魔女の証明

ネミ

本編

第1話 運命の導き

詩乃しの視点】


女が使える特異な力、魔法まほう、その使い手、魔女まじょ


魔女、それは社会の上位者。


男、それは社会の下位者。


魔女ではないの女、それは、それらの間。


女尊男卑、それが社会の当たり前。


私にはの記憶があります。


……。


私は前世で恋人と死別しました。


前世の恋人は魔法の使い手です。


そう、珍しい男の魔女なのです。


それを社会はそれを許しませんでした。


『魔女だから』支配者で居られる者たちは男の台頭を許しませんでした。


『男の魔女など不要』彼女らは胸の内でそう考えている事でしょう。


私の恋人は魔女を語った罪で処刑されました。


『男の魔女など、あり得ない』と。


それに関与した罪で私も罰を受けました。


恋人を失った私は、恋人の殺害に関与した者たちを呪いました。


その呪いは今も続いています。


彼女らは私を恨んでいるかもしれません。


それは私も同じです。


私は彼女らがそう思う事を嬉しく思います。


なぜ、私が記憶を持ちながら転生したのか、それは分かりません。


でも、私はこう考えます。


私が男として転生したのは『前世の恋人が成し得なかった魔女の証明を行う為だ』と。


だから、私は魔女を目指し、密かに鍛錬を積み重ねました。


そして、私は身分を偽り、魔女学校へ入学します。


前世の記憶は私に偽りの身分を馴染ませます。


これから、私は、女として、暮らします。


何時か、その性を明かす、その日まで……。


【終わり】


静香しずか視点】


俺は魔女の学校に通う魔女見習いだ。


学校を卒業した見習いは魔女として認められる。


魔女は国家資格であり魔女学校は国立の学校だ。


魔女と認められた者は上位者の仲間入り。


貴族の地位を得ることが出来る。


逆に、魔女に成れない者は上位者に成り得ない。


それが上位者の息女で有っても……な。


……。


俺には前世の記憶がある。


俺の前世は男だった。


『魔法を使えるから』と調子にのった結果、処刑され、一生を終える事に成った。


二度目の人生は、不相応な事はしない。


そう決めた。


死の間際、俺は魔法を使った。


その魔法が成功したのか、それは分からない。


それでも成功して欲しい、今でもそう思う。


それは恋人と再び恋人に成ることだ。


来世、つまり『今の人生で』だ。


だが、それは叶わぬ夢に成りそうだ。


何故なら、二年生に成った俺が出会った新入生、その中に運命の相手が居たからだ。


……。


その運命は糸占いとうらないで知った。


糸占の一つに赤い糸を用いて行うものがある。


それは恋の占だ。


自分の人差し指に赤い糸に巻き、魔法〝赤い恋占〟を行うと、指に巻かれた赤い糸が運命の相手へ導いてくれる。


そう言った内容なんだが、その糸が俺を導いた先に居たのは、長い金髪の新入生だった。


……。


始業式の二日後、入学式の翌日、魔女学校と騎士学校が合同で行う催し物。


それは、魔女見習いと騎士見習いの親睦会だ。


この親睦会は一か月に一度、開かれる――例外もあるが……。


親睦会の主目的は美味しい食事を腹に掻っ込む事では無く、主従パートナーを決める場だ。


パートナーとは契約を交わした魔女と騎士の二人を指す言葉だ。


親睦会で魔女見習いと交流した騎士見習いは後日、仕えたい魔女見習いを選び、騎士見習いに選ばれた魔女見習いは騎士見習いと契約を結ぶか、判断する。


なぜ、騎士見習いより格上の魔女見習いが騎士見習いに選ばれるのか?


それは『格上の要求を隠したは断り難いから』だ。


他にも問題がある。


もし、複数の魔女見習いが一人の騎士見習いを指名したら、一人を取り合う争いが発生する。


上位者に成り得る魔女見習いが格下の騎士見習いを取り合うなど、醜い光景だ。


『学生時代に結んだ契約相手が、将来、仕える魔女になる』何て事も有るらしい。


そのせいか、騎士見習いは将来性がある魔女を選ぶらしい。


魔女見習いと騎士見習いは親睦会で自らの価値を示すもの、それが当たり前だ。


もっとも、親睦会で自らの価値を示さない者も居るんだが。


それらは自信家が多いのか、決まった相手が居る者なんだが。


俺はどちらでもない。


そのどちらでもないが、俺には親睦会で自己を示したいとは思えない。


それは運命を信じているから、かもしれないんだが、そんな内心を知らない者たちは、俺を『不相応な自信家』と評価している。


中には『自己表現が苦手なだけ』と考える変人も居るんだが。


俺の成績は高くも低くもない。


これと言った相手も居ない。


そんな俺は『親睦会に消極的で不気味だ』と噂する者が大勢いるほど、友達は少ないんだが、そんな俺を好いている奇妙な騎士見習いが一人、居る。


なぜが俺を好んでいる騎士見習いは、頂点から数えて十に収まっている才能の持ち主だ。


そのせいか、俺はその騎士見習いに憧れる魔女見習いたちから嫌われている。


『天邪鬼な奴に憧れの騎士見習い様が夢中』なんて状況になって、気分が悪いんだろうが、俺は天邪鬼じゃないし、からかわれているだけ、だと思うんだが、周囲はそう見てくれない。


俺にとって奴は不幸を招く者なんだが、奴は俺を諦めてくれない。


昨年の学校生活で『契約に後ろ向きな魔女見習いは貴女だけですよ。前向きに騎士見習いと交流してくだし』と教師から説教された俺は二学期に奴の申し出を受けたんだが、特別、惹かれる要素は感じられなかった。


学期ごとに、騎士見習いが契約を継続したいか否かを判断し、継続したいと申し出を告げられた魔女見習いは、継続するか否かを判断する決まりがある。


ここでも騎士見習いが能動的な立場に成り、魔女見習いは受動的なんだが、なぜか『三学期も契約を継続したい』と告げられた。


騎士見習いの奴に大した興味も示さず、山も谷もない主従関係を送った二学期から、何を得たんだろうか?


好まれる理由があるとしたら、それは『振り向かない俺を振り向かせたい』そんな気持ちなんじゃないか? と思ってしまうんだ。


だから、俺は断ったんだが、面倒な事に、その後に開かれた親睦会で、奴は俺に絡んでくる。


他の騎士見習いを選んで、奴の興味を削ごうと考えた事も有ったんだが、俺の悪評は別の騎士見習いを寄せ付けなかった。


結果、二年生に成った最初の親睦会でも、絡まれてしまった。


二年目の始まりに、最悪の気分だ。


……。


俺に執着する面倒な騎士見習い、武志たけしから何とか逃れた俺は「静香しずか~」と声に耳を傾けた。


俺を呼んだ主は希少な親友の美波みなみだ。


美波は俺に「運命の相手は見つかった?」と聞いて来た。


「残念ながら」と答えたら「そっか~」と残念そうに聞こえない感じの感想を言われた。


この軽い感じが、心地よいのは、粘着質な武志のせいなんだろうか。


そんな事を考えていたら「じゃあさ~、赤い糸占、してみたら~」と提案された。


赤い糸占、それは魔女見習いの間で短期間、流行した魔法だ。


なぜ短期間なのか、それは、赤い糸が導いた数が非常に少ないから、だ。


殆どの赤い糸は誰のところにも導かず、流行は瞬く間に過ぎ去ったんだが『成功率は高いから』と語る熱心な愛好者は居るらしい。


『流行に流される必要は無い』と流行った時は行わなかったが、奴と出会ったせいで気分が滅入っていた俺は、気分転換に「分かった」と答えてしまった。


人差し指に赤い糸を巻いた俺は赤い糸占の呪文を唱えた。


すると、赤い糸はある方向を指示した。


「はんのうした~。はじめてみた~」なんて、喜んでいる美波は「あっちだよ! いこう!」と俺を促した。


暇だし、反応を示した、赤い糸占が誰へ導くのか興味を抱いた俺は美波の催促に乗った。


人と人の間を潜り抜けて辿り着いた先に居た人は、魔女学校の学生服を着こなし、長い金髪を一つにまとめ、肩から下げた、可愛らしい少女だった。


そう、導かれた先に居たのは魔女見習いだった。


武志に行き着かなかったのは良かったんだが、男じゃなかったのは予想外だった。


驚きながらも「あの子が静香の運命の相手なんだ~」と言い出した美波に「そんな訳ないだろ」と言った俺は、それは無いと断定していた。


だって、男じゃないんだから。


あり得ないだろ、と。


『魔女は一人以上の騎士と結ばれる』それが社会の常識なんだから。


【終わり】

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