第70話 西の森の悪魔


「すごい人だな·····」


「やっぱり人が増えてるんだね·····」


俺達は、早朝のギルドに来ていた

俺がこの町にいた頃と比べると、冒険者の数が倍近くは増えていると思う

増えたことで、魔物が倒されたり、町の治安維持には繋がると思うが、依頼の数が足りていない様に見える


まぁ、そこをどうにかするのは、冒険者ギルド側なので、俺が口出しするところではないが·····


「ジン様ですね!個室へご案内致しますので、こちらへどうぞ·····」


俺達が入口で全体を見渡していると、ギルド職員が声を掛けてきた

Aランクにもなると、基本個室へ案内されるのが普通だ


「いや、今回は急ぎじゃないから待たせてもらうよ」


「かしこまりました·····」


今回は態々個室で話すような内容じゃないので断った



「とりあえず、落ち着くまで、そこでゆっくりしとくか」


「そだね」


俺達は、ギルドと隣接している飲食店に入り、ドリンクを飲みながら、朝のバタバタが終わるのを待つことにした


「そういえば、西の国にはどうやって行くか決めた?」


リオがフルーツジュースの様な物を飲みながら聞いてきた


「距離にもよるが、日が沈むまでに付けそうにない距離なら、西の森を抜けようと思っている」


海を渡るのもいいが、海の上は何故か、瘴気が少なく、魔力の回復が遅い

そのせいで、コダパウア王国に着いた時も、かなりギリギリだった

逆に言えば、森などは瘴気が多く、常に魔力を回復させながら移動ができるので、海よりも都合がよかったりする


「海の上で一晩はキツいしな·····リオも海の上にゲートを出すにも目印がないと難しいんだろ?」


「そうだね·····陸地ならどこかの近くとかイメージしたら大丈夫だけど、海には何も無いから·····」


「距離がどれぐらいなのかは、ギルドに聞けば分かるだろうしな」


「ギルドには世界地図があるもんね!」


正確ではないと言っていたが、ある程度の距離が分かればそれだけで十分だ

それに、西の森は俺が転移してきた森だ

行方不明者が多数出てることも気になる·····

なにか元の世界に戻る方法が掴めるかもしれない·····


「受付が空いてきたな、そろそろ向かうか」


俺達が話をしている間に、依頼書を持った冒険者達が受注を済ませて、ギルド内が静かになってきた

エルさんは相変わらず、仕事が早いようで、列がどんどん進んでいく

俺達は最後尾に並んで、順番を待った



「エルさん、おはよう」


「ジンさん!おはようございます!態々並んでくれてたんですね!」


「みんな、忙しそうだったしな

それよりも、世界地図を見たいんだが」


「分かりました、少し待ってて下さいね」



エルさんが、奥の部屋から世界地図を持って来た


「ある程度は正確なはずですが·····」


カウンターに広げられた地図で西の国を確認する


「コダパウアに行くよりも、ウリタカントに行く方が海路は遠いみたいだな·····」


地図で見ただけでも、海は1.5倍近く離れているようだ

それに比べて、西の森は確かに広いが、まっすぐ進むことを考えると、1日あれば抜けることが出来そうだ


「そうですね·····実際の距離は分かりませんが、ウリタカントに向かう方が時間はかかるみたいですね」


「それじゃ、西の森を抜けるか!」


「西の森をですか·····?いくらジンさんでも無茶かと·····」


俺が西の森を抜けることを選択すると、エルさんに止められた


「西の森はそんなに抜けられない様な森なのか?」


「それについては、ワシから話そう」


エルさんの後ろから、マスターのランディが声を掛けてきた


「マスター!すぐに部屋を用意します!」


エルさんが席を立って、奥に入っていった

結局、応接室で話すことになるのか·····



俺はランディと一緒に応接室へ移動した

応接室に入ってソファーに腰掛ける


「西の森についてじゃったな·····」


「そんなに問題のある森なのか?」


「そうじゃな·····あの森を監視するために、ワシはこのギルドに配属されたんじゃ·····」


「監視?」


「あの森には、悪魔が住んでおる·····」


「悪魔·····」


横でリオが小さく呟いて、唾を飲み込む音が聞こえた


「悪魔なんて実在するのか?」


「いや、悪魔は比喩じゃな·····あの森の奥深くには『オーガ』が住んでおるんじゃ、奴等は群れで行動する上に知能がかなり高くての·····高ランク冒険者とて、群れに近づかんほどじゃ」


数十年ほど前にオーガが、森に住み着いていることがわかり、ランディは森の近くの町、カタクのギルドマスターとして赴任してきたらしい


「それじゃ、この町は危ないんじゃないのか?」


西の森はそんなに遠い森ではない、オーガが大群で出てきたら、この町が1番初めに襲われるはずだ


「それがの·····ワシが赴任してきてから森を何度か調べておるが、オーガの姿は見てないんじゃ」


「オーガはガセネタってことか?」


「いや、ギルドの情報じゃからガセではないじゃろ·····実際、捜索に入った冒険者や、森を抜けようとした者が行方不明になっておるしな·····」


俺が転移してきた時も、森の浅い場所だったからか、オーガどころか、低ランクのホーンラビットぐらいしか見かけなかった

ホーンラビットですら、出会うのに1時間歩き回ってやっと見つけれるぐらいだった


「なるほどな、迷いの森で行方不明になるのは、森の奥に住む、オーガに襲われるからってことか」


「そういう事じゃな·····じゃから今回は·····」

「それじゃ、俺が調査してきてやるよ」


俺はランディの言葉を遮るように言った

ランディとエルさんが口を開けて固まっている

この光景を見るのも久しぶりだ

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