第22話 ファングウルフ亜種


宿屋に戻った俺達は、宿屋のおばちゃんに挨拶してギルドに向かった

ベットはしっかり、部屋に戻してある



「エルさん、ずっとあの洞窟にいたから、かなり多いんだけど·····例のアレ、お願いできるか?」


「ジンさん!お久しぶりですね、わかりました!闘技場でお待ちください」


アイテムボックスは公にできないので、大量の素材買取がある場合は、エルさんに言って対応してもらっている



闘技場で待っているとエルさんがやってきた


「お待たせしました!それでは始めましょうか」


「時間かかるからどんどん出していくぞ!」


そう言って、素材をどんどん出していく

食材は解体して、アイテムボックスに置いたままだ

今のところ使い道がない、皮や爪、牙などは、解体して積み上げていく


積み上がっていく素材を見ながら、リオが種類別に分けてくれる


「あれ?このファングウルフの毛皮、他のと色が違うよ?なんか赤いんだけど·····」


「ん?血がついて赤くなっただけじゃないのか?」


俺とリオが話していると


「それは·····ファングウルフの亜種じゃないですか!」


書類に素材の数を記入していたエルさんが、声を荒らげてきた


「亜種だと何かあるのか?」


エルさんがびっくりしすぎて、固まっているので質問してみる


「いえ、強さはさほど変わらないんですが、亜種になると群れが大きくなるんです·····亜種には統率力があるようで、大きなものだと15匹以上になると言われていて、数によってランクが上がるんです」


エルさんが説明をしてくれた

15匹以上で多いのか?俺は一瞬で10匹倒せたが·····


「んーファングウルフの群れって言えば、24匹が1番多かったな、それ以外は多くて5匹だったから、あの時の群れが亜種の群れだったのか」


「24匹·····」


また、エルさんが固まってしまった

1ヶ月ほど前に、はじめてエルさんにあった時より、ちょっと老けている気がする

ギルドって大変なんだろうな·····


「それが本当ならCランク上位·····いえ、Bランクに匹敵するかも知れません、ジンさんなら問題なく倒せるとは思いますが·····まさか1人で倒してしまうとは·····」


「いや、俺1人じゃないぞ?俺は10匹ほど倒したが、残りは全部リオの手柄だ、魔法1発で壊滅させたからな」


雷球1発で1匹は丸焦げ、残り13匹は壁に激突してほとんど瀕死だった


「リオさんが14匹を?·····少し、失礼します·····」


そう言い残して、エルさんがすごい勢いで闘技場から出ていった

いきなりどうしたんだろうか、トイレか?


「·····とりあえず待つしかないな」


引き続き、アイテムボックスから素材を出しながらエルさんの帰りを待つことにした





「ファングウルフの亜種、24匹の群れを倒したって本当か!?」


しばらくすると、ランディが叫びながら、走ってきた

俺の顔の目の前まで迫ってきて、息を整えている

ちょ·····近いっ


「あ·····あぁ、本当だが、それがどうかしたのか?ちなみに俺1人でじゃなくて、リオもだぞ?」


そう言うと、ランディの目がリオの方に向いた


「ほ、本当だけど·····な、なに??」


リオは少しずつ離れて距離を取っている

まぁ老人の顔が目の前に来るのは、確かに怖いよな·····

しかもランディって結構厳つい顔してるし·····


「いや、確認じゃが本当に、リオも戦闘に加わったのか?」


「あぁ、リオが倒したのは14匹で俺は10匹だ」


改めて、ランディに説明する


「ふむ·····仕方あるまい、念のためにこれに触れて答えてくれ」


そう言って懐から水晶のような小さい玉を取り出した


「なんだこれ?」


「知らんのか?これはの、真実を明らかにする魔道具じゃ、ギルドでは魔物を討伐してきたか確認するために使われておる、たまに素材だけを持ってきてランクを上げようとする愚か者がおるからの·····」


嘘発見器みたいな魔道具だな

今まで読んできた、小説にも似たようなものが出てきたが本物を見ることになるとはな·····


「まさか、疑われてるのか?」


「疑っているわけではないが·····念の為じゃ·····もし本当にリオがそれほどの実力があるならBランクでもおかしくないからの·····」


「分かったわ·····触れながら質問に答えればいいのね?」


リオが前に出て水晶に触れる


「ふむ、では聞くぞ?リオがファングウルフの亜種の群れ24匹の内、14匹を倒したのは本当か?」


「えぇ、間違いないわ」


リオが答えたが、水晶には何も変化がない·····


「本当の様じゃな·····リオもBランク相当の実力者じゃと認めるしかないの·····こんなにポンポンとBランクが·····」


後半、ランディがグチグチ言っていて聞き取りにくかったが、とりあえずは疑いが晴れたらしい


「それで、リオはBランクになれるのか?」


武術大会に出場するにはBランクになる必要がある

どの道、リオにはBランクになってもらって一緒に出場する予定だったので、なれるなら早いにこしたことはない


「問題ないが、その前に盗賊の討伐が出来るかどうかじゃの·····」


そう言えば、俺の時もそうだったが、Bランクにもなれば人を殺せないといけない状況になることがあるとかで、盗賊の討伐は必須項目なんだよな·····

まぁそのお陰で、リオを助けることが出来たんだが


「えぇ、問題無いわよ?逆に盗賊には恨みしかないわ····」


そう言えば捕まった側だもんな

寝かされていたとは言え、恐怖があったはずだ、恨みの1つぐらいあるよな

当の盗賊は全部、俺が討伐してしまったんだけど·····


「それじゃ、討伐してさっさとBランクになるか」


「そうね!まさかこんなに早くBランクになれるなんて思ってもいなかったわ、ジン君のおかげね」


リオが笑顔で振り返った

俺と歳が変わらない子なのに、盗賊とは言え、人を殺すことに抵抗がないのか·····

ここはそう言う世界なんだよな·····


改めて、自分がいる世界について考えさせられた

元の世界に戻る方法が見つかるまでは、この世界で生きていかないといけないんだよな·····


「と、その前に買取を終わらせないと·····」




「今回の買取金額はこちらです!今回はかなり多かったですね·····」


ちょっと疲れが見えるエルさんから、金が入った袋を受け取った

ズッシリと重みがあるが、持っていても重いだけなので、そのまま、アイテムボックスに収納した

リオにはまた後で、受け取り金額の半分を渡すようにしよう


「そうだ!リオ、金も入ったし、防具を買いに行こう!さすがにその服はボロボロすぎるしな」


リオの服装は普通の服だ

洞窟を歩き回ったり、魔物と戦っている内に色々破けてしまっている

今ままでも買いに行こうとしたが、『自分のお金じゃないから』とか、理由をつけて買いに行けてなかった


「そうね·····わかったわ」


今回の報酬にはリオの分も含まれているので、容認してもらえた

俺達は、ギルドの近くにある、シェリーさんの店に行くことにした

念のために、皮素材は売らずに取っている




「シェリーさん!いますかー?」


店に入ると、誰もいなかったので、奥に向けて声をかける


「はいはい、おや·····君か、防具の調子でも悪くなったの?見た感じ問題なさそうだけど?」


奥からシェリーさんが出てきた

相変わらず、ようじ·····歳の割に若く見える


もちろん、リオには予め、説明している·····


「今日はリオの防具をお願いしたくて」


そう言って、リオを前に出す


「かなりボロボロだね、防具の種類は決まってるの?」


「実は、これで作ってもらおうかと·····」


そう言って、袋の中からファングウルフ亜種の毛皮を取り出す

リオの赤い髪に合いそうだったので、こいつで作ってもらおうと思っていた


「ファングウルフの亜種だね!これはあまり防御力はあまりないけど加工しやすい毛皮だよ、ポイズンリザードの皮もあるなら一緒に加工して防具にできるよ」


「それならちょうど持ってます!」


袋からポイズンリザードの皮を取り出し、シェリーさんに渡して、リオの採寸をしてもらう


「料金は銀貨7枚だよ。明日の朝には出来てるからまた取りに来てくれる?」


「わかりました!あと、インナーも何枚かお願いできますか?」


「いいよ!一緒に作っとくね」


インナー用のファングウルフの皮とお金を支払って、店を出た

外は日が暮れ始めていたので、街で晩飯を食べてから宿屋に戻ることにした


「どうせなら、晩飯はあの酒場に行くか·····」

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