第4話「今日から初等科五号生(2)」



「やれやれ、何を騒いでおるのじゃ。お主らは」



 部屋の入り口から声がかけられる。


 開かれていた扉のそばには、小柄な美少女が立っていた。


 明るく煌くオレンジがかった金の髪。腰まで長く伸びたそれを左右に結った、いわゆるサイドツインテール。

 雪のように白い綺麗な肌。怪しい金の瞳、血色の良い桜の蕾のように可愛らしい唇。小顔で整った愛くるしいお顔。

 もちろんそのお声は可愛らしいロリロリな小動物系美少女ボイス。

 丸いふわふわした耳はイタチ科のものらしい。可愛らしいふさふさした尻尾も当然生えている。


 彼女の名はシア。


 本名はシルティア・ムーンヴェール。


 その幼い見た目とはチグハグな、老人達が用いるようなお堅いニュアンスの喋り方をする。

 古風な語り口調が特徴的、つまり俗に言う、のじゃロリ、という奴だ。


 私の魔法や様々な勉学、芸術科目等の家庭教師である先生のお子さんだ。

 そんなオルディシア先生は母の親友で、食客として家に招いていたりする。

 なので、当然一緒に暮らしてきた訳で、シアは私の幼馴染で家族も同然の大切な親友なのだ。


「どうした。ほれ、服が乱れておるぞ」


 傍によって乱れた服を整えてくれる。

 ふわりと髪の毛から良い香りがした。


 とても近い。尊い百合百合シーンな訳ですが。

 私の目から見ると……美少女のお顔を間近で見れる訳ですよ、もうね最高ですよね。


 可愛らしいパッチリお目々とか、可愛らしいお鼻に、柔らかそうな唇……。

 もうね。たまりませんよ。じゅるり。



 うむ。実に尊い。俺のままだったら鼻血吹いてたかもしれんな。それくらいこう、グッとくるものがある。



「なんじゃ、顔が赤いぞ。熱か?」



 額に額を当ててくる。

 つまり目と鼻の先に唇ががが……っ。



「な、にゃっ!?」



 これ、もう狙ってますよねっ。

 このまま抱きしめて唇奪っちゃってもいいですよねっ?



 いやいや、ミリアさん。ダメですよ。

 ここはグッと我慢です。向こうはそんな気きっとないですから。

 ただの無邪気ですから。今攻めに転じるのは悪手です。抑えて抑えて。



 くぅぅ……前世さんにたしなめられてしまった。解せぬ。



 などと、私と俺とで脳内会話を楽しんでいる内に。



「できたぞい」



 制服は整えられたようだった。



 ちなみに、シアも同じような制服を着ている。

 ララ、シア、私。三人とも同年代なので、同じ学校同じ学年、しかも同じクラスなのだ。



 まぁ、パパが偉いからね。

 学校の理事長さんもやってるから、色々無茶が利くんだよね。



 ……うーん、これはこれで実にチートである。



「よしよし、今日も愛い奴じゃ」



 頭を撫でくりされる。



 実に心地よい。



「ん? ここか? ここがええのんか?」



 頭と共に耳を撫で撫でされる。



「ふにゅぅ……」



 心地よすぎて頭が溶けそうだよぉぉ……。



 そんな風にまったりと二人で愛を育んでいると。



「あ、シアちゃんずるい~私も~」


 と、ララちゃんが来て。


「お嬢様を愛でる会、会員ナンバー1番は私ですよっ」


 ローザさんまで加わる。


「ならママは名誉会長ね~」


 母様まで来て、三人で無茶苦茶頭と耳を撫でられた。



「んにゅぁぁぁ~……」



 頭溶けりゅぅぅ~。




 もみくちゃに撫でまわされるロリ美少女の姿がそこにあるのだった。




 なんやこの図……。




 で、そんなこんなで遊んでたら大分時間が経っていた。

 ので、急いで髪をすいてもらって、食堂へと向かう。




 うむ、髪がサラサラで実に心地が良い。




「それでは、いただきます」




 父様はお仕事らしく、今日は一緒じゃない。

 なので、私とシアとララちゃん、そして母様とローザさんとオルディシア先生。

 そしてこの館でがんばって働いてくださっているメイドさんや執事さん達と食事タイムとなる。


 さすがにみんな、優雅にご飯を食べる。

 わずかな所作でさえ洗練された動き……。


 そんな中。



 くっちゃくっちゃもぐもぐもごもご。



 隣で凄い勢いで食事に貪りつく少女がいた。



 そう、シアである。



 一人だけもしゃもしゃと勢い良く頬張って、ハムスターの頬袋のようにお口の中一杯に詰め込んでいるのだ。



 可愛い。



 じゃなくて、これ、大丈夫なのかな~って思って一度オルディシアさんに聞いてみたのですけど。



 『早飯早糞は兵の嗜み。貴方も、もし外を目指すのであれば、覚えておきなさい』



 と、窘められたのだった。



 つまり、ここで習う食事の作法はあくまで、王室や貴族との会食で好まれるマナーであり、シアちゃんが目指している何かとしてのマナーは別にあるんだなぁ、と納得したものだった。



 ……でも女の子がちょっとはしたないよね。



 可愛いけど。



 ちなみに私はゆっくりと、よく味わって食べます。

 素材に感謝です。



 ……愚かな前任者であった俺は早食いドカ食いを極めた結果デブになった。

 もう二度とあんな未来はごめんなんだ。

 この美しいボディを穢してはならない。

 だから俺は、食事中だけはできるだけ大人しくしている事にしているのだ。



 魚美味そう。じゅるり。



 それはさておき。

 今日のメニューは。


 魚っぽい奴コルプリエムニエルっぽい何かムリエロ

 牛肉のホワイトシチューっぽい何かマブレフ・デュッフェーレ

 三色パプリカっぽいのとトリーエンぺルマン・赤いレタスっぽい奴とレトゥルス・紫のトマトっぽいのが乗ったアン・トゥメー生野菜サラダっぽい奴モルクリェ

 果物の盛り合わせプリムン・モルクリェ

 パンにしか見えない物体クァウツィマン・ブレッフェ


 ぶっちゃけ、野菜とか果物は、前世の世界とかなり違う。

 魚も、よくわからんけど、多分前世の地球の魚と違ってる。

 ……てか、なんで頭に触覚付いてんだろなこの魚。腹の部分には触手付いてるし。

 野菜や果物に関しては、見た目は似てるけど色が違うとか、何かもう。凄い。


 皮が黒くて中が赤いパプリカっぽいのとか、青とか紫のパプリカめいた物体とか。

 レタスは赤いし、トマトは紫だし。葉っぱの部分が黒かったり形が歪んでたり。


 でも、味は美味しい。


 ってか、この前世で見た事のない丸いフルーツマジで美味いわ~。


 星葉樹の若甘丸果実コムッチョ・ニャンペだね。私も大好き。


 この魚も何か、マグロを煮た感じの肉々しい味がして美味い。


 マブレフってのも牛肉をちょっと硬くして、肉汁を超濃厚ジューシーにした感じだ。


 地獄沼の大将コルプリエね……私見た目が嫌いなんだよね。


 って感情が浮かぶものの、俺は平然と口にする。


 ええか。食事ってのはな。命を頂いているんだ。


 既に料理されてしまっている命を破棄するなんてな、命の冒涜なんだぞっ。


 世界の裏側にはなっ、食べたくても食べられないで困ってる人だっているんだぞっ。



 と、そういう時だけは俺の意思が表に強く出て食べるのだった。



 俺君、それ、三食甘幼虫プルカゴルミムトマトスープ系ルッチャンネを前にしても言える?



 アレは無理っす。イキってサーセンでしたっ。



 なぜか私さんの意志の方だと嬉々としてアレ食べるんだよな。訳わからん。



 命をね。頂いてるからだよっ。



 サーセンでしたーっ。



 などと脳内会話しつつ、食事をたいらげる。


 ちなみに、メイドさんもこんな豪華なの食べるの? って疑問に思う方もいらっしゃるかもしれない。

 実は我が家。王侯貴族向けのメイド執事の育成の場でもあるので、食べる行儀作法の他、食事の作り方、盛り付け方、片付けるに至るまで、何もかもを学ぶ事になっている。


 そう、料理も。なのだ。

 実はうちのメイドさんや執事さん。コックの免許も取るためにここで自分の料理も作る傍ら、自分で食べて勉強をしているのだそうだ。

 もちろん。食材は自分の給料から差っ引かれる。

 割に合わない部分もあるかもしれないが、三食寝床付きであらゆるメイド職、執事職に料理まで学べるという高待遇な環境なのだ。


 なので、良く見るとわかると思うが。

 高級品は分割購入で調理しているため、量が少なめの人とかもいたりする。

 特に果物や野菜はね。生で新鮮だからね。

 その分シチューっぽいのの液体部分が多めになってたりする。


 ちなみにメイドさんや執事さん達の一部は、私達の食事のサポート用? に後ろに立っていたりもする。

 後で食事するのだろう。きっと。


 というか、使用人と一緒に食事をとる、なんてここだけなのかもしれない。

 暖かい料理を一緒に楽しみたいという父様の考案したルールかもしれないし、意外といいとこのお坊ちゃんが礼儀作法を習いに来たりしているパターンとかもあるのかもしれない。

 今度暇があったら聞いてみよう。



 ちなみに、ここを卒業する際に合格点を取れれば、名のある貴族様や王族の家でも通じるレベルに至るのだそうな。

 凄いね、我が家。




 ……実に美味しい朝ごはんでした。




 そんなこんなで時間になる。




 私の甘々デザインなお部屋とはまるで異なる、ルネサンス調のクラシカルなデザインの廊下を出て。同様な雰囲気の、実に洋館って感じの階段を降りる。

 大きな扉付近にある靴箱。そこから内履き用の靴、スリッパみたいな物を脱ぎ、変わりに外出用の靴に履き替える。


 もちろん。紐を締めてくれるのも、内履きを靴箱にしまってくれるのもローザさんだ。



 貴族超便利。



 この時間なら、ちょっと急げば間に合いそうだ。



「行ってきます!」

「行ってきますね」

「行ってくるのじゃ」


 元気良く挨拶する私達に。


「行ってらっしゃいませ、お嬢様方」


 メイドや執事達の声が響き渡る。




 今日も楽しくなるといいなっ。




 そんなこんなで家を出る私。



 さぁ、今日は何が待っていますやら!


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