第17話「個性豊かなクラスメイト達」


 今日の四時間目は算学の授業。


 算学は、バインバイン巨乳でスタイル抜群。黒髪美人の牛人族トロヴァーシュ。ナフベル先生の時間だ。

 牛人族トロヴァーシュは大柄でその角が特徴的な種族だ。もちろん牛耳牛尻尾で他は普通の人間と変わらない。


 ちなみにナフベル先生はうちのクラスの顧問でもある。


 そんなパワフルな種族のはずのナフベル先生。

 どうして算学の教師なんかをやっているのかというと――。


 鍛えても種族に似合わず体力が低めで、賢さが抜群に高い特徴であったため、しかも魔力もそれほど高くないので冒険者や騎士系は諦めて得意な算学の教師になったのだそうな。


 それでも途中までは戦士の道を目指し修行に励んでいただけあってかなりパワフルで強力な白兵系ファイターらしい。


 で、顧問の先生が基本的には運動の授業とHRを受け持ってくれるのがこの学校のシステムだ。


 そして何らかの教科を受け持つ先生は、たいていどこかしらのクラスの担任でもある。

 つまり、特徴的なギャル語を繰り出すあのアゲアゲ系エルフのロベリパ先生もどこかではクラスを持っている、という事になる。

 ……恐ろしい話である。どんなクラスになっているのやら、想像するだけでガクブル系案件だ。


「ようし! では同志諸君。これより算学の授業を開始する。一同起立。礼!」

『よろしくお願いします!』


 ちなみにナフベル先生。元騎士団志望だけあって、実に軍隊的である。


「それではカタリナ」

「はっ」


 敬礼しながら立ち上がったのは、純人族のカタリナちゃん。

 本名はカタリナ・タウザー。


 ビン底眼鏡に黒髪ダブル三つ編みお下げがチャーミングな女の子。

 口調はちょっと変わってるけど、眼鏡をはずすとすっごい美少女さんだったりする。私にはちょっと劣るけどね。


「では、くくを1の段から! 暗唱、始めい!!」

「はっ! やらせていただくであります!」


 ちなみに掛け算はやっぱり暗記から始めるみたい。こっちの世界でも同じなんだね。


「いんいちがいち! いんにがに!! いんさんがさん! いんしがし!!」


 一の段は簡単だよね。さぁ、二の段から難しいぞ~。大丈夫か~?


「ににんがし! にさんがろく!!」


 実はカタリナちゃん。戦闘系はちょっと苦手なんだけど、知力でのサポートとか奇策を考えるのが上手い子なんだよね。

 知将タイプっていうのかな? 後、実戦が苦手みたいで、その対策として、援護系の支援サポート魔法やゴーレム作成系の魔法なんかを得意としているみたいなんだよね。


「くろく……ごじゅうし! くしち……ろくじゅうさん!? くは……しちじゅうに! くくはちじゅういちであります!」

「ふぅ、さすがだぜぇ」

「あぁ、聞きほれるくらいにカタリナのくくは完璧じゃい」


 カタリナちゃんのお友達、東方面の訛りがちょっと強烈な、癖のある喋り方をするエミリーちゃんとナタリーちゃんが褒め称える。


 ちなみにエミリーちゃんは、本名エミリオ・トーガス。いつも可愛らしい帽子をかぶっている紫髪のシングル三つ編みお下げの女の子。

 小人族ショーティだからみんなよりかなり背が低い。その分とっても可愛らしいんだよ?

 けどね……口調がね。


「うむ。よくやったぞカタリナ。他の者もそらんじられるよう暗記するんだぞ」

「おうよ! ならば次はオレの番じゃい! やってやるぜぃ!」


 先生の言葉に返すエミリーちゃん。完全に男の子の口調なんだよね。


 ボーイッシュというか、無理して男の子ぶってる感じで別の意味でちょっと可愛い。


 ちなみにエミリーちゃんは魔法とか知力系の事は苦手だけど機敏さと感覚に優れている。

 見た目どおり力も弱めなんだけど、その素早さを活かしたトリッキーな二刀ナイフの早業は他を圧倒する。


「エミリー。お前、そういって前回は一の段さえダメだっただろう。確実に覚えてからにしなさい」

「えぇ!? そりゃないぜぇ」

「がっはっは、叱られおって。ならばわしじゃい! このナタリア・トラマリエル様に任せるがよい」


 若干シアと口調が似ている古風な感じの喋り方をしているこの子はナタリー。

 短めのツインテールが可愛らしいオレンジ髪のドワーフ族の少女だ。


 ちなみに、彼女の使う口調が本来は正しい東ドワーフ訛りであり、一人称がわらわのシアは本来なら邪道にあたるらしい。

 喋り方はこんなだけど、三人とも可愛らしい美少女系声優さんボイスなんだよね。特にエミリーちゃんとナタリーちゃんなんか超小動物系入ってるし。見た目も可愛いし。もったいないね。


「ほぅ、ならばナタリー、やってみよ」

「おうよ! いんいちがいち! いんにがに! いんさんがさん!」


 こうして、掛け算のくくの勉強をメインに今日の算学の授業は進められていくのだった。


「さんごじゅろく! さぶろくじゅうしち!!」

「違う、やりなおし! 三五は十五、三六は十八だ」


 まだまだ彼女らには早すぎるようだ。




 そしてお昼!



 今日のメニューは!


 牛肉と鎧鱗魚のカレーっぽい奴マブレフアン・コンゾブリガン・スパチーネ

 三色の苺っぽい奴の盛り合わせトランベリルン・モルクリェ

 三食甘幼虫プルカゴルミム七色滋養葉セブサンレーファ生野菜サラダっぽい奴モルクリェ

 白い柔らかいパン系の物質グランマン・ブロッシェ


「うむ、やはり魔獣グルメには叶わんのぅ」

「なんじゃとぅ!? シア、お主、魔獣なんちゅう高級食材食べよったんか!」

「うむ、昨日ミリアの家に魔獣が出てのぅ」

「ひぇぇぇ……それでよく生きておったのぅ」

「まぁ、ミリアのパパぎみがのぅ」


 何気にシアとナタリーは時々仲が良い。


「でも三食甘幼虫プルカゴルミムも美味しいよぉ?」


 隣にはもっしゃもっしゃと、生きたままの生の三食甘幼虫プルカゴルミムを七種七色の葉っぱ達と一緒に頬張るララちゃんの姿。


「うげぇ……オレはちょっと……コレは無理だぜ」


 エミリーちゃんも苦手な御様子。俺もです。


「なんや? ほんならうちが喰うたろか?」


 謎トレードでティエラちゃんにお願いするエミリーちゃん。




――ちなみに俺の場合は。




 いつも通り、私ちゃんが大変美味しそうに平らげてくださいました。


 生きたままの生の方が食感もグミグミしてるし、甘さもクリーミーなのだそうな……ひぇぇぇ……。


 そんなこんなで給食も終わり――。




 お昼休みだよ~。


 一応前世の学校と同じく。給食の後にはお昼休みの時間がある。


 ボールみたいな弾む球体をもってスポーツ的な娯楽に興じる者、そんな時間さえも体を鍛える事に費やす者、様々だ。




――で、俺の場合はと言うと。




 今日はまったり、ベンチに腰掛けて日の光を浴びながらボンヤリしていた。


 たまにはそんなまったりタイムも必要だよね。



 というかね。



 ずっと私ちゃんに体明け渡してると疲れるんだわ。


 たまに俺がでてきてこうして、のへ~っと休んだりする訳。


 なんで、大股開きでグデ~っと、実にはしたない、お友達には見せられない格好をさらけだしちゃってたりしてる訳ですよ。



「ふぇ~……腹の中にアレがいると思うと……うぷっ……マジきつい……」




――え~? 美味しいのにぃ。




 虫食だけはマジ無理っす。




 そんなこんなで、仲の良い友人と離れてたまには個人の時間を楽しんでいたその時だった。



「うわ~ん、誰かとってよ~」


 子供がギャン泣きしていた。


 大きさ的に二号生くらいかな?


 どうやら遊んでいる内にボールが屋根の上に乗ってしまったようだ。


 ……いや。めっちゃ高いんだけど、どうやったら届くんだあんな所に。


「お前がスーパー風圧力場エア・ブーストキックなんてやるからだろ~。責任取れよ~取って来いよ~」


 犯人であろう生徒に無理強いをする二号生っぽい子達。


「ちゃけば。これ無理系案件だしぃ、超あぶいから諦めね?」


 犯人は独特な口調をしていた……この子絶対ロベリパ先生のクラスの子だ。


「アレ、ボクの私物~」

「あ~あ、どうすんだよ~」

「そんな風にわちゃられても……ガチショボ沈殿丸でヴォイ泣き一歩手前なんすけどぉ……マヂでメンヘルわぁ」


 反省の色さえ見せないギャル系犯人を取り囲む二号生数名、これはまずい……そこへ!


「なんじゃいなんじゃい! どうしたガキども!」


 賑やかトリオこと、キャラが濃すぎる三人組、ナタリーちゃん達が現れる。


「お姉ちゃん達、あのボール取れる?」

「んん~? ボールじゃとぉ?」

「高いぜありゃぁ」

「どうやってあんな高さまで上げたでありますか……」

「こいつがトリプルブーストで蹴りやがったんだよ」

「マジさーせんしたぁ~」

「ふぅむ……この年でトリプルブーストとは、中々の才能でありますな」

「ならば、ここは上級生たるわしらが手本を見せねばのぅ」

「本当?」

「おう、オレに任せとけ……っと!!」


 エミリーちゃんが風圧力場エア・ブーストジャンプで跳躍するも――全然届かない。


「ガチしょぼくない?」

「うるさいわいっ」


 この学校、屋根高いからね。


 彼女らはまだ空中二段ジャンプも、多段エアブーストジャンプもできない。

 実はブーストジャンプの派生技は難易度の高い高等テクニックなのだ。


 機敏と感覚が特定以上で、感覚というかセンスが優れてないと難しい奥義とも言える技で、才能が無ければ習得は難しいため、大人になってもできないという人は案外多い。


 特に混じり気の無い方々。


 ピュアと揶揄されることもある、純人族、エルフ、ドワーフ、小人族ショーティ、巨人族辺りは非凡な才能無くしてありつけない世界だと言う。


 ちなみに、獣人側からピュアと言うと若干差別的ニュアンスになるので注意が必要だ。


「むぅ、どうするんじゃぁ? あれじゃあ手も足もだせんわい」

「こうなれば、アレをやるしかありますまいっ」

「さすがカタリナだぜぇ! 何をする気じゃぁ?」

「こうするのです! けぇぇぇーっ!!」


 気合一閃! 両手を振り回し、魔法を放つ。


 威力の小さめの魔力の塊が飛び掛り、ボールの付近にぶつかり激しい閃光を発生させるものの――それだけでボールに振動さえ与えられない。


「く、我輩の飛び道具ではダメなようであります」

「まぁ、アレ以上威力をあげると3級制限にひっかかって違反行為になるしのぅ」


 ちなみに3級というのは魔法の最下級にあたるもので、通称生活魔法と呼ばれる。こういった比較的危険の少ない、生活に役立つ程度のものまでは無免許や無許可で使用が可能だ。

 一方、2級からは戦闘に用いられるレベルの危険な魔法になってくる。これらは免許とか資格を得るか、よほどの状況で許可が無ければ、国法違反により、即処罰の対象となる。もちろん正当防衛など状況にもよるが。


「ふふ、我輩に秘策があるであります」

「そ、それはどんな方法なんじゃぁ!」


 で、彼女らが編み出した方法。それは――。


 ナタリーがエミリーをかついで肩車してブーストジャンプ。そこからさらにエミリーがブーストジャンプをするという可変型二段ジャンプという作戦のようだった。


「うぉぉ、なればやってやるわい! おりゃぁぁぁ!!」


 勢い込んでブーストジャンプを試みるも、重量オーバーでやや高さが足りない。


「ど根性!!」


 ナタリーちゃん必殺の最終手段、お尻から火炎放射を発するも推力にはならず。

 ……っていうかね。お尻から放出するっていう制限も出来ないわけじゃないんだけどね……だからってさぁ。お下品だよね?

 ただまぁ、アレ、知らずに背後とか取って油断してると不意打ち気味に決まるから結構戦闘用の技としては優れてるんだよね。っていうかそれ二級レベルじゃない? 違法行為だよ?


 まぁ、それは置いておいて。


「ならばこのオレが! 行くぜ!!」


 肩車状態からの二段ジャンプでエミリーちゃんも宙を舞う――が、不安定な足場ゆえ威力不足。


 背の低さもあってギリギリ届かず。


 私なら多段ブーストと空中二段を併用すれば届くかな。


 しょうがない、ちょっと手助けしてあげますか。


 と、そんな所へ。


「うぬら、何をやっておるのだ?」


 独特すぎる覇王口調の少女。


 背丈は私よりちょっと低め。長めの金髪ポニーテールが魅力的な可憐な美少女。アリスちゃんがやってくる。


 彼女の名はアリスティル・オーガスマイト。私のクラスメイトの一人だ。


 純人族……ではあるんだけど、ちょっと特殊な出身の子だ。


 彼女の両親は巨人族と人族。つまりはハーフという事になる。


 巨人族の女性と純人族男性の結婚という特例的な珍しい愛の果てに生まれた彼女は、巨人としての能力を継承しなかった。


 こういう場合、獣人族とかだと、ロストと呼ばれ蔑まれる事がある。


 まぁ、彼女の場合は巨人族だったから、そこまで差別的な対応はされなかったらしいけどね。


 そしてここからが肝心だ。


 ロストの中には、稀に先祖帰りとも言える変身能力を持つ者が存在するのだ。


 つまり――。


「ふむ、あそこに乗っているボールを取ればよいのだな? 我に任せよ」


――巨人へと変身する事が可能なのだ!


 彼女は一瞬で制服を脱ぎ捨て、全裸になると。


「ふんぬ!!」


 気合を込め、全身を巨大化させる。


 その姿は見る見る内に大きくなっていき、18足踏レノリ程の高さへと変化する。


 そして――。


「ぬぅんっ!!」


 その巨体に似合わぬ俊敏さでブーストジャンプ!


 あっという間に上半身が屋根を越え、その指でチョンとボールを突くと――コロリとボールが転がって落ちた。


「うわぁ、ありが――」


 そして二号生達の声が一瞬で停止し……。


「ぎゃぁ!」

「怖ぇぇ!」

「化け物だぁぁ!!」


 変身後のアリスちゃんの顔を見て怯えだすのだった。


 アリスちゃん。普段は可愛らしい顔立ちしてるのに、変身後はなんていうか、ゴリラみたいなマッチョ顔になっちゃうんだよね。


「ぬぅ……」


 しょんぼりしながら元の姿に戻るアリスちゃん。


「こら、ダメでしょ~。助けてもらったんだからありがとう、って言わなきゃ。怖がっちゃダメだよ~」


 私が間に入ってフォローに入る。


「うむ、そうじゃそうじゃ! アリス殿はのぅ、こう見えて心の繊細なお方なんじゃいっ」

「心優しき巨人なんだぜぇ?」

「見た目はちょっと怖いかもしれませんが、心気高き巨人さんでありますぞ?」

「うぬら……」


 元の可愛らしい少女姿に全裸で戻ったアリスちゃん。


 それを見て。


「そ、そうだよな」

「アレはアレでたくましくてちょっと格好よかったかもしれないしな」

「味方なら頼りになるね」

「ガチ感謝の極み。テン上げ爆盛りなんすけどー! ウェイ!」


 こうして、一瞬は怖がられたものの、二号生達と仲良くなったアリスちゃん。


「うぬ、この大きさの時は乗っかられても……まぁ軽いから持ち上げられるな」

「パワフル~」

「さすが上級生~」

「ねぇ、何食べればそんなに大きくなれるの~?」

「むぅ、そうだな。好き嫌いしないで何でも良く食べる事だな」

「ガチで? 三食甘幼虫プルカゴルミムも食べなきゃダメ系?」

「そうだな。好き嫌いはよくないな」

「あ~し、アレだけは無理ぽよなんよねぇ」


 仲間がいたみたい。やっぱアレちょっとやだよね?


「ブニブニしててブチュってなるのがキモイ」


 わかりみが深い。


「オレもあれはちょっとなぁ」

「実は我輩も」

「まぁ、わしも好んでは食わんのぅ」

「ぅわぁ、だから届かなかったんだぁ」


 ギャル系幼女、何かを悟る。


 けどな。嫌いだけどできる奴もここに……ってああそうか、俺の場合は私ちゃんが好んで食ってたな。

 実は栄養食なのか? アレ。


「一杯食べて、大きく育つのだぞ?」

「おねぇちゃんみたいに?」

「うむ、我のようにだ」

「あんなにデカくなれるかなぁ」


 いや、変身後の方は無理だと思うよ?




 そんなこんなで、ほんわかまったり、放課後休みは過ぎていくのでした。

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