第69話 改良と新防具


「繁盛してるな·····」


「すごい行列だよ·····?」


昼のピークが過ぎてる時間帯なのに、店はほぼ満席だった

キッチンの中は忙しなくスタッフ達が動いている



「兄ちゃんじゃねぇか!もう戻ってきたのか!?」


奥からおっちゃんが気づいて入口まで出てきてくれた


「かなり忙しそうだな」


「兄ちゃんのソースのおかげだ!」


どうやら、俺が改良したソースを再現することができたらしい


「俺はレシピを渡しただけだ、簡単に再現出来るもんじゃなかったはずだしな」


「あぁ·····再現するのに苦労したぜ·····それより、食いに来たんだろ?奥の席が空いてるから入りな!」



俺達は店に入って、席に着くなり、オーダーしてないのに、料理が運ばれてきた


「あれから俺なりに改良してみたんだ!兄ちゃんに食ってもらいたくてな!是非、感想を頼む!」


運ばれてきた料理はホーンラビットのステーキだ

熱せられた石の上にステーキが載っている


「ソースはないのか?」


改良したとは言っているが、ソースが見当たらない


「とにかく食べてみてくれ」


リオはヨダレが垂れそうなぐらい、ステーキを凝視している

俺はステーキを切り分けて、1口頬張った


「ステーキを漬け込んでるのか·····味がしっかり染み込んでいるな」


「さすが兄ちゃんだな、1口で見破ったか!」


「それに、漬け込むことで、柔らかくなっているな」


「そうだ!この柔らかさを出すために、下処理をしっかりして、1晩漬け込んでいるからな!」


「おいひぃー!ひゃはらかーい!」

リオは横で、肉に貪りついている


「なるほどな·····確かに旨くなっている」


「どうだ?これをこれ以上は改良は出来ないだろ!」


「もう一声だな·····」


俺は袋の中に手を入れて、アイテムボックスから瓶を1つ取り出した


「なんだそれ!」


「ステーキソースだ、肉を焼いたあとの肉汁を使って作ったソースだ」


日持ちするものでは無いが、アイテムボックスなら時間が経たないので保管に便利だ


「ソレをかけると、もっと旨くなるのか?」


「食ってみるか?」


俺はステーキにソースをかけると、石の上でソースがいい音を立てて湯気が上がる

おっちゃんが一口サイズにカットしたステーキを口に放り込む


「·····さすが兄ちゃんだな·····やっと追いつけたと思ったんだがな·····俺もまだまだだな」


「レシピはこれだ」


俺はテーブルにあったナフキンにレシピを書いて渡した


「ありがとな!またウチの看板メニューが生まれ変わるぞ!兄ちゃん達はゆっくりして行ってくれよ!」


そう言って、おっちゃんはキッチンに戻って行った


「ジンくん·····私もソース欲しい·····」


ステーキを半分平らげたリオが、物欲しそうな目で訴えてきた


「あぁ、いいぞ」


残っていたソースをリオのステーキにも掛けてやると、リオがまた、すごい勢いで食べ始めた



食事を終えた俺達は、『狐の尻尾亭』に向かった

宿屋の扉を開けて中に入った


「いらっしゃい!悪いけど、今満室でね·····」


「おばちゃん、久しぶりだな!客が増えたみたいで良かったな!」


「あら!あんたらは、あの時の冒険者2人だね!悪いね·····泊めて上げたいんだけどね·····」


冒険者が増えたことで、宿を使う人が増えたようだ


「大丈夫だから気にしないでくれ!また今度、町に寄った時にでも泊まらせてもらうよ」


そう言って、俺達は宿を後にした


「さてと·····今日は異空間で寝るか·····」


「そだね」


俺達は人気のない路地裏にゲートを出して、異空間へ移動した

異空間では、シロと戦闘訓練をした後、風呂に入り簡単に晩飯にして、早めに寝た



朝早くに目を覚ました俺達は、いつも通り、魔力と魔素コントロールの修行をはじめた


魔力はいつも通り、すぐに終わったが、魔素のコントロールは時間がかかる

と、言うのも、魔素に含まれる瘴気は簡単に言えば粘り気が強い、魔力がサラサラの水だとすると、瘴気はスライムのように、ドロドロで動かしにくい

瘴気が魔力と合わさり、魔素になることで、幾分かマシにはなるが、体内を循環させるのは中々難しい

これを魔力並に操作出来ないと、魔素だけの魔法なんて到底できないので、やるしかないんだが·····


「こればっかりは、続けていくしかないな·····」


俺は独り言を呟きながら、修行に励んだ

リオは早々に修行を終えて、出かける準備の最中だ



出かける準備ができた俺達は、作り置きの朝食を食べて、シェリーさんの防具屋へ向かった



「どんな防具だろうね!」


「渡したのはロックドラゴンとフレイムドラゴンの素材だけだからな·····茶色と赤の防具とかだと嫌だな·····」


俺達は変な防具を想像しながら、防具屋の扉を開けた


「いらっしゃいませ!あ、ジン様とリオ様ですね!すぐに店長を呼んできますね!」


俺達に気づいた、アンジュが奥の工房へと入っていった

しばらくして、アンジュとシェリーさんが一緒に戻ってきた

その手には俺達の新しい防具が持たれていた


「やっぱり、ドラゴンの素材は加工が大変だね·····朝方までかかったよ·····微調整をするから、着替えてくれるかい?」


そう言って、シェリーさんから防具を受け取った

リオは奥の試着室へ入っていた

試着室はひとつしかないので、着替えのために応接室を借りるのも迷惑なので、俺はそのまま着替えた


「君は·····私はもう慣れたけどね·····」


そう言いながら、目を背けて少し顔を赤らめている

アンジュは顔を手で覆っているが、指の間からこちらを見ているようだ

俺は2人の視線も気にせず、着心地を確かめる


新しい防具は、前回同様、黒が基調になっていて、アクセントに赤い部分が見えている

体の急所にはロックドラゴンの素材らしいものが使われているが、色合いが少し金に近い

今回の防具にも、フードがついていて、腰巻と一体になっているようだ


「ドラゴンの素材だから、ゴツゴツした装備になるかと思ったけど、意外と伸縮性があっていいですね」


「君達は、そっちの方がいいんでしょ?前の防具をモデルにしてるから、着心地とかも近いはずよ」


シェリーさんが言う通り、重さや動きやすさは特に変わらず、防具で邪魔になる感じはない


「色は黒にしてくれたんですね」


「いきなり色が変わるのもどうかと思ってね、黒を基調にしてみたのよ、君がいつも持ってる赤い鎖とも色合いがいいしね!

まぁ、染色はすごい苦労したけどね·····」



「着替え終わったよー」


俺がシェリーさんと話していると、奥から着替え終えたリオが出てきた

色合いや、見た感じは俺の防具と変わらないが、所々に女性らしさが見える

リオの防具は、膝上丈ぐらいのスカートにブラトップのようなインナーの上から、フード付きの腰巻を付けている感じだ

前回より、露出が増えている気がする·····


「どう·····かな?似合う?」


「あぁ·····バッチリだな!俺と結構、似てる感じなんだな」


「ジンくんも、カッコイイよ!お揃いの防具みたいでいいね!」


お揃いと言われると、急に恥ずかしくなってきて、少し目を逸らした


「それじゃ、支払いだが·····」

「お金は要らないよ!素材の余った部分とかあるからそれをそのまま、代金として受け取るから」


シェリーさんに食い気味に言われた

そんなに大量に素材を渡した覚えはないが·····


「それじゃ、お言葉に甘えさせてもらいますね

それと、これは、今回の分とは別で、投資の意味も込めて」


そう言って、もう一人分ぐらいのロックドラゴンとフレイムドラゴンの素材を袋から出して渡した


「いいのかい!?これは普通に売れば上金貨1枚はする代物なんだよ?」


「まぁ、防具を買いに来るとしたらここなんで、そういう意味で投資なんで、いいですよ」


シェリーさんはすごい喜んでいた

その姿は、新しい玩具を買ってもらった子供にしか見えない·····


「それじゃ、俺達はギルドに顔を出したら、また行くんで!防具が欲しくなったらまた来ますね!」


一瞬、殺気を感じた俺は、早々にシェリーさんの防具屋をあとにした

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