第23話 異世界飯と謎の少女


晩飯はあの酒場に来ていた

盗賊を討伐してから来れてなかった


「おっちゃん!かなり繁盛してるな!」


やはり、夜の方が繁盛しているようだ

小太りの男性がこちらに気づき、近づいてきた


「おぉ!兄ちゃんか!兄ちゃんのおかげで食材が元通り手に入るようになったんだ!今日は奢ってやるから食っていけ!」


そう言って、厨房に戻って行った


俺達は適当にテーブルに座って待つことにした

今日はこの前と違ってかなり混み合っているが、席があいていてよかった


「ジンくんはここに来たことがあるの?おじさんとも親しげだったけど」


向いの席に座ったリオがそんなことを聞いてきた


「リオを攫った盗賊がいただろ?あいつらはこの街に届くはずだった食料を盗んだんだよ、それで物価が上がったりで、おっちゃんも苦労してたらしいんだ」


リオに盗賊討伐のいきさつを色々説明していると

テーブルに料理が運ばれてきた


見た感じ、骨付き肉とパンとスープだ

まずは骨付き肉から口に運んでみる


タレがしっかりと染み込んでいてかなり美味い

表面はカリカリに焼かれているのに、噛むと中から甘い油が染み出てくる

この世界で初めて食べた魔物·····


「これはホーンラビットの肉か!」


久しぶりに食べたが、やはり美味いなこの肉·····

それに、このタレもかなり作り込まれている


「どうだい!これが俺の店の本当の味だ!」


俺が料理に舌づつみを打っていると、おっちゃんがテーブルまで来て声をかけてきた


「あぁ!このタレは素晴らしいな、かなり入念に作り込まれている、ホーンラビットの肉汁に負けない味なのに、肉汁と混ざると相乗効果でうま味が膨れ上がる」


「そうだ!このタレは先祖代々受け継いでるタレだからな、秘伝のタレってやつだ!ガハハハハ」


おっちゃんが、嬉しそうに笑っている

俺はこのタレにエレメンタルの粉を入れてもうひと工夫したい気持ちを抑えながら、おっちゃんと料理の話で盛り上がった




「あんた!いつまでサボってんだい!あんたが料理しなきゃ誰がすんだよ!」


「いてててててっ!わかった、わかったって!悪いな兄ちゃん、また今度ゆっくり話そうな!」


俺とおっちゃんが話し込んでいると、奥から出てきた、おっちゃんぐらいの体型の女性が、おっちゃんの耳を引っ張って連れて行ってしまった


「奥さんかな?」


「多分な·····尻に敷かれてんだろな·····」


俺とリオは、苦笑いしながら見送った



腹を満たした俺達は、異空間で風呂に入ってから、宿屋に戻った

リオも気に入った様で、毎日風呂に入っている

その夜、当たり前のように同じベットで寝た




早朝、宿屋で目覚めた俺達はシェリーさんの防具屋に来ていた


「おはようございまーす、防具出来上がりました?」


今朝も相変わらず、店に居ないので、奥の工房に向かって声をかける


「はーい!出来てるよー」


シェリーさんが返事をしながら奥から出てきた

手には黒と赤の防具を持っている


「これが新しい防具だよ、1度着てみてくれる?奥に着替えるスペースあるから!」


シェリーさんがリオに防具を手渡しながら

後半、俺の方を向いて言ってきた

なぜ、俺の方を向いたんだろう·····


「あと、これがインナーね」


「ありがとうございます」


リオが着替えてる間に俺もインナーを着替えることにした

シェリーが顔を赤くしながら『まったく·····』とか言っていたが気にしない



しばらくして、リオが着替えて出てきた


「どうかな·····似合う?」


全身は俺の防具と同じで黒を基調にしているが、所々に亜種の革を使っていて、いい感じにアクセントになっている

リオの赤黒い髪に良く似合う

下は膝上丈ぐらいのスカートで、ファングウルフ亜種皮とポイズンリザードの革を使っていて、アシンメトリーになっている

2種類の皮を使う事で、動きやすい硬さにしている様だ


「いい感じだな!よく似合ってるよ!やっぱり髪の色によく合うな」


「ありがと!大切に着るね!」


『防具だがら汚れたり破けたりするもんなんだけどな·····まぁいいか·····』


「よし!防具も手に入ったし、一度ギルドに向かうか」


「シェリーさん、ありがとうございました、またなんかあったら寄らせてもらいますね」


シェリーさんにお礼を言って、防具屋を後にした




ギルドに着いた俺達は、朝のゴタゴタの中、盗賊討伐の依頼書を取って、受付の行列に並んだ


しばらくして俺達の番になった


「エルさん!おはよう、今日は盗賊討伐の依頼を受けようと思うんだが、リオのBランク昇格にはこの依頼でいいのか?」


「え!そちらを受けられるんですか·····?その依頼でも問題ありませんが、その依頼は先日、ジンさんが討伐した盗賊達より規模が大きい盗賊ですよ?それに、アジトも分かっていないので捜索からしないといけませんし·····」


依頼書に同じ内容が書かれている

規模からして約100人程らしく、前の盗賊の倍だ

今回はリオもいるし、闇魔法があるからそんなに数は関係ない気がする

アジトの場所は大体検討がついている森の中をマップで探せばすぐに見つかるだろうし問題ないだろう


「それじゃ、この依頼で頼む」


「え·····ジンさん聞いてましたか?アジトの場所も分かってないんですよ!?」


「大体の場所は分かっているんだろ?それなら問題ない、秘密の方法で見つけ出すから」


「ジンさんがそこまで言うなら·····無理だけはしないでくださいね?」


そう言って、依頼の処理を進めてくれた

アジトの場所は南門を出て、3日程歩いたところにある森の中のどこからしい

広さは5000ヘクタールほど約50平方km、もっとわかりやすく言えば5km×10kmの広さだ

これだけ広いと、虱潰しに探しても見つからないのは頷ける


エルさんから説明を聞いた俺達は、特に用意する物もないので、そのまま南門に向かった

そう言えば、南門からでるのは今回が初めてだ


南門を出て門番から見えなくなったところで、アイテムボックスから魔道二輪を取り出す


「歩いて3日なら、魔道二輪で1時間半ってところだな」


「そんなにすぐ着くの!?魔道二輪って早いんだね!」


「そういや、この前乗った時はへばってたな、かなり早いから振り落とされるなよ?途中の魔物は基本無視するが、初めて見る魔物がいれば倒して回収するから、魔法で蹴散らしてくれ」


「魔物は任せて!洞窟生活のおかげで、魔力が結構上がったんだよ!·····あれは本当に地獄だったよ·····」


後半、なんか言いながらジト目でこっちを見ていたが気にせず魔道二輪を起動させる


『キイィィィィン·····』


相変わらず、滑るような動きをする魔道二輪に乗って森を目指した



「いないなぁ·····この近辺はホーンラビットとキラースネークしかいないのか?」


1時間程進んできたが知ってる魔物ばっかりだった

ホーンラビットは肉が美味いので、何匹か倒して回収しておいた


「んあ?·····そだね·····」


リオは魔道二輪に慣れたようで、風が気持ちいいのか俺にしがみつきながら眠たそうにしている



しばらくして、マップ上に森が見えてきた


「やっと森が見えてきたか·····ん?」


マップ上で森の中から魔物のマーカーが10個、こちらに向かって進んできている

俺達に気づくには遠すぎる距離だ


「どうかしたの?」


俺が考えているのに気づいて、リオが聞いてきた


「いや、魔物が10体、森から出てきてるみたいなんだが·····誰かが追われているのか?」


魔物のマーカーに重なって人のマーカーが見え隠れしている


「え?人が襲われてるの!?早く助けなきゃ!」


リオが慌てている

しかし、盗賊のアジトがあるであろう森から出てきた人間だ·····魔物に襲われているとはいえ、盗賊の可能性もある

不用意に近づく訳にもいかない


「リオ、見えるギリギリまで近づくから魔法で魔物を倒すか足止めしてくれ、その間に俺が単独で近づいて、襲われている人を助ける」


「わかった!」


一気に魔道二輪を加速させる

数分で目視できるところまで近づいた

魔道二輪を収納しリオに魔物で援護させる

その間に魔物まで一気に詰め寄った


目視できた時に気づいていたが

追われてたいのは、服がボロボロの女の子だった

その子の後ろからは、鼻がデカくて、肌は茶黒い、体は毛で覆われていて、筋肉が盛り上がっている、二足歩行の魔物が10体、追いかけてきている

しかも、手にはそれぞれに武器を持っている


血刀を作り、1体目の首を刎ねる時に鑑定してみた


【オーク】Lv.30 / Cランク

【スキル】剣術:Lv.0.4

【補足】部位により、脂肪や赤身が違うが、全体的に淡白で旨味がある


やはり、オークだった

2m近くある巨体で、顔は豚そのものなんだが·····体が人間とそんなに変わらない·····食べるのには抵抗がある·····


「補足を見た感じ、豚肉なんだけどな·····」


独り言を呟きながら、他のオークを蹴散らしていく

途中他のオークも鑑定してみたが、スキルの内容が持っている武器で違うようだ

今回倒したオークは剣、槍、斧、棍棒を持っていてそれぞれ剣術、槍術、斧術、棒術となっていた

レベルはまちまちで低いものでLv.3高くてLv.5だった



「ふぅ·····これで全部だな」


10体のオークを倒して、全身についた返り血を水魔法で洗い流しながら呟いた


「た、たすかった·····?」


後ろにいた女の子は相当、気を張っていたみたいで、助かったことに安堵したのか、一言呟くと、そのまま意識を手放した

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