第15話「筋肉筋肉! そして魔法!!」


 そんな訳で、私の名前はミリエラ・スターフィールド。10歳の女の子!


 なんだけど――実は俺、異世界から転生した元38のオッサンなんだよね。


 別に可愛い子ぶって演技してるつもりはないんだ。3歳まで過ごしてきた記憶、通称私ちゃんが心の中にいてくれるおかげで、タッチ感覚で入れ替わる事ができるんだよ。


 まぁ、多重人格とかって訳じゃなく、自分の中のもう一つの仮面。みたいな感じだ。



 で、そんな私のお友達が――。



 狸族のララちゃん。狸耳狸尻尾がプリティなほんわか系眼鏡っ子。

 茶色いボブヘアーがチャーミングな、ちょっぴり発育良さげな将来有望ボディさんだ。


 そしていたち族のシア。金髪のツインテールが魅力的な小柄スレンダーボディの女の子。

 のじゃロリ口調が特徴的なキュートガールだ。


 そんな仲良しトリオの私達。


 いきなり凶悪ゴーレムとの対戦というトンデモ訓練をやっとこさクリアしてテンション爆あがりしてたのも束の間。


 魔獣といきなりエンカウント! 突然の実戦にガクブル状態で何も出来ず。

 はしたなくも失禁状態でもうダメぽ状態!


 そんな所をパパが助けてくれて……。



 強くなったと思ってたけど世界はまだまだ全然広くて――。



――ぶっちゃけ私達、念なしキ〇ア級のイキリうぬぼれ状態でした……。



 まるで某漫画の暗殺一家の親父さん並に強いパパの怪物じみた強さにびっくりしていたら、なんとメイドさん達も暗殺一家の執事ども級!?


 やばい勝てる気しない……もうだめだぁ。おしまいだぁ……。


 そんなこんなでしょんぼり気分のお眠りタイムだったけど、目標をさだめて気分を切り替えて!



 エルデフィア転生記! 第二章! はっじまるよー☆




 で、HRは終わって一時間目。


 相変わらずの運動タイムだ。


 延々と走って……までは一緒だったけど、今日はアスレチックじゃなく、全身を鍛える筋トレデイのようだ。


 みんなでダンベルみたいな重りを持ち上げたり下げたりしてる。


「っし、っし、ふんすっ」


 とんでもないへヴィ級ボリュームなバーベルを持ち上げている子が一人。

 そう、真紅の髪が特徴的な活発陽気ガール、猫族のティエラちゃんだ。


 汗が滴り落ちて、その体をテカテカとなまめかしく輝かせている。


 そして、相変わらずティエラちゃんの肉体は実によく仕上がっていた。


 滑らかなラインながらもキレッキレの三角筋と上腕筋。

 綺麗に六つに分かれた腹筋。きゅっと引き締まったウエスト。太もも、ふくらはぎ、その艶かしくも美しいカーブ。

 まだまだ平たいながらも、おっぱいがきちんと最低限には育ってるので、さすがに大胸筋はアレだけれど、スレンダーなポッチがビューティフル。


 眼福眼福である。


「お? なんや? さぼっとんか?」


 眺めていたらティエラちゃんに気付かれてしまった。


「相変わらず仕上がってますね~ティエラさん」

「せやろ~? 毎日毎日懇切丁寧に育てとるからなぁ~」

「よっ、切れてる切れてる」

「なんやミリア、ノリノリやなぁ」


 サイドチェストのポーズでサービスしてくれるティエラちゃん。

 なぜか筋肉を強調するポーズが一緒なんだよね。異世界転生者とかが伝えてくれたのかな?

 マッスルでビルダーな異世界転生者……なにそれこわい。


「そりゃ、フロントダブルバイセップスやで」

「いいねいいね。肩にゴーレム乗っちゃってるね~」

「お? ノリええなぁ。そりゃ、バックのダブルバイセップスや」

「背中に魔獣が宿ってる~」

「なんやもう、心地良いコール送ってくれるなや。楽しぅなってまうやんか」


 その後も、とても素敵な笑顔で色んなポージングをしてくれるのだった。


「ナイスポーズでーす」

「まったく、アホな遊びしとらんで、ミリアもしっかり鍛えや~」

「は~い」


 そんな感じでティエラちゃんで遊びながら過ごした。




 二時間目。


 魔法の授業。


「さて、もうみなさんは御存知かと思われますが」


 グルグル眼鏡の鳥族の先生。ニミラ先生が魔法の基礎的な部分を改めて説明してくれていた。


「人が大地に束縛されるように、神々は人に魔法を与える際に厳しいルールを与えました。神々の万能な力とは異なり、魔法は万能の力では無いようにしたのです」


 神話に伝わる伝承から入り。


「正確には、万能の力にも出来る代わりに、制限を設ける事に利を与えることにしたのです。神は矮小な人間が悪さできないようにこのようなルールを設けたとも、矮小な人間であるがゆえにその脆弱な身でも使用出来るようこのようなルールを設けたとも言われています。それこそが、制限と限定によるバランスシステムですね」


 この世界の魔法のルールを伝える。


 そう、この世界の魔法は、覚えれば誰でも使える訳じゃない。

 覚えた魔法を、自分なりに改造して身に着けて使うのだ。


「合言葉や魔法名の宣言。相手を指差す。掌を向ける。様々な限定を加えることでマナ消費の激しい魔法でも、ある程度消耗を軽減する事が可能です。もちろん、体内の魔紋容量の足りない方は、逆に消費を激しくする形で使用容量を削る必要がある場合もあるでしょう」


 この世界に生まれた人間は基本的に魔力を持つ。

 けれど魔力量は各人ごとに大きな差が生じる。


 その差が大きく出るのが、この魔紋に登録する際の容量だ。


 例えば、魔力ランクCの人間には100の容量があるとする。


 ベーシックな制限の炎の矢なら50の容量を必要とするとしよう。


 残りの容量は50となり、同じ程度の容量の魔法を一個登録すると、他の魔法は使えない。

 覚えていても使えない。体の魔紋に登録しておかないと魔法は使用できないのだ。


 その不利を何とかするのが、この制限システム。神のさだめた限定ルールだ。


 不意打ちできないための安全弁説が強く根付いているが、容量やコストを度外視すれば詠唱無し、合言葉無し、任意の場所から不意打ち気味にぶち込む事も不可能ではない。


 もちろん、その場合は大量に容量を必要とするし、マナの消費も激しい上に、その分威力も低くしないと実現できない等、様々な問題を抱える事になる。


 さっきの炎の矢の例えで言うなら、不意打ち火の矢の必要容量は推定1000だ。


 めっちゃ魔力の高い奴なら実現できるかもしれないが、それ一個だけで他の魔法が使えないってのはちょっと応用が利かな過ぎる。


 ゴーレム訓練の時、アレが芸術品って言ったのはこういう事。

 様々な限定と制限を込めて、あの人の全容量一杯一杯に詰め込んで、他の魔法なんざろくに使えない状態で、あの訓練専用に魔紋を調整してくれているってんだから、ありがたいったらない。


 もちろん、魔紋の登録は一生に一回ではない。

 何度でも変更が可能だ。


 魔紋の契約は約10分程で変える事が出来る。


 だから、もし10分以上相手を見失っていたら、使う魔法もガラリと変わっている可能性もあるって事。

 こっちの魔法に対抗したメタなデッキに切り替えられている可能性もありうる。


 そう、この魔紋システム。カードゲームのデッキに例えるとわかりやすいかもしれない。

 魔力による魔紋容量という形で手札の枚数制限があって、手札は制限により様々なバリエーション変化が可能。

 オリジナルの制限でオリジナルの手札をバリバリ作って、自分の魔力容量ギリギリまで詰め込める。


 ただしルールがある。


 当然強い魔法はコストが重い。


 その重いコストを減らすために、制限と限定をかける。


 制限と限定により魔紋の使用容量を減らすこともできるから、本気で無限の可能性がある。


 例えば眠りの魔法を無色透明な気体で任意の空間に飛ばすことも可能だが、その場合はめちゃくちゃコストを高くするか容量を喰う仕様にするか、薄めて効果を弱める必要が出てくるわけだ。


 だから、魔法に名前を付けて宣言発動にして、掌を発動方向に向ける限定をかけて、射程距離を現実的な範囲まで狭めて、ついでに発生する煙に色までつければ、みんなおなじみのスリープクラウドさんのできあがりって訳だ。ここまで制限をかければCランクでも他の魔法を詰め込めるだけの余裕は充分にできる。


 こういったありていな組み合わせを学ぶことをレシピを学ぶ、って言う。


 もちろん、あえて一点特化にするって選択肢もありだ。


 この辺が他のよくある異世界とはちょっと違う点だな。


 平等に不利であり、平等に有利を得られるシステム。

 だからこそ、デッキの組みがいもあるし、手札の作り甲斐もあるってもんだ。


「みなさんには様々な有意義な定型制限レシピ制限方法アレンジなどについて教えてきましたが。今日教える制限方法アレンジはこれです」


 先生が掌に砂のような物を持っていた。


「媒体の使用です」


 教科書を読みつつ先生の説明を聞く。


「媒体というのは、物質の使用を制限として加える方法です。もちろん、使われた媒体を消失させるのも、残すのも設定次第なので自由です。使用即媒体消滅はかなり効率の良い制限になりますが、お金がかかりますね。知り合いは宝石を媒体に消滅制限をかけた事がありましたけど、その制限によるメリットは非常に大きい分、コストとしてのお財布へのダメージが大きすぎると嘆いて即座にやめていましたね。媒体としてどれだけ高価な、希少価値のあるものを使うかによって得られるメリットも変化するのが特徴です……特に使用即消滅設定は。使用しても消滅しない設定の場合は、持ち歩きが困難なものほどメリットも高いようですよ。デメリットの大きさがメリットの大きさに直結する。教科書で学んだ通りですね」


 この話を聞いて納得いった事があった。

 先日の四眼巨大黒毛牛狼ペルペルパンバギウス戦でメイドさん達が使っていた魔法についてだ。


 二人はタロット、フォーク、ナイフを媒体に魔法を使っていた。


 だからあんなにも凄い魔法を使いこなす事ができたのか。


「先生」

「なんですか? ミリアさん」

「媒体の使用の他にランダム制の付与とかも制限になったりするんですか?」

「その制限はあまりお勧めしませんね。かなり重たい制限になるので……容量の軽減で強力な魔法を複数所持できるようにはなるかもしれませんが、結果的に何ができるのかわからない、という不利益の方が強く出てしまうと思いますよ」

「……やっぱり」

「ん~……ミリアさんは誰かのそういった魔法を見てしまったんですねぇ」


 先生はしばしの間、逡巡すると――。


「じゃあ、どうせなので、教科書に載ってないレアな制限もいくつか教えちゃいましょう。もっとも、余りにもデメリットが強すぎて癖の強すぎる、あまりおススメできないもの。つまりは悪い例の限定アレンジシリーズですね」


 その後、先生からはお勧めできない癖の強い限定方法をレクチャーしてもらった。


 一日一回制限。使用後一時間使用不可。発動率50パーセントなどなど、余りにも限定的過ぎるものばかり。


「いいですか。制限を行うのは容量と魔法の威力、消耗効率とのバランスを兼ね合わせるためのものです。もし今回教えたようなレアな限定で作るとしたら、わずかに空いた空き容量を使うために、超限定必殺奥義みたいな、隠し技としてのみ使用するように。いいですね」


『はーい』


「超必殺の最終奥義……めっさかっこええやん」


 ティエラちゃんが一人燃えていた。


 こうして、二時間目の魔法の授業の時間は過ぎていくのだった。

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