第2話
『F.war』では昨日の歴史的戦争結果とはまた別に、戦争を続けていた
あるものは戦争による利益を取得するため
あるものは戦争をもって技術向上を目指すため
あるものは名誉を得るため
人それぞれ違う目的を持ってオンラインゲームをするも、目指す場所は同じであることに変わりはない
────世界ランク1位
VRを用いたオンラインゲームだからこそ、目指せる領域であり
また、現実世界での知識、感覚なども引き継げられるため、VR特有の感覚共有により現実世界の能力・才能もスムーズに引き出せることが出来る
しかし、ghost22の目的は違っていた
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『シーク・ワイエット国』対『ネグライア国』
森が生い茂る戦場にて、敵の本拠地とされる城が高々と創られていくのを眺めるghost22
「今回は…高低差のある森林地帯か」
無論、ghost22は5万もの戦場を経験しているのだ。どう動けば勝利へと導けるかはだいたい把握している
「敵の本拠地は、なんとまぁ高いところにあるなghost22さんよ」
「なんだ、いたのかジャック」
なんと、警部補ことジャックもまた日本鯖でオンラインゲームをしていた
ジャックのリアルでは米国で警察職に就いているため、ghost22はそう呼んでいた
「サブ垢作ってまで参加しなくてもよかったんじゃないの?」
「これ本垢だ…てか!昨日の出来事でこうなっちまったんだからな?!」
────昨日の独り言が終わる頃に遡るが
ghost22の独り言を聞い終えたジャックは、真顔で語るghost22は嘘をついてないということを理解した
しかし、証拠もなければ信じることは出来ない
『なぁ、なんか証拠ねぇのか?』
『ああ、それもそうだな…おい!くそ天使!』
バーカウンター側から足音もなく、何かが近づいてくるのを目視したジャックは驚愕した
足音がない理由は、床から数ミリ浮いているからであり
また、小さい躯体といえど背中をもろに出したドレス、その背中には天使の刺青が入った──雌
そう、雌だ
白金髪で白肌をした人の形をしているものの、女性でも女子でもなく、性別の雌と区別するしかないその存在は、ジャックを一瞥し、口開く
『ペナルティです』
『は?』
───────────
「ペナルティ言われた時にゃ、体に異常はなかったが…まさかこのゲームで『初心者』に戻されるとは思わなかったぜ」
金髪をかきあげた筋骨隆々の男性、レベル40のプレイヤーネーム“JACK・Daniel“ことジャックはそう呟き、準備運動を始める
「ghost22と戦いたかったが──」
「なんだ?ボコボコにされたいのか?」
ghost22は目を細め、ジャックを睨む
「じ、冗談だよ…相変わらず戦争準備時間は、目つきも口調も変わるな…」
「敵対するなら容赦はしない、それが5万もの戦場で学んだことだ」
「なぁそれさ、俺体験してないんだけど…」
ghost22は疑問符を浮かべる
「何?説明していないのか……おいクソ天使!!」
またもや叫ぶghost22に対し、近くの森から顔をひょこりとチラ見せする少女
「答えろ」
「いや、遠──うぉ!頭ん中に伝わってきた」
1人驚くプレイヤー、ジャックに伝わった内容はこうだ
・ghost22が『たくさんひとをあつめる』と願った為、それを見極める故にジャックを基準として長い年月を観察していたこと
・ジャック自信の戦闘能力、プレイヤースキルに問題がなかったこと
「なんで俺基準なんだよ……まぁつまり俺は、5万の戦場を経験することは意味をなさないってか?まぁ鬱にならなくて済んだだけマシか」
「ジャックはリアル事情もあったからな、警察職っていう立場だが…過去の経歴では、デスクワークよりも現場で人殺してたと俺は聞いた。くそ天使に
ジャックはghost22の言葉を聞き、納得した
つまりジャックは
「ツイてると」
「刑事の時点で問題児になったやつが、五体満足玉二つ無事なのがおかしいんだよ」
「竿も付いてるぜ」
「アホか」
鐘の音が鳴り響く
ゴーンゴーンと2度3度鳴らし、戦場にいるプレイヤー達は意気揚々と雄叫びを上げだす
「この国じゃ叫ぶのか」
「あぁ、死ぬのが恐ろしく感じるらしくてな、叫んでテンション上げるのが習慣化されたらしい」
「だが、叫んでない奴もいるな」
ジャックは周りを見て、叫んでるもの達の中、精神統一している者や怯えているプレイヤーを見つける
「確かこのオンラインゲーム、容姿性別はほとんど現実世界から引き継がれるんだよな」
「そうだ、ネカマ対策に運営が施した方策だ。まぁ女だろうと容赦はせん」
「じゃあよ、俺たちとあのビビってる女の子でパーティ組まねぇ?」
鐘が全て鳴り響くのが終わり、一目散に駆け抜けるプレイヤー達とは別に、ghost22はその怯えた女の子を見つける
「ふむ…まぁいいんじゃないか?ほれ」
ジャックの目前には、パーティ加入の選択肢が出るのでYesを選択する
パーティメンバーにはghost22、JACK・Daniel、そして『雌』が加入していた
名前は“えんじえる“
「名前ひでぇなあの雌、もっと捻れよ」
「あまり文句を言うとまたペナルティを受けるぞ、くそ天使的には気に入ってるそうだ」
「てかなんで普通に戦争に参加して…まぁいいか…女の子誘うぜ」
怯えている女の子の元には、ほかの男たちが集団で勧誘していた
「何やってんだあいつら」
「ああやって脅迫まがいにパーティ加入させて住所割り出すんだよ」
「何が目的で?」
「さぁな、だが盛った男たちの発想なんぞ予想できるだろ?」
「なるほどな」
そう答え、集団に向けて歩き始めるジャック
集団がジャックの存在に気付いたのか、ガン飛ばそうとするが
「こいつ、俺の弟なんだよ。ごく稀に性別認証が誤作動起こして、女キャラになったりするんでな。まさかお前ら“両刀“か?」
そう一言述べ、女の子を救おうとするも
「そ、そんなことあるわけねぇだろ!痛い目みてえのか!てめぇ!」
なんと集団のリーダー格が喧嘩を起こし始める
『F.war』ではファンタジー感はあるものの、戦争をよりリアルに再現するために、敵対する国のスパイなどを行うことも可能であり、スパイに対し攻撃を行うことも可能である
故に、条件下のもとではあるがフレンドリーファイアが可能なシステムでもある
その条件下とは、丸い円形のフィールドが生成され、その中で攻撃が可能となっている
参戦するものは何名いても構わないが、そんな事に全戦闘員を注ぎ込むなど戦争中においては馬鹿げた話である
この場で参加するのは、男の集団の4名
それらに対するはジャックと、ジャックが加入したパーティメンバーのghost22とえんじえるである
「ジャック!時間がおしいから1分だ!」
「“任せろ“、30秒で“ケリつける“」
ジャックは左腕を掲げて『任せろ』と言ったあと、『ケリをつける』で左手の親指を地面に向けて振り下ろす
パーティでの共用会話は可能であるにもかかわらず、集団に聞こえるように対話する2人
その会話を聞き、憤怒したリーダー格は両手武器を出し、ジャックに向ける
「フィールドに入れ!ぜってー許さねぇからな!!」
両手武器を持ったリーダー格に促され、円形のフィールドに足を踏み入れたジャックは戦闘態勢に入る
「“突撃“!!“かち上げ“ェ!」
リーダー格の男は、両手武器の振り下ろしと突進攻撃を同時に行う攻撃スキルを繰り出し、ジャックに当たったことを確認すると両手武器を振り上げる攻撃スキルを誤差なく使った
公式認定の即興コンボだ
威力は10割ある体力の1.5割を削るものだが、突進攻撃による威圧により前線を押し進めることが出来る
しかし、
「ぬるいな」
「は!?な、なんで仰け反らねぇんだ!?」
「知ってるか?円形のフィールドに入る前にスキルを使うことも可能なんだよ…『初心者』どころか『プロ』でも知ってる人間は少ねぇ」
といっても、スパイによる攻撃なんぞ滅多にある訳でもなく、ましてや攻略wikiには小技・裏技程度にしか扱われていない
そして、スキルを発動させるにはスキルの発言と動作を必要とするのだが、『F.war』ではスキルの発言をセリフに変えれる仕様だ
「俺がフィールドに入る前に言ったこと、覚えてねぇのか?あと動作」
「“任せろ“…あれは仰け反り無効化のスキルだったのか!?だ、だが親指を振り下ろしたのは…」
「あぁ?知らねえのか『天武職』シリーズ、『狂戦士』」
『天武職』シリーズは『初心者』のレベル40から受けれるクエストであり、『
クエスト完了への道のりは長く険しい為、『プロ』のレベル45に到達した後に完遂するものが多い
しかし今回の場合、『初心者』に戻されたジャックだが、クエストは完了済みになっていたため『天武職』はそのままの状態になっていた
「嬲りながら『狂戦士』の説明してやる、ありがたく思えよ…“フッ!“」
近くにいたリーダー格を、片手で喉元を掴み、持ち上げる
「カハッ!ゲッ!」
「この『掴み』は武器なしでも可能だ、そんで…“喰らえやァ!“」
ゴンッ!!!とリーダー格の男に頭突きを食らわす
「オベバッ!」
「単なる『頭突き』だが、さっき親指振り下ろした『狂戦士』スキルの『全てを捨て全てを殺す姿勢《デストロイモード》』による攻撃力倍加が加わり、装備の整ってねぇゴミ共に致命傷を与えることが出来る」
致命傷、と言いながらもリーダー格の男は即死した
どうやら装備を整えずに、戦争に参加していたようだ
「準備運動終わりだァ…!次ィ!!!」
ジャックは催促するも、集団の男たちはリーダー格がやられたことでビビってしまい、怖気ついていた
「ジャーック!!30秒!!」
声の主はghost22だ
ジャックはghost22を睨むが、舌打ちし円形のフィールドから出る
「チイッ!!つまんねぇ…」
「女の子もビビりすぎて泣きそうな面してんぞ、てか泣いてる」
ジャックは女の子の泣きっ面をみて、やらかした…と頭を抱える
「ジャックがバツ10理由がわかった気がする」
「言うな…反省はしてんだがスキル効果が入るとどうもな…」
ghost22が代わりにと、女の子をパーティに誘う
YESの返事が来て、加入した女の子
名前は“ウィザードちゃん1000“だった
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森林地帯となると、木の根による足場の悪さがあれば泥濘も存在する
また、隠れた場所に毒沼も存在しているので下手に動けばフィールドダメージによる体力減少も免れない
しかしghost22を先頭に、迷いなくダッシュで駆け抜けるパーティメンバー達
ghost22達はマップを完全把握しているため、確認しながらも“とある場所“へと向かっていた
武器を持たない“ghost22“、“JACK・Daniel“、“えんじえる“
武器を構えながら警戒しつつも、同じ速度で追いつこうとする“ウィザードちゃん1000“
そのウィザードちゃん1000が教えて貰ったパーティ共有会話に切りかえ、自分以外のパーティメンバーに質問をする
「はぁっ…はぁっ…あの、皆さんお強いんですね!」
質問を返したのはghost22だ
「俺は強くない、まだ強くならなきゃ意味がねぇ」
それに続きジャックも返す
「俺もだな、さっきん戦い方でももっと効率よくすりゃ全員殺せた」
えんじえるは返さず、ウィザードちゃんはそれ以降話さなくなった
「なぁghost22、この方向だとメイン戦場よりサブ戦場に向かわねえか?」
ジャックは疑問をぶつけた
ジャックの言う通り、ghost22の向かう先は少人数での戦闘を繰り広げられた場所だった
「なんだ?卵の混じったパーティメンバー連れて、俺たちだけで暴れようってか?」
「あぁ、違うのか?」
「それじゃ、ジャックが女の子守りながら戦えよ?…って、あぁそうか」
1人納得しながら走るghost22は、先程のジャックの戦闘を思い出す
「日本鯖のプレイヤーの質が悪いから、雑魚しかいねえと思ってるのか」
「そゆこと。さっきみてぇな連中ばかりだろどうせ?なら卵連れても死にゃしねぇよ」
たしかに、戦争に参加する者の中で質の悪いプレイヤーがいると『プロ』達からすればカモ同然である
しかし、今回の戦争でghost22達は援軍という形で『シーク・ワイエット国』に介入している
『ゲァル・ブラッディス国』のように新規の卵が所属しても、育成する者が不足している現状では、質の悪いプレイヤーが蔓延し、弱い国のままであり
『シーク・ワイエット国』のように、“荒ヤ“を筆頭に口の悪い連中が勢ぞろいしていると、どうしても新規としては印象が悪くなり質が落ちてしまう
だが、日本鯖の場合そういった事柄は解決している
「今俺たちのいる日本鯖の『シーク・ワイエット国』は、ほとんどが口が悪い。それは正解であり、また不正解でもある」
「??何言ってるかわかんねぇ」
「強気なやつが多いってことは、技術もレベルも対等な位置だってことだ。しかも口が悪いと言っても罵倒や煽り等ではなく、技術面に関して注意喚起するのがほとんどだ」
ghost22の回答を聞き、微妙に納得するジャック
つまるところ、日本鯖の『シーク・ワイエット国』は罵倒や煽りのない文句の言い合いで成長するのだ
「だが、それだと古参しか残らねぇだろ?」
「──メリットとデメリットが揃って、はじめて長続きする」
それを聞いたジャックが完全に理解した
「
「そうだ、そういった報酬を個人、または部隊で用意して日本鯖の『シーク・ワイエット国』は制覇を目指してるんだ、公式の運営側からしたら損にはなるが…」
チラと、ghost22はえんじえるを見る
ジャックはその動きを見て、成程と思った
「そういうことか、俺たちのいる世界は──アガッ」
『イエローカードです、次でペナルティなので注意を』
ジャックの口が何かの圧で閉じられてしまい、危うく舌を噛みちぎるところであった
「ジャック、気をつけておけよ」
「わかったよ…でも納得した。リアル報酬のために成長をし続け、制覇を目指してる…ね」
「はぁー…はぁー…な、なんの話ししてるんですか?」
息切れを起こしている卵のウィザードちゃんは、途切れ途切れに聞いていた会話内容に質問する
というより全く聞こえていなかったようだが
「卵にゃ、まだはぇえ話だよ」
「気にしてると、胃に穴が空くから聞かない方がいい」
「は、はぃぃ…ふぅー…まだ走るんですか?」
息を整えているウィザードちゃん含むパーティメンバー全員は、もう少しで森を抜けれる直前の場所で待機していた
「様子見だ、もう少しすれば………来たぞ」
大きな馬車の音がウィザードちゃんにも聞こえ始める
「あ、あれって!課金馬車で有名な10人乗りの!」
普通、プレイヤー達には馬車を用意されるが最低でも3人乗れればいい程度しか支給されていない
しかし、『ネグライア国』は課金を重視したプレイヤーが多数おり、戦争はもちろんファッションにまで課金するプレイヤーがほとんどで、装備によるファッションショーまで開かれる始末だ
「悪いが静かにしててくれ、ghost22…どう出る?」
ghost22は無言のまま馬車とは反対側を見続けていた
「……来たか!荒ヤ!」
反対側から遅れてくるは荒ヤを筆頭にした歩兵たちだ
しかし、このままでは馬車に轢かれてそのまま突破され、乗り込んでいた敵プレイヤー達に殲滅されてしまうだろう
この状況を打破するために、ghost22は存在した
「まさか荒ヤって奴から命令でも来たのか?」
「いや、それはない。これは俺の独断だが…荒ヤは俺のような存在を予見していただろうよ」
つまりghost22たちが居なくとも、他の誰かが森を抜ける直前の場所に来ることを予見していたのだ
それがghost22のパーティだったことである
「荒ヤのやりたいことは分かる、と言うよりそうしなければいけないってのがな」
「俺なら穴掘る」
「そんな時間ねぇだろ、スキルにでもあったか?」
「あるぜ?カモフラージュは必要だがな」
「わかった、カモフラージュとしてウィザードちゃん1000、頼めるか?」
作戦を練っている途中に、急に呼ばれたウィザードちゃん1000は驚き、素っ頓狂な声を上げる
「はっ、え?へぇっ!?わ、私ですか!?」
汗をかいていたようで、魔法使い職の氷魔法スキルで涼んでいたウィザードちゃん1000
「氷系統か、こりゃ将来『氷女帝』も良いかもな」
「え、えと!?ええ!?」
「地面に氷の棘生やすやつ、あったよな?」
「あ、ありますけど…」
「あの馬車の前に使ってくれ、奇襲と同時に発動しろ」
ghost22はそう言うと、ジャックと共に森から出ようとする
「えんじえる、お前は何もするな。貸しは作りたくない」
呼ばれたえんじえるはこくりと頷き、その場に座り込む
「行くぞジャック、“影は我と共にあり“」
ghost22はスキル発動による宣言をすると、景色と同化し始め、消える
「じゃあな嬢ちゃん、また後で」
ジャックもまたスキルを発動させ、左腕を掲げて、そのまま親指を振り下ろした
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