第15話 消えた絵


個展で忽然と絵が消えた。どこを探しても見当たらない!


高浜健太は二つの趣味を持つ。一つは絵画。もう一つは、廃線深訪。 廃線深訪に出かけたおり、不思議な老婦人と出逢った。その婦人を描いた絵が消えたのである。


***

〈個展の開催〉


高浜健太はその1週間、異常な疲れと興奮のなかにあった。仕事では何回か経験したことはあったが、仕事以外では初めてのことである。まさか、自分が個展を催すなんて思ってもいなかったことである。絵を始めて10年。本格的に描き出したのは65歳で定年退職してからである。60歳までは大手商社で勤務、繊維部部長の職にあった。その上は重役である。それが、ある案件を巡って上層部と意見を異にし、結果退職をして、小さくはあるが、アパレルの新会社を部下とともに起ち上げた。ようやく軌道に乗ったところで、65歳で仕事を引いた。


最初はお遊び程度であったが、市民展に入選したあたりから、少し自信も出来たのか頑張って描き出した。描けば誰かに観て貰いたいもの。文章も書き、とある小説投稿サイトに投稿していたが、自分ではそれなりにいいと思うのだが、人気ランキングは中位から上がったことがない。その投稿サイトは画像も添付でき、画像がまた鮮明であった。


あるとき、『下手な画集』として、絵の下に短文をつけたものを連載した。スケッチに行った時の様子や、建物であればその謂われを、また創作の苦労話なども添えた。長い文章はやはり読むのに大変。まずサイトの作家達が暇つぶしに見るのか、コメントが入った。そのうち一般読者にも人気が波及した。いつしかランキングも上位を占めるようになった。


このサイトは新人小説家が起ち上げたもので、作家志望のかなりな書き手が集まった。しかしそのサイトもキンドルとか電子書籍が出来ると作家たちはそちらに流れ、サイトは寂しくなった。そこで健太は投稿をFBに移し、従来のサイトはホームページ代わりに使っている。長い文章を読むのは大変だが、絵に短文を付けたものはチラットでも観て貰える。FBに絵を投稿する人は少ない。それで楽しんで貰っていると健太は思っている。


コメントも貰え、次も期待していますと云われれば、それが励みになり、サボらなくなった。少しだが絵のファンも出来だした。健太はこうして市民展にも連続して入選出来るようになったのである。


入選すると、県立美術館に展示される。親しいものにも観に来てくれと言えるのである。小学校から続いている同級会のメンバーが10人ほど集まって観に来てくれたのである。その後の食事会で、「個展をやれ、係った費用ぐらいは皆でお前の絵を買うよ」になった。一つには皆でなにがしかの催事をやって集まりたいのである。


こうして健太の個展が、平成も終わろうという年の3月末に催されたのである。この個展に華を添えたのが、その3月初旬に開催された市民展入選であった。3期連続の入選となったのである。その作品はあるライブ歌手の6連作を一つに纏めたものであった。画題を『ボーカリスト』とした。その歌手の大ファンである友人の撮った写真が良かった。熱唱する歌手の表情が見事に捉えられていた。健太は見たとたんに今年のメイン作はこれだと思ったのである。写真に惚れ、モデルに惚れた1作となった。

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