第4話

朝5時に目が覚めた。酒が少し残っていたが、目覚めはよかった。無性にコーヒーが飲みたかった。昨夜の居酒屋の女が云った言葉を思い出し、パン屋に出向いた。

店は開いていて、若い夫婦が白い制服姿でパンの焼き出しに精をだしていた。居酒屋の女に聞いて来たと云って、トーストとコーヒーを注文した。

「お隣にお泊りでしたか…」と、女店主の方がセットをテーブルに置いた。


「早いんですね」

「ええ、4時から焼いています」

「じゃ、閉店まで大変ですね」

「いいえ、12時で閉店です。これから主人は宅配をするんですよ。お客が店に来るほどの場所ではないですし」

「パンの宅配ですか?」

「ええこの町の、と云っても住んでいる人は僅かなんですが、皆さん朝はパン食です」

「ここのパン?」

「パン屋はうち1軒です」


 コーヒーがいい香りをしていた。一口含んで上等の豆が使われているのが分かった。

バターをつけてパンを口に入れた。フワーとした口当たり、そして噛むともっちりとした食感であった。

 思わず、「これは美味いや」と声が出た。

高浜の妻は、料理はあまり上手くはない。しかし、朝のパンとコーヒーには拘った。

作るわけではないが、美味しいパン屋があると聞けば車で遠くまで出かけて、「これはどこそこの店のパン」とか云った。コーヒーの豆は自分で挽き、水は清水の湧くところから汲んで来た水を使った。

 その高浜が云うのである。

「ここの町の人は毎朝こんな美味しいパンを食べられて幸せですね。どうしたらこんなに美味しく作れるのですか」と云うと、女店主は嬉しそうに笑った。


 そうして、このように語った。

「あるとき、隣に泊ったお客さんが、店に来てパンを食べたられたのですが、厨房に入って来て、いきなり『パンはこうして作るのですよ』と作りだしたのです。主人とともに食べたのですが、それは、それはとっても美味しかったのです。ぜひ作り方を教えて欲しいと頼みますと、そう長くは居れないので、あと2泊します。その間に覚えて下さいと言ってくれました。私たちは一生懸命覚えました。作り方のレシピを残してその人は3日目に帰りました。隣の志乃さんを連れてね…」

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