第一部
第一章「初等科編」
第3話「今日から初等科五号生(1)」
前世の記憶なんて普通は無い。
なのにそれを持って生まれてきたということは。
――きっと“幸せになれ”ということなのだ。
なぜなら、前世の記憶があるという事は、後悔の意識を持って、若い時間から人生を再チャレンジできるという事だからだ。
何も知らず、無駄に遊んでいた子供の頃。それを今度は努力に費やす事ができるのだ。
もちろん、逆にあえて、ただ自堕落にその時その時を遊んで生きるのもいいだろう。
つまりは全ては自己責任。けれどあらかじめ大人になってからの事を考えてリスタートできるというのは確かな強みなのだ。
そう、私は“やりなおす”チャンスを得たんだ。
体は異なれど、私は過去の知識を活用して新たな今を生きる事ができる。
次の人生という機会を与えてもらったんだ。
だから、私は――。
「いやぁ、今日からついに高初等部だねー」
「うん。そうだね~」
いつものお屋敷。我が家の我が部屋。
相変わらずフェミニンなお姫様ルームの中。
隣には、長い間一緒に住んでいた、幼馴染にして親友の姿があった。
彼女の名前はララ。
本名はラティエラ・サングレイス。
背は私よりやや高め。クラスでは真ん中くらい。
二次成長を迎えた柔らかなラインの体つきと、ほんのり膨らみ始めた胸。
肩まで伸びた茶色い髪に、可愛らしい狸の耳。肌や瞳の色はいわゆる日系カラー。狸っぽいふさふさした尻尾も忘れてはならない。
ほんわかした笑顔がよく似合うキュートな顔立ちの眼鏡っ娘だ。
この屋敷のメイド長の娘で、この若さでもうメイドの仕事を手伝い始めている。
実は今隣にいるのも、私の着替えを手伝いに来たからだったりする。
我が家は結構な富豪というか、良い暮らしの家のようで、ほぼ貴族に等しい生活をしていたりする。
まぁ、メイドがいる時点で御察し、なんだけどね。
「今年も一緒にがんばろ~ね~」
「うん」
「いえーい」
「わーい」
二人でこの世界式のハイタッチのような物をかわす。
「しかし、長いようで短いような、案外あっという間の人生だったねー」
「って、それお婆ちゃんとかが最期の瞬間に言う台詞~っ」
案外ツッコミ属性だったりする。まぁ、私がボケ属性なのかもしれないが。
とても良い子で、いつもほわほわしていて、実に心を和ませてくれる。
――あの後、私は懸命に学び、努力し、魅力以外の様々な能力を出来る限り伸ばすことにした。
理由は単純、ここは剣と魔法の世界だからだ。
いつ魔物に殺されるかもわからない、弱肉強食の世界だと思ったから。
まぁ、実際は結構平和だったりする事に後で気付くのだが、それはそれとして。
万が一に備えてあらゆる才能を伸ばして可能性を増やすのは悪い選択ではないと思った。
その結果、私は抜群の吸収力で魔法や文化について学び、体もできるだけ鍛え、いつしか10歳の誕生日を迎えていた。
それからさらに数ヵ月経った今、私は初等科の五号生として新学期を迎える事となるのだった。
「でも、今年が過ぎたら、後1年で卒業か。色々あったね~」
「うん、そうだねー……」
具体的に何があったのかは後々語っていくとして――。
クンカクンカ。
今は……ララちゃんの良い匂いを堪能する事としよう。
触り心地のいいゆったりとした白いワンピースを脱がされる。
美少女に服を脱がされる美少女の図。実に耽美だ。百合百合しい。
……あれから7年ほどが経ったものの、やっぱり私の中には俺がいる訳で。
普段は私、になりすますようにしてはいるんだけどさ。
時折ね。出ちゃうんだよね。俺が。
だって良い匂いなんだもん。しょうがないよね。
……私もそう思います。
うん、ご本人も了承してくれてるし、良いよね?
ララが私の脱ぎ終えた寝間着をしっかりと折畳む。実に手際が良い。
なので、私は今、全裸なう。
獣人族は基本、パンツをはかない。
なぜなら、尻尾が蒸れるからだ。
寝間着と室内着の際は下着をはかないのが獣人族のスタンダートだ。
休める時はしっかり休む。そのために、ストレスとなる尻尾の蒸れから解放されるべく、あえてはかない。
実に理にかなっていると思う。
一時期は、尻尾出しパンツも考案されたらしいが、脱ぐとき面倒、という理由であっという間に廃れたらしい。
はく時があるとすれば、外出着の時だけ。
土などの直接接触による病気予防と、枝などで切らないように何かをはくくらい。
まぁ、男性の場合はブラブラするものを抑えるためにフンドシがデフォらしいが。
そんな理由で女性ははかない。
ゆえに、全裸なう!
腰に手を当てて無い胸張ってポーズを取っていると……。
「何やってるの? ミリアちゃん……」
と、ジト目でこちらを見つめるララちゃんがいた。
「う、うん、胸の成長をね。鏡で見てただけ」
この年でつるぺったん。これはこれで普通なんだろうけど。少し心配になるよね。
「あぁ~、うん……。気にしないでいいと思うよ。ミリアちゃんは、可愛いから」
にっこり笑顔で頭を撫でられて、何か、うん、慰められた。
ちなみにララちゃんはすでに着替え終わっている。
黒っぽい暗色に、金の縁取りがされた、魔術師チックなデザインの、ケープを羽織ったワンピース姿。
ララちゃんには似つかわしくない色合いだが、高初等部の制服カラーゆえ致し方なし。
なんだかんだでララちゃんは可愛いので何を着せても似合うんだよね。
などと、全裸でララちゃんを見つめていると。
その手よりはかされるのは、いわゆるドロワと呼ばれるもの。
肌触りも良いし、履き心地も良い。
尻尾の所は穴が空いていて、はずれないようにヒモで穴をきゅっと締める。
ので、脱ぎづらい。
ゆえに、漏れそうな時とかは、わりかしやらかしかねない。
そりゃ廃れるわな、って感じ。
それはそれとして、ドロワ一丁というのもまた良いものだ。
もう見慣れてしまってるから興奮とかはまぁないけど、相変わらず可愛いな。
鏡を見やる。
……うん、今日も可愛いぞっ。
怪訝そうな表情でララちゃそがこちらを見ていた。
うっ……そんな目でみないでくれ~。
そろそろ俺は引っ込んで私にボディをお返ししてあげるからさぁ~。
そうこうして、ドロワ一丁なう、な姿で鏡に向かい謎ポージングを取っていると――。
「はい、お嬢様。お召し物ですよ~」
ローザさんが制服を持ってやって来る。
相変わらず黒メインの美しいメイド服姿が様になっている。
ララちゃんと同じ半狸人のはずなのに。スラっとしていて凛々しい。
髪は黒に近い茶髪のロングで、肌や瞳の色はやはり日系色。顔も整っている美人さんだ。
彼女の名前はローゼシア・サングレイス。
この屋敷のメイドを統括するメイド長、つまりはララちゃんの母親である。
元々母様の幼馴染で大の親友らしく、そのツテで我が家の手伝いを切り盛りしてくれているのだそうな。
長い間母様と学校も一緒だったらしく、魔法などの力量もけっこうなものだったりするらしい。
便利な魔法家具も全部使いこなせる万能メイドさんだ。
「さぁ、お嬢様。お着替えの時間ですよ~」
まるで人形遊びのように嬉々として私の着替えを手伝うローザさん。
昔からまるで変わらない溺愛っぷりだ。
両手を広げて十字架にかけられた前世界の救世主ポーズを取ってみる。
なぜかって? それは両手を広げて立っているだけでメイドさんが着替えさせてくれるからさ。
いや、貴族ってめっちゃ便利ね。
正確には貴族ではなく、この地区を統括する政治家、というか。
国家が複雑で詳しい説明は後にするが。
この獣人国家レムリアースは、君主制と共和制が混ざったような国のようだ。
中央にある首都ラティアルトには国王、というか帝王? ほぼ血統によらない、決闘により選ばれる王がいる。
それが一番偉い人。わかりやすく言うとね。
で、各地方を治めている、いわゆる小国というか、このレムリアースの領土内の各領が、小さな国のようにそれぞれ独特の制度を持って存在している。その中には君主制の地域もある。
で、私の家は、その領土、というか一つの小国内の全てを統括する、大統領というか、なんかそんな感じの政治家様の家らしく……。
しかもよほどの問題を起こさない限り、終身制で、短い期間で降ろされること無く続くみたいで……。
まぁ、超成功した政治家様の家。なんだそうです。
しかも、小国の王というか、結構広大な領土の長な訳だから……。侯爵令嬢とかに近い……のかな?
詳しい話はこれから歴史とかで習うのだろう。高初等科以下のメインは運動が多めだったので歴史関連はイマイチだ。
思い返せば、確かに昔から頻繁に貴族の家っぽい所に可愛らしいドレス着せられて母様や父様と一緒に御呼ばれする事も多かったし。
一度、王様っぽい方と謁見した事ある。
幼い頃は、そりゃあもうとてつもない程に成功した商会の主か何かだろうと思っていたのだけど……。
それ以上だった。
ちなみに、父様は元、そんな大成功した商会の主であり、政治家であり、その末にこの領土の長となった存在だ。
もうね。凄ぇ。
魅力だけチートかよ、って思ってたら、けっこう色々と他にもオプションくれてたみたい。
割と神待遇だよね。実に幸せである。
とか考えている内に、着替え終わった。
こんな楽を覚えてしまって、今後一人で着替える事ができるのだろうか。と少し不安になる。
ま、それはそれとして鏡を見やる。
「おぉ……」
あまりの美しさに声が漏れ出た。
ララちゃんとお似合いの黒魔術師チックなフード付きケープ&ワンピース。
それを纏うは……。
腰まで伸ばした白銀に近いプラチナブロンドの髪に、陶器のような白い肌。ルビーの如く美しく輝く真紅の瞳。
相変わらず整形を疑うレベルで全てが整いまくったパーフェクトフェイス。
そう、私、ミリエラ・スターフィールドというスーパー美少女が鏡に写っているのでした。
ん~、良いね。
自分でもナルシストが過ぎると思うけど、この子がこのまま成長したら絶対やばい。
この美しさを維持して成長したら俺もうおかしくなるよ。鏡に求婚しかねない。っていうかね。
――国が傾く。
そんな俺の感想を後押しするが如く。
「可愛い!」
「お嬢様~!!」
ぎゅ~。
「くぇぇ~」
二人に全力で抱きしめられる私がそこにあるのだった。
「く、くぇぇ……」
ちょっと……苦しい。
うん、わかりますよ。可愛いのはわかります。自分でもそう思いますもん。
けど、私、子供。力、もっと、加減……くぇぇ……。
「……くけぇぇ」
ブラックアウトしていく意識。
いや、わりかしマジでやばい苦しい。
「あらあら、今日はみんな仲良しさんねぇ。ママも混ぜろ~」
母様もいつの間にか加わってるしー。
ぎゅ~。
「くきゅぇ~……」
三人の愛が詰まった熱い抱擁は、私の体を容赦なく押しつぶし。
「……きゅぅ」
私の意識を遠い彼方へと追いやるのだった。
残念。私の来世はそこで終わってしまった。
「ミ、ミリアちゃん!」
可愛らしい、とてもキュートな声が耳元で聞こえた。
貴方は私の嫁ですか?
ここはハーレムですか?
「ママも、御館婦人様も、ミリアちゃんが死んじゃうっ」
はっ!?
落ちかけていた。
どうやら、ぽふぽふと二人を叩いて止めようとしているらしい健気なララちーの姿がやんわり見えた。
頼れるものはやっぱ親友だね。
あと少しでガチやばかったかもしれんからね。
「あらあら」
「大丈夫?」
「息は……よかった、あります」
「蘇生早くっ」
「はいっ。お任せを……では」
もみもみ。
「んッ……?」
なんか全身をまさぐられているような。
さわさわ。
「はぅッ……」
いやいや、どこ触って? お腹? 太もも――からどんどんと内側にってそこはッ!?
――にゅるん。
「ふにゃぁっ!?」
謎の刺激により、覚醒。
「あ、起きた」
「ちょ、い、今どこ触って――」
「覚醒のツボです」
しれっと真顔で言うローザさん。
「絶対嘘ですよねっ?」
まぁ、おかげで目は覚めた。
覚めたけどー……。
んぁ~……徐々に意識が鮮明になっていく。
頭がポケら~っと真っ白になっていく感じがちょっと気持ちいい。
絞殺プレイという奴があるらしいが。そんな感じだろうか。
――んぁ~……これは、ハマってしまうかもしれないイケナイ感覚だ。
癖になったらどうしてくれるんだまったく。
それはともかく、頭だけでなく、なんか腕とか脚もなんかシビシビする。
どうやら二の腕や太ももにある大きめの血管も思いっきり絞められていたようで、正座後の足のシビレみたいものが両腕と両脚に広がってくるのだ。
触られるととてもシビシビする。とてもヤバイ。
「……大丈夫?」
ララちゃんが心配そうに腕を掴んでくる。
「ふっきょぉ~!?」
触られたところが敏感になってるようでシビシビする。
足だけでなく全身に広がってくるから性質が悪い。
「ふにゅぅぅ……」
しばらくすると、なんとか治まった。
で、そんな私の姿を見てにやにやと微笑みつつ、取り囲む三人のお姿。
「は? え? な、なんですかっ?」
「ミリアちゃん……可愛いよぉ……はぁはぁ」
「けしからん。これは実にけしからんですよお嬢様」
「ふふふ、それー、総員突撃じゃー」
母様が弱ってる私にさらなる追い討ちをかけんと突撃命令をかけていた。
「い、いや、待って――ンにゃァッーーッ!?」
もうね。面白がって全身触ってくるし――ッ。
「ふっきょぉ!? ふっきょぉぉっ!?」
全身がシビシビすりゅのぉぉー、遊ばないでぇぇー。
「それそれ。どうや? ええんか? ここがええんか? ん~?」
怪しいエロおっさんみたいなノリで全身をまさぐってくるし。
「ミリアちゃんが可愛くて今日も幸せですっ」
もみもみ。
「ふぎゃーっ」
そこらめぇぇぇ!?
「お嬢様、あぁ、お嬢様、お嬢様ーッ」
さわさわ。
「ふきゅぁぁっ」
謎の奇声を発しつつ、ローザさんにいたってはなぜか太もも付近をメインで狙ってくるし。
にゅるん――。
「ふにゃぁぁぁーっ」
ってか、狙ってるでしょこの人ーっ。
いい加減に――。
「ふっかーっ!」
全力で威嚇した。
「ミリアちゃん可愛い……」
「お嬢様……これもう、良いですよね?」
なにがっ!?
「総員、戦闘配置」
効果は無かった。
「突撃ーっ」
「ふにゃーーーっ」
アッーーッ!!
――。
その後めちゃくちゃシビシビされた。
愛が……深くて……とても重いのです……。
くってりふにゃん、と倒れる私がそこにあるのだった。
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