第55話 南の港町コエン


「風が冷たいね·····」


俺の背中にしがみつきながら、リオが言った


「そうだな·····もうすぐ11月だからな」


こっちの世界にも、もちろん冬がある

気候は日本と大差ない感じで、10月下旬にもなると一気に冷え込んできた

防具を付けている所は、風を通さないので、まだマシだが、魔道二輪に乗っていると体感温度はかなり寒い

長時間、冷風に晒されて、リオも耐えきれなくなってきたんだろう


「リオ、空間制御エリアコントロールでバリアを張ってくれないか?あれなら風が当たらなくなるはずだ」


「あ!そうだね!あれならマシになるよね!」


リオはバリアの存在を忘れていたらしい

リオが魔力を込めて、バリアを俺とリオの体に沿って作り出す


「全然寒くないな、これなら寒さは問題なく防げそうだな」


「そうだね!バリアは作る時にしか、魔力を消費しないからすごく便利だね」


バリアを張ると、風を一切通さなくなったので、魔道二輪の旅がまた一段と楽になった



それからしばらく、魔道二輪を走らせて港町コエンに到着した

コエンに着くまでにいくつか、町があったが、特に用もないので、素通りしている

コエンはイエンと同じぐらいの広さの港町だったが、こちらには船があまり停っていないようだ


「予定通り、昼過ぎに着けたな

とりあえず、昼飯を食ったら、ギルドで南の大陸について聞いてみようか」


マップで見れる範囲は、半径5km程度なので、海の先にある大陸までは流石に見えない

方角を知るために、世界地図とかがあれば欲しいが·····

それに、大陸が違うなら他国の可能性も有るので、入国方法などの確認もしておいた方がいいだろう


「そうだね!それよりも、お昼はどこの店にする?」


リオが、キョロキョロして店を探している

よっぽど、魚料理を楽しみにしていたんだろう


「それじゃ、あそこはどうだ?」


俺が見つけた店は、看板が魚の形をした、如何にも魚料理を出しそうな店だ


「じゃ、あそこにしよ!」


リオに手を引かれて店に入った


「「らっしゃい!」」


店に入ると、海の男っぽい2人組が、大きな声で挨拶をして来た

特にテーブル案内などはなさそうなので、適当に空いてる席に座った


「いらっしゃいませ、ご注文はお決まりですか?」


席に着くと、女性店員がオーダーを取りに来た


「おすすめの魚料理ってありますか?」


「おすすめでしたら、こちらの煮魚のセットが1番人気ですよ」


「それじゃ、それをお願いします」


「私も同じのでお願いします」


「かしこまりました」


ここでも、おすすめ料理を頼んだ


「煮魚ってどんな料理なんだろーね?」


「知らないのに頼んだのか?煮魚って言うのは、魚を調味料で味を付けたダシで煮る料理だ」


「へぇーやっぱりジンくんは料理に詳しいね」


「俺の実家でも魚料理は出てたからな、魚料理と言えば、生で食べる··········」



「お待たせしましたー!」


俺達が魚料理について、話していると店員が料理を運んできた

テーブルに置かれた料理は、見た目は『鯖の煮付け』だった

他に、パンとサラダとスープが運ばれてきた

鯖の煮付けならご飯が食べたい·····


「いつか、米を見つけたいな·····」


「どうしたの?」


「いや、なんでもない!食べるか!」


俺は見た目、鯖の煮付けを1口食べてみる

味付けは少し物足りない感じがあるが、この甘辛さと魚のフワフワした食感は鯖の煮付けその物だった

口に、米を掻き込みたい衝動を抑えながら、パンにかじりついた



「美味しかったー!焼き魚もいいけど煮魚もいいね!」


「満足したならよかったよ」


「ジンくんはなんだか、残念そうだね」


「満足はしてるんだけどな·····飯も食ったし、次はギルドに向かうか」


俺達は店を出て、ギルドに向かった

小さい町なので、ギルドはすぐに見つかった

扉を開いて中に入る

冒険者が一人もいなかった


「昼過ぎならこんなもんか、受付はっと·····」


受付に受付嬢が1人だけいたので、近づいて話しかける


「聞きたいことがあるだが、いいか?」


「·····え?ぼ、冒険者!?」


俺が話しかけると、こちらを向いて、すごい勢いで驚かれた


「冒険者ギルドなんだから、冒険者が来るのは当たり前だろ·····」


「そうなんですが·····今日はずっと暇で·····」


「なんかあったのか?」


「知らないんですか?北のダンジョンが攻略されたんですよ」


「それは知っているが、それがどうしたんだ?」


俺が攻略者だが、一々話すのも面倒なので、話を先に進める


「ダンジョンを攻略した人の話では5層が最上層らしくて『3層まで攻略出来てるなら、5層なんてすぐだ!』ってBランク以上の冒険者が北のダンジョンに向かったんです·····」


「なるほどな、それでも、低ランク冒険者はいるんじゃないのか?」


「低ランク冒険者たちも、はやくBランクになるために王都のギルドに向かっちゃいましたよ·····」


王都に行けば依頼は山ほどあるので、効率のいい依頼を受けることが出来るということだろう


「北のダンジョンが攻略されれば、次は南のダンジョンなんだから、いずれはこの港町に集まってくるんじゃないか?」


「150年攻略を続けてやっと3層なのに、5層までってあと100年以上掛かりますよ!あー他のギルドに異動願い出そうかな·····」


忙しいギルドはブラック企業並に働いていたが、ここまで暇なギルドを見ると、暇すぎるのも問題な気もしてくる


「異動願いを出すかどうかは、あんたの自由だが、俺の質問に答えてからにしてもらっていいか?」


「·····あ、そうでしたね、なにか聞きたいことがあるんでしたね」


「あぁ、南の大陸に行きたいんだが、向こうは他国とかなのか?」


「当たり前じゃないですか、地理を勉強しなかったんですか?ちょっと待っててくださいね·····」


受付嬢が俺の事を軽く馬鹿にして、奥の部屋に行った


「よっと!お待たせしました」


受付嬢が大きな紙を持って帰ってきた

テーブルに広げた紙を見てみると·····世界地図だった


「世界地図があったのか·····」


「世界地図と言っても、全てではないはずです、まだ人が入ったことの無い島がある可能性もありますからね!」


受付嬢が目を輝かせながら言った

きっと冒険系の話が好きな女の子なのだろう


「そうか·····それで、何を説明してくれるんだ?」


「こほんっ!まず、私たちが今いる場所はここです」


受付嬢が指さす位置を見ると、地図上では中心よりも少し左上の海に面している場所だった


「そして、ここからずっと下に海を渡ると·····ここが、南の大陸『コダパウア王国』です、南のダンジョンがこの王国に現れたと噂されていますね」


「なるほどな·····」


地図を見ると、大陸がコの字に、曲線を描いて繋がっていた


「陸路で行く場合は、コダパウア王国領地内に入るだけなら、馬車で1ヶ月〜1ヶ月半程で行けますよ、ウチのギルドからも探索隊が編成されて、今朝方出発したので、今からなら追いつけるかもしれませんよ?」


「いや、俺はここに用事があるからな、海を渡っていくよ」


そう言って、コエンから海を渡り、南東に進んだところにある町を指さした

そこには、小さい文字で『サウス』と書かれていた


「今は海を渡る術がないんです·····少し前までは定期便も出てたんですが、漁に使う船以外は全て冒険者と一緒に、北のダンジョンに行っちゃいましたので·····」


受付嬢が残念そうに言った


「海は自分たちで渡るから気にしないでくれ、それで、向こうに着いたら入国審査とかないのか?」


「入国審査ですか?冒険者なら特にありませんね、そもそも、冒険者は、どの国にも所属せずに、自由に移動出来る職業ですから、戦争していたり、敵対してる国同士は行き来出来ませんが、コダパウア王国とシグニンズ王国は比較的、仲がいい国同士なので、大丈夫ですよ」


「それなら大丈夫そうだな、この地図って貰うことは出来ないのか?」


世界地図があると便利なので、1枚ぐらいは欲しいところだが


「これはギルドで保管している1枚しかないので、お譲りはできないんです·····申し訳ございません」


「それなら仕方ないな·····よし、目的地も決まったし、行くか」




俺達は一度、コエンから出て、町から見えない海岸で魔道二輪を取り出し、跨りエンジンをかけた

リオが後に乗ったことを確認して、海走タイプに変形させる

魔力を込めて、軽く浮かせながら海に着水する


「よし!いくか!目指すはコダパウア王国のサウスって町だ!」


「おー!」

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