F.war ──独人の亡霊──
黒煙草
第1話
『F.war』
それは現代におけるVRを用いたファンタジー系のオンラインゲームである
目的としては5つの島国が、ひとつの大陸を制覇するというストーリーで、週に一度最も多くの戦場を制覇した国には特典がつく
このゲームでは制覇した国に、特典として装備品や称号、課金アイテムなどが配布され、プレイヤー達は切磋琢磨しつつもその国の為に、大陸制覇を目指すという趣旨となっている
連携が必須となるこのゲームではプレイヤースキルが求められ、戦場で強い人を見つけると、他国といえども勧誘するという現象が起きる
中央の大陸、南東側での戦場でも戦争中に関わらず勧誘する者がいた
“なぁ君!君の強さは弱小国なんて収まる器ではない!うちの国来ないかね!?部隊も賑やかで、君がいれば大陸制覇なんてすぐできる!返信を待つ!“
勧誘された男はそれを聞き、戦場を駆け巡った
現最強国の『エル・デ・ガーデン国』対現最弱国の『ゲァル・ブラッディス国』との戦争は、エル・デ・ガーデン国が僅差の勝利で幕を閉じた
────────────────────
「“えーでは!お送りしますはエル・デ・ガーデン国の一員でもあるこの私、さばニャンちゃんが、突如現れた『謎の男』に迫るため、エル・デ・ガーデン国最強部隊を誇る部隊長、“SIRIUS“隊長に話を伺いたいと思います!“」
エル・デ・ガーデン国内にて、騒ぐように動画サイト『vi.tube』の生放送を行っている“さばニャン“は、先程の戦場で活躍したSIRIUS隊長率いる最強部隊、『絶望の架け橋』にインタビューを仕掛けていた
“さはニャン“自身、リアルではジャーナリストをしているため、ゲーム内でもリアルを活かして自身の情報サイトに掲載するなどをしている
さて、インタビューを受ける“SIRIUS“はというと
「ヴ〜…ヴガーー!!」
と、叫んでいた
「え、えぇと“SIRIUS“隊長?」
「お、さばニャンさんじゃん。今ちょっと隊長さ、不機嫌だから話しかけるのは控えた方がいいよ?」
そう答えるはSIRIUSが率いる部隊の副隊長の1人、“影太郎“だ
影太郎はサポート役として隊長のSIRIUSを支える一人でもあるが、今回ばかりはどうしても支え切れず、SIRIUSが崩壊寸前となっている
「下手なこと言うと爆発して、リアルの物が粉々になっちゃうからさ──」
「影太郎!リアルは話すなと言ってるだろう!!」
会話のログを見たのか、SIRIUSが遮る
「ったく…クソ…なんだってあんな…いや、いくらかは…しかし…」
「なにやら考えに没頭してますね」
「インタビューしたいなら、僕が話すよ?それとも役不足かな?」
「いぃぃいえいえいえ!!そんなことありませんよええ喜んで!!拝聴させていただきます!!」
サポート役といえど、『F.war』の中でも上位ランカーの影太郎だ、役不足だと言える人間なぞ誰がいるのだろうか
ちなみに全世界2000万人ほどのプレイヤーが存在し、個人部門で10位以内に日本鯖で唯一、SIRIUSのみがランク入りしている
ランク決めは、年に2度世界規模でオフライン大会イベントがあり、各国から来たる部隊のうち、選ばれた人間がパーティを組んで総当り戦をするのだ
日、米、仏、韓、中、独、露、豪が参加し、大会は各国順番に開催している
話を戻すとして、全世界部隊ランクトップ10入りのSIRIUSの部隊、その副隊長の影太郎は、さばニャンの質問に答えていた
「では、謎の男の職や容姿、レベルについて伺って宜しいでしょうか?」
「職は僕と同じスカウトだよ。格好は店で売られてる装備だったね。ほら、枯葉のやつ。今どき珍しいなとは思ったけど…」
「ほうほう、それでそれで?」
「レベルは『初心者』のレベル40だったね」
『F.war』ではレベル1から45まであり、レベル1から39までは『卵』扱いされ、40から『初心者』扱いを受ける
39までの『卵』でも前線に立てるが、敵から標的にされ、ブラックリスト候補にもなり、しまいには戦場から追い出されることもある
レベル40から前線に立てるが、生半可な覚悟・連携では、仲間に迷惑をかけ、ブラックリスト候補となる
ちなみにレベル45は『プロ』扱いを受ける
「ふむふむ、『初心者』ですか…しかしその方のおかげで僅差になった訳では無いでしょう?」
「まぁね、途中参戦してきたクソ緑国の“荒ヤ“が入ってきたから僅差になったんだけど…」
最強国と最弱国では大差での勝利が約束されているが、何を思ってか影太郎が言ったクソ緑国である『シーク・ワイエット』国の“荒ヤ“というプレイヤーが介入した為、僅差になった
“荒ヤ“は『シーク・ワイエット』国にとどまらず、敵対する国全てにおいて、口の悪さが有名なプレイヤーだ
その口の悪さはブラックリスト候補にも上がるほどではあるが、荒ヤのプレイヤースキルのひとつ、『指揮』がトップランカー達の目を惹く程の才能を持っている
『プレイヤースキル』とは、ゲーム仕様のスキルとは別に、プレイヤー自身の持つ能力・才能を表す言葉で、荒ヤが『指揮』であれば、SIRIUSは他のプレイヤーを率いる能力を持つ『鼓舞』とでも言おうか
荒ヤは指揮能力が高い為、即興のパーティでも順応し、確実に勝利へと導くほどの頭の回転を持ち合わせている
「では、荒ヤプレイヤーの指示を受けた他プレイヤー達が今回の僅差を産んだ、と」
「荒ヤ1人の指示を真に受ける者は少ないし、僕ら部隊のレギュラーが総動員で潰そうとしたんだけど…」
影太郎は、さばニャンに個人での通話に切り替える
(SIRIUS、僕、ほかレギュラー含めたパーティ5人がその『謎の男』に止められちゃってね)
「ふぇ、え、えぇ!?5人相手に1人で!?」
「わ、バカ!通話くらい切りかえてよ!」
さばニャンの大声に周囲の人はなんだなんだと顔をこちらに向け、SIRIUSがゆらりと立ち上がる
「私は…負けた訳では無い…」
「あっ…い、いえ!そりゃ負けるはずがないですよね!!最強を誇る我らエルデの国の部隊がそんな…」
「そうだ、あれは何かの間違いだ!!“ラグア“でも“チート“でも使ったのだ!!でなければ…!!」
“ラグア“とは、回線速度の遅さが原因となる無敵等の仕様だが、そんなものを用いればBANは確実である
“チート“を使用したとなれば住所まで晒され、物理的報復、果てには企業側からの訴訟までが待っているのだが…
『謎の男』に関してはそう言った現象は起きなかったのだ
つまり、なんらかのプレイヤースキルを持っており、SIRIUS達の攻撃を避けつつも足止めをしていたことになる
「全ての攻撃を避けた、ですか…?」
「僕もそういった人は、…2人かな、知ってるけど、どちらも世界トップレベルだし、ましてやその人達のサブ垢という線は絶対にありえないからね」
「なるほどなるほど…では最後にお名前を聞いても?」
(『ghost22』だよ、キャラクター作る際に被ったから数字が着いたと思うけど、本当に幽霊みたいな存在だったよ)
「わかりました、記事にしてサイトに載せますので良ければ見に来てくださいねー!」
こうして、エル・デ・ガーデン国最強部隊のインタビューが終わった
チャット会話記録───────────
「ねぇSIRIUS、そろそろ寝ていい?」
「ダメだ、ghost22のチート行為を確認せねば私は寝ないし、お前も寝るな」
「チートって…はぁ…まぁ敵対するプレイヤーの研究は良いんだけどさ、他の部隊員はもう寝落ちしてるんだよ?土日挟むから良かったけどさ…」
「影太郎、貴様は何も思わんのか?私を含めたレギュラーが全員足止めを食らうほどの技術を持った男を」
「そりゃ気になるけどさ、もう眠たすぎて頭回んないよ」
「むぅ、そうか…」
「そりゃ同じ場面を再生し続けられたらね、数秒前に可愛い娘いたからそこ回してくれたら…」
「影太郎、貴様…私と寝ておきながらほかの女に目移りするとはどういう了見か!」
「え、えぇ!切れる所そこ?!い、いやごめんってば!」
「……ふん、まぁいい、しかし…似ているな」
「お?なんかヒントでも見つけました?」
「あぁ、私が『F.war』を始めた卵同然だった時の話だがな」
「あー…運営方針がまだ不安定な状況の時の話ですね」
「そうだ、影太郎との出会いはまだだ…あの頃に一人の男とタイマンしたことがあってな」
「負けたんですよね、何度も聞いてますよその話」
「うむ、私達部隊の教訓にもしているくらいだしな!」
「わかりましたって。それで?ghost22の正体がその男だって言いたいんですか?」
「可能性の話だがな…動きが酷似している」
「それ、思い出したんなら部隊員に言ってくださいよ」
「影太郎、お前は自分が負けた話を喜んで報告するか?」
「いやさっき教訓にしてるって言ったじゃないですか」
「その教訓に私が負けた話を載せるわけがないだろう!」
「あっはい」
「話を戻すが、私はその過去の男に何度も挑んで負けた挙句、その男は消えるように姿をくらましたのだ、あれは勝ち逃げだな」
「そっすね」
「だから私はそれが許せず、強くなってその男を見返し、負けを認める姿を部隊員達に晒してやろうと思ったのだが…」
「行方くらましてますからね…今の今まで会ったことないんでしょう?」
「…そう、そうなのだ……だがしかし!今回はどうだ?もしこのghost22が同じやつの可能性があれば」
「…さすがに今度は勝てるでしょう、隊長の卵時代と、世界2位の今とでは差がありますからね」
「あぁ、そうだ。今回は足止めだったが次こそは決着をつけてやる…っ!!ghost22!!」
「まぁ、隊長は走り出したら止まらないっすからね、僕もついて行きますよ」
────記録はここで終わっている
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
『エル・デ・ガーデン』
『ネグライア』
『シーク・ワイエット』
『ホロウィッツ・ヘルヴ』
『ゲァル・ブラッディス』
この5つの国を持つ日本鯖では『エル・デ・ガーデン』と『ゲァル・ブラッディス』の話でもちきりである
──────僅差
参戦するプレイヤーの質にもよるが、指揮を行った荒ヤと、最強部隊を足止めした一人の男による戦争結果に盛り上がりを見せた
ネット上ではエル・デ・ガーデン国最強部隊の『絶望の架け橋』が設立したサイトの炎上が多発し
現実世界ではプレイヤーたちがオフラインで談義するほどである
「話がもちきりだな、“ghost22“」
ガールズバーに働くボーイに向かって話しかける男性
両耳にピアスを施した金髪をかき上げている男は、ボーイに『いつもの』と頼むとビールにトマトジュースを混ぜいれる
「その名は呼ぶなって言ったろ…てか他の女と喋ろよ“警部補“殿」
警部補と呼ばれた男は苦笑し、1口飲む
「いいんだぜ別に?こんなところでボーイしてることをいい事に補導してやっても」
「やめてくれよ、チーママに恩があるんだ…返すまで働かせてもらってんのに」
「冗談だよ、真に受けるな」
「シャレにならないんだよあんたの場合」
警部補と呼ばれる金髪のヨーロッパ系の男と、ボーイのghost22は軽口を叩き会いながらも談笑する
「久々に戦ってみてどうだ?ghost22」
「だから…はぁ、もういいや。SIRIUSのことだろ?前に比べて強くはなってるよ、データ的な意味合いではな」
「そら『卵』と『プロ』は違うに決まってるだろ、それで?腕はどんなだ?」
「技術は向上してた、けど癖は治ってない。弱いままだ」
「言うねぇ、やっぱ元世界ランク1位は言うこと違うねぇ」
「茶化すなよ、現世界ランク1位」
警部補と呼ばれる男は『F.war』にて世界ランク1位だった
「ふっ…俺もそのうち辞退するよ、頂点に立っちまうと見える世界が違ってな」
「その光景を、俺が休止してから10年間見届けるか?普通」
「見すぎて目が眩んでしまったがな」
「失明してんじゃねぇか?」
「光は失ってないがね」
「言ってろ勝ち組」
そして1口飲む男
「俺も1杯飲ませてくれよ」
「その時は逮捕するからな」
「…ちぇっ、ケチくさいなぁ」
「…」
「…」
黙る2人だが、警部補が口を開く
「……なぁ、休止を取りやめるってのは本当か?」
「ん?あぁ、パソコンとVRが買えたからな…というより驚いたわ、メールアドレス開いたらトップランカー達から大量のメール来るとか」
「それだけてめぇの身辺を気にしてたんだよ…俺だって最近お前さんがここで働いてるなんて、知らなかったしな」
「ハックすりゃすぐ割れるだろ」
「ハック元がねぇと探知できるわけがねぇたろ」
「そうかい」
「……ジュースぐらい奢ってやるよ」
「お、気前いいですね。同じの貰います」
「逮捕だ馬鹿野郎」
「ういうい、烏龍茶貰います」
トクトクと流す烏龍茶を、見つめる金髪の男は質問をする
「リプレイ動画見させてもらったが、1分前に映った女は誰だ?」
「……俺を見つけた女だよ、気味が悪い」
「お前さんを?身内か学校関係者辺りか?いやそれでもたどり着ける確率は相当…」
「どうやったか…なんて知らないけど、俺を見つけてから『F.war』にログインしろってうるさくてな」
「つまり、全てを知っているってことか…まじ変なのに絡まれたな」
その言葉を皮切りに、2人は無言になる
「…なんか話せよ、ボーイの立場としたら最悪だぞ」
指摘されたghost22は一瞬黙り込むが、答え始める
「いや、な…俺が『F.war』をまた始めたきっかけが…」
「なんだ?さっきの女絡みじゃねぇのか?」
「ストーカーとかそういうんじゃなかったんだよ…なぁ、“ジャック“────」
“神様っていると思うか?“
ghost22の問いに、ジャックと呼ばれた警部補はバカ笑いする
「アッハッハッハッハッ!なんだそりゃ!!あいにく俺はキリスト教信者でな!そりゃアレか!この国特有の108万の神様って奴か!」
「まぁ、信じろとは言わないさ…こっからは独り言だから反応しなくていい」
ジャックは眉間に皺を寄せ始める
ghost22は本気だと
──とあるオンラインゲームの大会で一位となった人間が行方不明となった
運営に拉致されたか、神隠しか、はたまた恥ずかしがり屋なのか
その疑問に誰も解答を出せず、1週間が過ぎていた
その行方不明者は、1週間のうちに5万もの戦争を続けていた
あるときは荒野の砂漠地帯
あるときは森が生い茂る森林地帯
あるときはビルが建ち並ぶ都会
あるときは平面にただ四角い障害物があるだけ
まだ少年と呼べる1位は、50人対50人のどちらかに混ざり、そういった戦争を繰り返した
1週間──その最終日に結果が出され
48352勝1648負という結果を残した
少年は精神的に疲弊していたものの、結果が出たことからその複数の戦争から解放されると思い、その場に座り込んだ
急に声がしたことに気付いたのは、寝落ちして起きた時だった
『……!…て下さい!あ、起きましたか?おめでとうございます!あなたは選ばれました』
女性の声を聞き、思考する
何にだろうか?そう質問しようとするが声は出ない
『あぁ、安心してください、今は』
今は、とはなんだろうか?
『あなたには選ぶ権利があります、“戻る“か“醒める“か。この二択のみですね』
すると、選択肢が目の前に現れる
────『戻る』or『醒める』
この選択肢の枠は『F.war』に用いられるもので、未だ少年はゲームの話だろうか、と疑問がよぎった
だが、説明不十分と思った少年は勇気をふりしぼり、行動する
爪で皮膚をえぐり、血を吹き出す
『え、ええ!?ちょ、ちょっと!!動きは封じてないけど何しちゃってるの!?』
少年はその声を無視し、白い床に血文字を書く
“そのさきになにがあるのか“
『むー…むぅーーーっ!!そりゃ回答させる権限は貴方にはあります…けど言いたくないです!』
“ならばせんそうをよういしろ、おまえたちのまんぞくのいくけっかをだしてやる“
『あ、あーーもーー!!そんな血を出したら…って、博士!?ちょっと何して』
声の主が変わる、老いた男の声色だった
『…ゲホッ、ア“ァ“…先には戦争がある、『F.war』よりも過酷で、死よりも恐ろしい戦争が』
少年は満足し、選択する
[>『戻る』 ピッ
“それならばたくさんのひとを つれてくる ぼくひとりではだめだ“
『フンッ!わかったわい小僧…ゲホッゲホッ!だが忘れるな、時間が無いこ──────』
ノイズが走り、声が聞こえなくなると同時に少年の目前はホワイトアウトした
────────独り言はここまでだ
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