第6話 開幕
6話 開幕
ミサイル撃墜の報告を、僕はコックピットで聞いていた。
今回僕が乗る機体は八幡重工製海上機甲兵『デルタΔ』。最も量産されている海上機甲兵だ。海上機甲兵は基本的に海上を浮きながら飛行する。そのため足は推進機など浮くための機械に置き換わっているのだ。
陸上用より燃費が悪い上に戦闘機ほど高度は飛べないので、高度な操縦技術と少数精鋭が求められる。「陸上用より簡単」直方隊長はそう言っていたが、僕はそうは思わない。
空中で立体機動がある分、陸上用よりずっと考えることが多い。(陸上より"気にすること"は減ったかもしれないが)
『九条。』
太く重い声が脳内に響く。声の主は日下部副長だった。
「は、はい!」
『俺はお前を守る為に後方にいるわけじゃあないからな。流れ弾は自分で避けろよ。あと俺の邪魔は絶対にするなよ。もしも俺の足引っ張ったら承知しねえからな。』
「はい、、。(わかっておりますよ、、)」
汗。苦笑。こわい。
『ちょっと大尉。九条君をいじめないでくださいよ?』
直方隊長がフォローに入ってくれた。
『てめぇが説明不足だからだろうが。ド素人を引っ張り込みやがって、、。甘ちゃんがよ。』
『日下部副長はスナイパーなんですよ。しかも凄腕の。』
『余計な事を言うな。』
機甲兵のスナイパー。だから後方支援か。
『いいか。貴様は何もするな。俺の後ろで突っ立ってろ。』
「しょ、承知しました。」
『よし!今回は全員集まったね!』
今回は?
途端。モニターに第一部隊全員の顔が映る。
隊長。副長。花山君。鞍馬中尉。園田少尉。そして、、あと1人。
ショートカットの女の子が映っていた。
『九条君。紹介するよ。彼女は、、』
『冴島楓。』
なんと、紹介しようとした隊長を遮りその女の子は声を出した。
野郎ではなかったようだ。
『そう、冴島楓中尉。』
『気安く名前を呼ばないでください。気持ち悪い。』
うわぁ、、上官にこの態度。きついな。
『あぁ、、ごめんごめん』
あ、謝っちゃうんだ。
『あんたが新入り?』
「よ、よろしくお願いします。」
『はっ、さっさと死ねばいいのに』
嘘!そこまで言う?!
『てめぇ、、』
花山君が声を上げる。
『調子乗ってんじゃねえぞ。大体昨日の』
バチンッ
冴島中尉はモニターを切ってしまった。
『ふざけやがって』
『全く年頃だねぇ』
『直方、、貴様が甘やかすからだ。これはお前の失態だ。』
『も、申し訳ない。』
彼女は雰囲気を荒らしまわるだけ荒らしまわって去っていった。
この部隊、実は結構やばいかもしれない。
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-東京、首相官邸、戦時特別会議室-
『こちら第三艦隊、ACミサイルと思われる飛翔体を撃墜。2本目は確認できませんでした。』
「第三艦隊了解。直ぐに指定海域に向けて動いてくれ。」
『了解。』
「第一艦隊、遊撃艦隊、第二艦隊、そして第三艦隊。いずれも撃墜成功。残りは第四艦隊の報告を待つのみですか。」
「ええ、現在撃墜が確認されているのは7本。あと2本を第四艦隊が担当するという事ですが、、」
ザザッ
『こちら第四艦隊!ACミサイルの撃墜に失敗!!』
「何?!」
『当該飛翔物は北東方面に向かって飛翔中!!高度、方角から標的はおそらく、名古屋!名古屋です!』
「東海全域の守備隊に通達!ミサイル撃墜用意急げ!中部都市圏防衛設備の即時展開!」
「該当飛翔体発見!座標出します!」
「算出次第すぐに送れ!!」
「予想到達時刻は!!」
「30秒後!!」
「間に合いません!!!!」
「南西方面弾幕張れ!!」
「遅すぎます!!」
「防衛設備に頼るしか!!」
「それより市民の避難を!!!」
「間に合わないって言ってんだろ!!」
「5秒後!!」
「逸れろーー!!」
「もう無理だ!救援部隊の準備!!」
「落ちます!!」
「中部都市圏東部第21区画付近に着弾。」
「人口密集地では無い?か、、」
「死傷者は?」
「威力と着弾地点から算出すると200人程度かと、、」
「程度で済ませて良い数なのかはわからんが、、」
「長田首相。どうしますか?」
「まあ、良いだろう。平和ボケ共には良い薬になっただろうよ。救助隊を向かわせろ。それより鈴木中将、あと一本はどうした。」
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-韓国、青瓦台、大統領執務室-
ドアが破壊されんばかりの音を立てて、執務室に物凄い形相をした女性が入ってくる。
韓国社会を裏で牛耳ると言われているアン秘書官だ。
彼女が怒っているのは他でもない。
国のためと思い、秘密裏に連盟側に接近、口八丁でどうにか(時には自分の身体も武器に)外交ルートを繋ぎ、奇襲参戦の一端としての連盟加入に漕ぎ着け、勝利の暁には朝鮮統一を諦める代わりに日本の南西地方と対馬を貰えるという密約まで結び、ロシアからACミサイルまで輸入したというのに、この優柔不断な大統領は直前になって、参戦せず、ミサイルも撃たずとこれまでの努力を水泡に帰すが如き所業をしやがったのだ。
「チェ大統領。」
「は、はい。」
「どういうつもりなんです?」
「いやね。や、やっぱり平和が一番だと思うんです。アジアのリーダーの一角たる韓国が果たすべき役割は、共産覇権主義の尖兵でも民主主義の堤防でもなく、中立を維持し続け、第三者の立場から、この戦争を俯瞰し、正しい方向へ導くと。そういうことだと思うんです。」
はぁ、どうしてやろうかコイツは。
「寝ぼけてんのかジジイ」
「ねぼ?!じっ!?」
「いつまでアジアのリーダー気取りなんだよテメェは?!お前ら歴代大統領が尽く無能な所為で韓国は出生率最低失業率最高債務最大のもうどうしようもない国に成り下がったんだよ!!!GDPはインドに抜かれ、ベトナムに抜かれ、インドネシアに抜かれ、今はなんだ?!フィリピンとどっこいどっこいか?!なぁにが中立だ!そういうコウモリ外交を極めた結果がこれだろうが!!」
秘書に胸ぐらを掴まれ捲し立てられる大統領(笑)の姿がそこにはあった。
「し、しかしだね秘書官」
思いついたような表情をしながら、チェ・ジェソンは秘書の手を振り払い、言った。
「連盟側が勝つという保証はあるのかね?」
「大統領はこの戦局を見ながら同盟側に勝機があるとお思いで?主戦線たるインドでは膠着状態ではあるものの、連盟側優勢は揺るがず、欧州戦線でも連名側は増援によって絶えず増強されているのに対し、二正面作戦を展開する同盟側は押されつつあります。唯一戦線が動いていないのが東アジア戦線と南方戦線ですが、本作戦で日本が崩壊するのは必至。そうなれば浮いた兵力を残りの戦線へ向ける事ができます。連盟側の勝利は確実です!」
「わかった。わかった!もう知らん!私は疲れた!好きにしろ!これからはお前が指示を出せ。」
「承知、しました。」
アン・ソユンは静かに口角を上げた。
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-第三艦隊 旗艦"翡翠"機甲兵格納庫-
『遊佐だ。第三艦隊全隊員に告ぐ、これより、作戦は第二段階へ移行する。全ての攻撃機、機甲兵は直ちに出撃準備を完了させよ。対空、対艦、対潜防衛班は持ち場へ付け。』
司令官の声が響く。どうやら第二段階の目標である韓国艦隊はすぐ近くまで来ているらしい。
眼前では先行する第二甲兵部隊が既に準備を完了し、ハッチの前に居た。
初めての戦闘、戦場、戦争。
前の様なマグレは起きない。敵は一体ではないし、戦場は立体だ。
引き締める。
途端、再び遊佐司令官の声が響く。
『時刻午前4時42分32秒、韓国より戦線布告が通達された。全機、戦闘計画に則り出撃せよ!目標は前方、韓国海軍連合艦隊。繰り返すー』
もう既に第二甲兵部隊は出撃していた。
『我々も出るぞ!』
『「了解!」』
飛び出す。
機体を通して感じる吹き抜ける風。流線形に走る眼下の海面が速度を感じさせる。
鋼鉄の鳥は放たれた。
それは二度と開かぬ死の棺桶か。それとも戦場に現れし天使の軍勢か。
舞台は整った。
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