レイソウ

 鬱陶しく抱きつくフソウを左手に仕込まれた短剣(を触媒にアルスノで形成される片手剣)で追い払ったシソウは意に沿わない人形2体に背を向けると失望感で丸まった背中をを伸ばして胸を張って肩を後ろに寄せるとそのまま腕の力を抜いて上半身の重さを腰にかけて膝を少し曲げ上まぶたを半分くらいおろした虚ろな茶黒の瞳でデラヌイの闇をぼんやり眺め、蒼暗く長い髪を膝裏くらいの青いスカートのすそ辺りでサラサラと小さく風に流してその裏で指先を絡ませて首を少しかしげていて、シソウはよくそんな風に黄昏ている。可憐な少女人形の後ろ姿の儚い美しさに胸が苦しくてただ見つめるしかできないレイソウに小さな幼い少女人形のフソウがピョンピョン跳ねながらプンプンと怒って突っかかってくる。

「レイソウったら勝手に名前までつけて、ほんとズルいよね」

レイソウはちょっと驚いて我に帰ると下から見上げてくるフソウの瞳を見て心を読み取りフソウの小さな頭に手をのせ、ポンポンしながら微笑みかける。

「ゴメン、ゴメン、フソウにも名前つけてあげるね」

フソウは自分の子どもっぽい嫉妬心を見抜かれた恥ずかしさを隠すようにぶっきらぼうに答える。

「べ、べつにそんなんじゃないし、何でかなって思っただけだもん」

「うん。あの人は人形に名前をつけたんだよ、道具としてね。でも、そんなの嫌だよ。だって僕たち人間だよ、人形の体だけど。魂がバラバラで本当の自分もわからないけど。だからこそ、人形の名前じゃあ心まで人形になっちゃうから‥だから、人としての名前が必要なんだよ」

不理解を首をかしげてあらわす幼女人形。

「よくわからない、フソウはフソウだよ」

顔を向けてそう宣言する幼女人形にレイソウは意地悪な微笑を向ける。

「じゃあ、僕からあげる名前はいらないね」

「えっ、やだやだ、欲しい。レイソウからも名前欲しい」

子どもらしく駄々をこねるフソウのもっと根源的なところに施された処置の痕に怒りと悲しみの混じった感情でレイソウは唇を噛む。

(からも‥か。この子はあの人に与えられた名前の通りでしかいられないんだ。けど、それは僕も同じか。レイ‥‥ソウ‥‥。僕もあの人形師に与えられた役割に踊らされているだけかもしれない。でも、だからこそだよね、シエン。僕たちには必要なんだよ)

「フエン‥だよ、君の名前は」

「フエン、フエンか。よし覚えたぞ。シソウに自慢してやろう」

「えっ、それはまずいかも‥」

止める間も無く走り去ったフソウがシソウに絡んで騒ぎ立てている。レイソウは戦慄の予感しかしない。案の定、シソウは自分だけがもらった特別を易々と他人にも振りまかれた事を知り、恋人に浮気の証拠を突きつける女のような怖い目でレイソウを睨み付けている。レイソウはとっさに後ろを向いて視線を避けてあげた。

(目が合ったら怒らずにはいられないでしょ、本当は怒りたくないくせに‥)

「視線がすれ違うように、心もすれ違う。相変わらずじゃな、お主らは」

振り向いた先にはフソウと同じタイミングでデラヌイに入った、メガネをかけた知的な少女人形がほっほっほと笑っていた。すでに来ていながら遠くから人間を観察する。そういう事が好きなんだ、この思考人形は。


「ウィソウ」


思考人形は笑う。

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ティアレス・リンパス 夕浦ミラ @Uramira

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