第2話 前世の罪
【
私は金色の髪を伸ばしました。
それは、女に化ける為。
身体は適度に鍛えています。
男らしい筋肉質な身体は危険です。
私は男の要素を減らしながら生活しています。
男の身体、それに不快感は有りません。
前世の記憶はありますが、今の私は男です。
一人称を『私』と言うのは、前世の影響、ではなく、女に成りきる為、です。
今の私は、男ですから。
……。
魔女学校と騎士学校が合同で開催する親睦会に参加します。
私は前世で魔女見習いとして何度も経験しました。
再び、経験する事に成るとは思いもしませんでしたが。
一人前の魔女や騎士が相手を見つける為に行う催し物は様々ですが、その殆どは魔女が主催する催しに騎士が参加する形式です。
魔女や騎士ではない第三者が開催する出会いの場は祭典などに限られています。
前世の私は、それらの行事とは異なる機会で彼と出会いました。
『魔法の才能、それは女に限られたものでは無い』
それは、何世紀も続いている女尊男卑を一変させる真実です。
『魔法使いを語った嘘つき男』それは女が魔女の特権を独占する為にきせた冤罪です。
殆どの魔女は彼をそう呼びました。
否、そう呼ばなければ自身が次の標的になるから、でしょうか?
『魔法は女の特権ではない』その真実に気付いている者は私と彼の他にも存在するかもしれません。
居るかもしれない、その人たちは黙認するか嘘を付いた事でしょう。
それは、彼を見殺しにしたのです。
『保身のために仕方が無かった』それは真っ当な考え方ですが、見殺しにした事実は変わりません。
故に私は思います。
その人たちも私が復讐する対象だと。
彼に罪をきせた者、彼を罰した者、それらに賛同した者、真実を知りながら傍観した者、私が復讐する相手は非常に多くなりました。
それは、当時の魔女、否、当時、私たちを罪人と決めつけた、全員ですから。
対象は、今は亡き人々を含めて、百人に及びます。
その人たち、一人一人に復讐する方法は困難です。
それでも、私には一つの策があります。
それは、魔法の素質を持つ男である今の私が魔女になる事、です。
男の魔女を証明できたら、彼を『嘘つき』と愚弄した人々は、自らの誤りを否定できなくなります。
もし、否定しても、それは『嘘つき』です。
彼を『嘘つき』と侮辱した人々が本当の『嘘つき』になる様は如何ほどの優越感を私に与えてくれるのでしょうか。
それは非常に楽しみな事の一つです。
ですが、彼を嘘つきに仕立てた人々の嘘を証明しても、彼が嘘つきではないと証明できる訳ではありません。
故に、かの人々は罪深いのです。
永遠に晴れることない汚名、それを彼に与えたのですから。
かの人々が嘘を認めたとしても、彼の無実は証明できません。
彼の無実を証明できるのは彼自身なのですから。
……。
彼は民衆の前で魔法を使って見せました。
その魔法は私が教えたものです。
男に魔法を教える教育機関はありませんから、私が教えなければ、彼は魔法を使えない一生を過ごしていたのかもしれません。
そう考えると、私が彼を殺したのでしょうか。
私が彼に魔法を教えなければ……。
それは間違いないと思います。
ですが、私が彼に魔法を教えた結果、彼を死に追いやった事と、彼に冤罪をきせた人々の言動は別の事柄です。
関連はしていますが別の出来事です。
故に私の罪を裁けるのは魔女でも、社会でも、ありません。
それは彼、だけです。
……。
人前で魔法を使った彼を『嘘つき』と断言した魔女たちの言い分は『魔女が魔法を使い、男が魔法を使った様に見せかけた』でした。
そして、彼と行動を共にしていた私がその魔女になりました。
私と彼は現行犯で逮捕されました。
『己を魔法使いと偽る罪』それは大罪と呼べる程、重くは有りません。
似た罪で大罪と呼べるものに『己が魔女だと偽る行為』があります。
ですが『自分は魔女だ』と彼は語っていません。
彼は『男でも魔法が使える事』を証明しようと試みただけ、です。
それは処刑される程、思い罪ではありません。
ですが、裁判で下された判決は『死刑』でした。
裁判の結果を聞かされた私は驚愕しました。
なぜか、『己は魔女だ、と語った』という偽りの出来事が存在したからです。
反論した私は告げられました『貴女の知らない間に彼がそう語っていた』と。
信じられません。
彼は嘘を付く様な人ではありません。
おそらく彼を処刑する為に作り上げた罪状なのでしょう。
彼が魔法の証明を行う前に、この世から消し去る為に。
彼を生かし、続けたら、何時か、男が魔法を使えると証明してしまう。
それを恐れた魔女が居たという事でしょう。
故に、誰かは知っていたのです。
『男は魔法を使えない』が嘘である事を。
……。
男に加担した罪で私も罰せられました。
『死罪は重い』そう主張する人は居ましたが『魔女の尊厳を穢した罪は重い』と判断されてしまいました。
前世の私も彼と似た道を辿りました。
真実を知る人々は私の思想も恐れたのでしょう。
私が再び『男の魔法使いを生み出しかねない』と。
故に私は処刑されました。
『嘘つき男の代わりに魔法を使い、民衆を惑わした』という理由で。
私は最後まで『魔法は使っていません。彼が使ったのです』と叫びました。
ですが『奴は魔法を使えない』そう言われました。
『使った』『使ってない』は水掛け論でした。
何方も証拠がありませんから。
それでも、魔女は、民衆は『男の魔女などあり得ない』という常識を根拠に私が罰せられる事を望みました。
それは恐怖でした。
民衆は彼や私が処刑される際、お祭りの様に騒いでいました。
『嘘つきが処刑される』『魔女の尊厳が守られる』などと口にしながら、彼や私を侮辱していました。
『悪人には何を言っても良い』と言わんばかりに。
民衆は平凡な日常に飽きていたのでしょうか。
人前に晒された処刑という非日常が民衆を掻き立てたのでしょうか。
彼と私に味方したのは、女尊男卑や魔女を嫌う、反社会勢力だけでした。
転生した後、しった事なのですが『彼と私に冤罪をきせ処刑した事』を口実にテロを起こす反社会勢力が現れたそうです。
そのテロは民衆から多くの犠牲者を生んだそうです。
その影響で、彼と前世の私の名前は、テロを起こした反社会勢力と関連付けられ、より、高い悪名になったそうです。
私たちがした事は結果的に、大きな問題を生みました。
ですが、彼が嘘つきと言われなければ、今は異なっている筈です。
人々は、悪名高き罪人を非難し続けています。
それが、誤りだと気付かず、信じ込んだ子供たちも居る。
『大人から嘘を教えられた人たちは悪くない』それは確かです。
それでも、それで、人の尊厳を傷つけた事実は変わりません。
それに該当する人たちは、私より十年前に生まれた人々から、でしょうか。
その人たちは純粋な被害者なのだと。
そう考えると、一つの嘘が重くなりすぎたのだと、実感せざるをえません。
当時、彼が無実だと知りならが冤罪をきえた人々は、今、何を思って生きているのでしょうか……。
【終わり】
私は真実を示したかった。
否、愛する彼を皆から認めて欲しかっただけ、なのかもしれません。
きっと、私は、恋で盲目的に成った自分の心を制御できなかったのです。
二度と、そのような失敗はしません。
否、したくありません。
ですから、私は、男の魔女を誕生させる、その日まで、恋をするつもりはありません。
そして、人の判断を誤らせる、盲目的な恋を私は利用しても良いと考えています。
人間的に最低な行為。
ですが、支配者の価値を貶める悪者になる予定がある私には、相応しい行為と言えなくも無いと思います。
私に恋をする騎士、私はそれを見つけなくてはいけません。
騎士見習い、その中には魔女の子息も居ます。
本人が魔女でなくても、母親が魔女なら、その権威を使わせる事で、私の悪事は順調に進むかもしれません。
……。
魔女学校へ入学するには『女である事』と『魔法の素質がある事』が条件です。
それは容易に越えられました。
魔法を使える者は女だから、です。
魔法の素質に関しては、転生した私が魔法の素質があるので難題ではありません。
そもそも、私が復讐を思い至った最大の理由が『魔法の素養がある男だったから』ですから。
男特有の部位に関しては、道具や魔法を使って誤魔化してます。
触られたら、発覚すると思いますが、他人に触らせる気はありませんから、大丈夫だと思います。
それこそ、騎士見習いに襲われない限りは……。
【
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます