第二章「日常編」

第14話「朝からダイナミック!」



「うぅ~……っ、トイレトイレ~っ」


 今、トイレに向かってクラシカルな洋館スタイルの廊下を疾走している美少女。


 それが私、ミリエラ・スターフィールドだ。


 腰まで届くプラチナブロンドの髪と輝ける白い肌。赤い瞳がチャームポイントな初等科五号生!


 人間の体に兎耳と兎尻尾な、兎族の可愛らしい見た目も推しの一つだねっ。



 そんな私がなぜこんな目にあっているのかというと――。




 昨日色々あって、お友達の二人と同じベッドで一緒に寝てたんだけど……。


 うかつだった。このお部屋用のトイレは一つしかないのだ。


 普段は二人とも、自分のお部屋の近くにある専用のを使っているんだけどね?


 今日の朝はララちゃんが我慢できなかったみたいで私用のを占領されてしまっていたのだっ。


 で、我慢できずに、一番近いシアの部屋のを使おうと走ってみたんだけど――。



「す、すまぬ。わらわも今大変な所なのじゃっ……」

「そ、そんなー……開けて~……」

「まだ無理なのじゃ~……もう少しなのじゃ~……」




 ちなみにこの世界。

 なんと水洗トイレが存在しているのですっ!


 なぜそんなオーバーテクノロジーがっ!? と思う方もいらっしゃるでしょう。


 結論から先に言うと、異世界転生者さんがやらかしてくれたのだそうです。


 自称、灰色の世界からやってきた方が、特定の遺跡に存在する地下水路を利用して街に再現してくださったのだそうです。


 そして、地下水路の無い場所にある家用にはこれ――。


 じゃじゃーん! 魔導石製精霊魔法トイレっ!


 今まさにシアとララちゃんが絶賛使用中であろう、どこからどう見てもTOT〇か! って感じの水洗便器だ。


 なんでも、水の精霊さんを召還し、ブツごと汚水を妖精界に転移させてしまうのだそうな。


 こんな汚物を送り込まれてさぞ迷惑なのでは? と普通は思うでしょう?


 でも、これがまた土の精霊さんや植物の精霊さん達からは大喜びらしいのだ。


 地面が元気になって花や植物が喜んでいる。との事で、向こうに大量にバラ撒いているのだそうです。


 そんな大発明をしてくださった冒険者、自称異世界転生者さんの本名は謎のままとなっており、感謝の気持ちを込めて、トイレの女神様とよばれているのだそうな。


 いるんやなぁ……。そんな方も。


 ただ、魔法を使えないと使用できないため、ごく稀にうまれる魔法不適合者。その人権を守る組合とかからは差別との声も上がっているらしいけど無視してしまえそんな声っ。


 水の精霊さんが好む青白い色をした大理石チックな構造物で出来た便座。


 ウォシュレットとか温め機能はまだ試作段階らしいけど、とても便利だ。


 ティッシュペーパーの開発にも成功している。凄いねっ女神様っ。


 それらが無いころは野ション野糞で濡れハンカチ、酷い時は紐みたいので拭いていたとか。


 ……まぁ、専用の魔法を身につけておいて水で洗って風で乾かすってスタイルが魔法使いにはデフォだったらしいけど。


 今では便利なことに、壁や便座の横に付けられている専用のオーブに触れる事で魔法が発動して水の精霊さんががんばってくれている。


――はずなのだが。


「く、今日のは強敵なのじゃ……ここはわらわに任せて先へゆけいっ」

「そんな格好つけてもただうんち踏ん張ってるだけでしょっ」

「うにゅ……さすがに恥ずいのでもう勘弁してほしいのじゃ……」


 シアの戦いはまだまだこれからのようだ。


 一方、私はもうゴール寸前だ。


 限界は近い。


 なぜならこの体――。




 前世の男の体と違って……おいおい、え? まさかそんな所から直に出るのかよぅってくらい、もうなんていうかね。



 我慢利かせずらいんだよぅっ。



 ぶっちゃけ、座ってするの面倒だし、漏れるまでの限界短いし。とにかく危うい。

 当初は感覚が全く違って粗相してしまう事も多々あった。



――まぁ3歳とかの頃はな。しょうがないよな。




 で、マジカルなトイレは希少なマジックアイテムなのでとても少ない。



 なので今から別のに向かって走っても間に合うかどうかっ。



 なら……もう、ゴールしてもいいよね?




 私は全てを諦めて、室内履きを窓の前に残し、そこからダイブした。




 落下する浮遊感に身をゆだねながら、とりあえずまずは空中でくるりと一回転。




 頭から落ちるように身を投げちゃったからね。まずは姿勢制御重点。




 あ、当然だけど、別に死んじゃうつもりとかじゃないよ?




 だって、たかが二階だもんね。この程度、この体なら――。




 ふわりと、白い清楚なワンピースがめくれて――はいてないのでいけないものが全開状態にはなるものの。




 特に気にせず、体の力を抜いて両足を開き、推力風圧エア・スラスターで衝撃を和らげて着地。




 風がやみ、足が地面に着くと同時に――。




――しょぱぁっ。




 それを解放した。




 液体がダイナミックに宙を舞い、光の反射で虹が生まれる。




「……ふぅ」




 実にすっきりである。




 朝勃ちとか無いから制御しずらくなったりしない点は助かる。




「……あ、しまった」



 ティッシュペーパー持ってなかった。

 足も直に地面に着けてしまった。




 とりあえず、前に聞いた方法で。


 まずは匂わないように消臭魔法を使って、ハーブの匂いのする魔法で誤魔化して……。


 あ、水の生成とゆるやかな風生成の魔法が無いや。


 拭けない。どうしよう。



 で、横を見ると――。



 パパも絶賛おトイレ中のようでした。


 マジカルトイレ少ないからね。しょうがないね。



――そして、すごく、おおきいです……。



「ん? なんだ? いくら欲しがってもこれはママ専用だぞ」

「いやいや、欲しがりませんから」

「勝つまでは?」

「何に勝てばいいんですか」

「ママの魅力に」


 などと親子で訳のわからない会話をしつつ。


 ブルブルとマイサンを振るうパパ。


 楽でいいよね。


「いやいや、勝てないですって、さすがに」

「いやいやいやいや、充分勝ってるぞ我が娘よ。今日もかわいいぞー」


 ビッグマグナムをしまってこちらに向かうパパさんの背後に……。


「……へぇ~、パパは私より娘の方が可愛いと」


 にっこり笑顔のママがいた。


「あ、いや……」

「浮気ですか」

「ち、ちがうんだこれは父と娘の……」

「浮気ですね」


 はわわ……。まさかの家庭内不和が勃発?


「待て待て~」

「いや、朝からマジでそれはやめて~」


 手加減しているのだろう。小規模な雷魔法を放つママと――。

 それを華麗に避けるパパの姿。


 いや、雷魔法避けるって何?


「おほほほほ、待て待て~」

「やめて~」


 仲良くじゃれあう二人の姿があるのだった。




 その後、私はローザさんに発見されて、ティッシュを渡され……というか、拭かれて。足も拭いてもらって、部屋へと送ってもらうのでした。




 そんなこんなで、今日も朝からてんやわんや。愉快な一日の始まりです。


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