第3話 養父へ抱く罪悪は
【
一度目の親睦会は、先入観が少ない状況で行われる顔合わせが主目的です。
入学試験の成績が発表されていない現状、私たち新入生は誰の息女か、誰の子息か、で勝手な想像をされる事が殆どだと思われます。
限られた時間で誰と交流するのか、それを判断する為には必要な想像でしょう。
故に、私が注目されないのは当然の事なのです。
私の保護者は上位者ではありませんから。
それでも、数人の騎士見習いは私に声をかけてくださいました。
この日の為に磨いた容姿は、無駄では無かった、と言う事でしょう。
私に声をかけてくださった騎士見習いの中に、有名な人は居ませんでした。
最初の親睦会は、騎士見習いは魔女見習いの下である事を実感させられる場でもあります。
優れた騎士見習いより、劣った魔女見習いが社会的な上位者である、と。
魔女や騎士の社会は能力主義です。
ですが、それは、狭い社会の話です。
魔女と騎士で構成された社会は、覆せない上下関係があります。
如何なる魔女と比較しても、騎士は下位者に該当します。
騎士は魔女の尊厳を守らないといけないのです。
その為に、何年も騎士見習いを続ける人でも、新入生の魔女見習いに頭を下げる必要があります。
それを怠った騎士見習いは、騎士になる事が遠のくでしょう。
実力主義、それは、特定の社会に限定された状況です。
全ての社会で、それが適応される訳ではありません。
そうでなければ、女尊男卑という、差別的な社会は存在しないのですから。
……。
親睦会は一日の後半から始まり、夕方に終わります。
親睦会から帰宅した私を保護者の
海斗は独身の男です。
恋人は現在募集中、との事です。
年は二十歳を後半らしいです。
「ただいま帰りました」
「おかえり」
挨拶を交わした後「親睦会はどうだった?」と聞かれた私は「可もなく不可もなく、でした」と素直に答えました。
「そうか」と呟いた海斗から「ごはん食べるか?」と聞かれた私は「親睦会で食べてきたので、今は必要ありません」と答えます。
親睦会は上質な食事を楽しめる機会でもあります。
裕福とは言えない私には大切な娯楽です。
夕食を済ますほどには、楽しめました。
自室に行った私は着替えを済ませます。
お金に余裕がない私は、魔女学校の制服を大切に扱わないと望まない形で目立ってしまいます。
それは品位を下げかねません。
魔女を目指すなら避けるべき事柄でしょう。
……。
海斗は私をどう見ているのでしょうか。
私はそれを度々考えてしまいます。
女の身分、それは私を養子にした海斗が与えてくれたものです。
この国は家系、と言う価値が低い社会です。
貧困家庭に生まれても魔女や騎士に成り得ます。
裕福な家庭に生まれても魔女や騎士に成れるとは限りません。
それでも、なりやすさ、違いはありますが。
魔法の素質がある女の子を養子にする事は珍しくありません。
魔女になった娘から養ってもらえるようになるかもしれませんから。
故に、魔法の素養がある孤児は人気者なのです。
私はそこに付け込みました。
まだ、幼い頃、家を飛び出し、性別を偽り、魔女の素質ある孤児を演じました。
そして、海斗に拾われました。
海斗は私が魔女になる事を期待している。
それは間違いない、と思います。
私が魔女学校に通う、後押しを何度も行ってくれました。
『魔女には美貌が大切だから』と、容姿や健康に投資してくれています。
予備の制服も休みを削って働いた海斗からの贈り物です。
『一つでも良いですよ』と言った私に『駄目だ』と主張した海斗は頑固でした。
海斗は良い人です。
養子に養ってもらう、その将来に期待していたとしても、私を大切に育ててくれています。
逆らい難い境遇で魔女になる事を強いる親もいる社会で、海斗は私を大切に扱います。
そんな海斗に私は嘘を付いています。
自分が男である事を。
魔女になる事で、人々や社会に復讐する事を。
魔女になった私は自身の、本当の性別を公表し、社会に異を唱えます。
それは、豊かな生活とは正反対です。
私は海斗から貰ったものを返すことが出来ません。
それを返すには、私の生き方を否定する必要がありますから。
それだけは出来ません。
その時、海斗は、私に何を思うのでしょうか。
失望するのでしょうか。
嫌悪するのでしょうか。
恨むのでしょうか。
憎むのでしょうか。
私が人々に、社会に、そう思ったように。
それでも、私は復讐を辞めません。
復讐が私の生きる、否、前世の記憶を持っている意味、ですから。
【終わり】
魔女の証明 ネミ @nemirura
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