辛いよ
揺すられるたびに断続的な痛みが響く。
その得る痛み一つ一つに自分の過ちを重ね、そしてこれまでの顛末を無知な少年に事細かに伝えていくのに、平常心で語れないのは元からわかっていた。
だけれども今、このあまりにも残酷で理不尽で無慈悲な事実は少年の耳に届けなければ、
もう、自分が自分で分からない。
全てを話すことで少年の心に傷が付くのは必至、少年にはただ幸せになって欲しかっただけなのに、それを告げるのはあまりに酷い。
優しくて、暖かくて、幸せに溢れていたあの村、村の人々、そしてシスター。
全てがもう無かった事になってしまう。
そんな百八十度回った世界になってしまった事に、全てを語り尽くした後、涙と共に懺悔が零れ落ちる。
「ーーごめん、ごめん、おれが、俺のせいで、村が、みんなが...」
「バカ、お前のせいじゃないだろ。悪いのは魔族なんだ、何一つお前の責任じゃない、だから泣くな、お前らしくない。」
違う、違うのだ。
謝りたいのはそんなことじゃない。
あの瞬間ーーシスターに逃げろと言われた瞬間、恐怖であの場から逃げた瞬間、
もし戦いに応戦していたら、シスターの言葉に反抗していたら、『運命』に抗っていたらあるいは...
コナーの中で自戒の念が膨らむ。
それでも、少年は重い一歩を突き進む。
「...ナイト、お前は、辛くないのか?知らないうちに故郷がなくなって、愛していた人たちが殺されて、帰るべき場所も壊されて、何もかもなくなって...」
「辛いよ」
その言葉には何の飾りっ気もなく、ただただ短くそう呟かれ、でもそれだけでどんなに飾ったものよりも強く、濃く感情がこもっていて。
コナーは自分の軽薄さを呪った。
辛く無いはずがない。悲しくないはずがない。あんなに笑って過ごした毎日が、共に夢を追いかけた毎日が、嘘だったのかなんて、それは愚問であり愚弄だ。
「じゃあ、何でそんなに平然としてられるんだよ」
「...」
コナーという人間はなぜこんなにも愚かなのだろう。
自分がこれほど落ち込み、性懲りも無く何度も落ち込み、それなのにナイトという少年は何でこんなにも強くあれるのか。
それを問い質そうとする。
もしかしたらコナーは羨ましかったのかもしれない。
昔から直向きに頑張っている彼が、心で動ける彼が、今もこうして強く進んでいる彼が、
そう思った時、傷がより強く傷んだ気がした。
歩みを緩めない少年は悟られないように目尻に涙を隠しながら震える唇で微笑んだ。
「悲しみに悲しみをぶつけても、そこには悲しみしか生まれない。」
それは丁度涙で悲しみを拭い去ろうとした時のように、
「憎しみに憎しみをぶつけても、そこには憎しみしか生まれない。」
それは丁度運命に諦めた自分を恨んだ時のように、
「一体何が言いたいんだ」
「ーーつまりだ」
少年は今から自分が言うことを証明するかのように、誰に向けたわけでもなく作った満面の笑顔。
少年にとってこれが正解なのだ。
「僕たちは悪感情を幸せで上書きしていくしかないんだよ。だからほら、笑え、そしたらきっと視界が開けるぞ。」
「...」
真の強さとは、そして芯の強さとは、今ここでわかった気がする。
きっとこの少年のような奴をそう呼ぶんだろう。
どんな逆境に立たされようとも、どんな苦節に苛まれようとも、挫けず我を突き通すことのできるそんな人間。
ほんと末恐ろしい。
こんな人間が近くにいるなんて、コナーの運命というのも侮れないかもしれない。
当然、あの夜の出来事は忘れることなんてできないし、この胸の中に眠っている感情も消し去ることはできない。
それでも、少しずつかも知れない、この少年と一緒なら何でもできそうな気がする。
自分を埋め尽くす負の感情を幸せで上書きできるかも知れない。
この、『英雄』のような少年と一緒なら。
二人にまばゆい光が注がれる。
それが太陽の光だと刹那の時も必要ない。
眼下には巨大な城がそびえ立つ、巨大な城下街が広がっていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます