどその裏には、死闘の果てに命を落としていった無数の学徒兵達がいた。


 内容は、その勇敢にも散っていった名も無き学徒兵こそが主人公の恋物語で、戦争シーンは一切無い。


 戦争初期に村ごと妖魔の集団に襲われた少女ニクス。

 彼女は兄弟と両親にかくまわれて一人生き延びた。

 当時、非戦闘民族である兎人クニークルスは力無き無能の民として弱い立場にあった。

 その上、家族を犠牲にして生き残ったニクスは、戦わずに逃げ延びた臆病者、家族を見殺しにした恥知らず、臆病者の残りカスと罵倒され続けてきた。


 学徒動員に先駆け、ただ戦へいくために努力する少女ニクスを、主人公アーウィスは「そんな理由で無駄に命を投げ捨てるな」と叱責する。


 どうせ戦うなら、生き残るつもりで戦おうと。


 もし、生き残る意味や理由が無いと言うなら――。


 そして、想いを伝える主人公。


 二人の一夜限りのラブロマンスが始まる。


 どうせ明日、死ぬ命。


 渾身の告白からの――。


 本来の小説やドラマではグッチョグチョの塗れ場があったりするのだが、教科書版では省略されている。


 で、結末は――。


 学園の小高い丘に残された古びた慰霊碑。時は流れ、刻まれた字も今は風化していて読めない。


 英雄の名は残り、語り継がれたが……この戦で誰が生き残り、誰が死んだのか――歴史には記されていない。


 最後は、生まれ変わりのような名も無き学生、二人の男女が、その慰霊碑を見上げ、平和を願うシーンで幕を閉じる。


 オーソドックスで捻りの無い物語だが――。


「……泣けるのじゃー」

「うむ、何度見てもディグ冬は尊いのぅ……」


 シアとナタリーがおいおいと涙していた。


「悲しい時代なの~……こんなのってないの~……可愛そうなの~……っ」


 涙を零すリルルの顔をハンカチで拭いてあげるアリスちゃん。


 二人は本当に仲良しさんだ。


 ちなみに、この物語の主人公とヒロイン、彼らの修行した場所こそが今では、パパさんの卒業した名門校、フロス・コルリス魔導学園だったりする。


 私もほんのりと涙を流しながら物語を熟読していた。



 こんな感じで、平和な授業が続く。



 そして――今日も今日とて、楽しくも厳しい戦闘訓練が待っているのだった。



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