第352話 演習開始


 ついに始まった三校合同演習。


 眩い日差しが照らしつける中、俺たちは話しながら歩みを進めていた。


「さて、まずはどうしたものか」

 

 俺は顎に手を当てて、思考をする。今回の演習において、いろいろとやるべきことは多い。水の確保や、食料の確保。その他、必要なものは適宜回収しておきたい。


 また、演習ということもあって楽に突破できることはないと考えている。仲間での連携、それに体調管理なども重要だ。


「レイ。まずはどうしますの?」


 アリアーヌが尋ねてくる。


「ともかく、進むしかないだろう。水などは魔術で生成できるとしても、食料の確保が必要になってくる」

「うんうん。僕もその意見には賛成だね」


 ザックが俺の意見に同調してくれる。体を動かすことは得意ではないらしいが、彼の頭脳は頼りにしている。


「レイ。君はいま、僕の頭脳を頼りにしていると思ったね?」

「よく分かったな」

「あぁ。しかし残念なことに、僕にサバイバルの知識はないっ! 足を引っ張らないように、頑張るとするさ! ははは!!」


 高らかに笑う。


 いや、笑うところではないと思うのだが、ザックの表情はとても晴れやかなものだった。


「レイくん! 私も頑張るからねっ!!」

「エリサ。そうだな。一緒に頑張ろう」

「うん! 去年はレイくんにたくさんお世話になったけど、今年はそうならないように頑張るよ」

「あぁ。その意気だ」


 と、つい頭をエリサの頭を撫でてしまう。ステラによくしているので、背丈の似ているエリサに同様のことをしてしまった。


「は、はう……」

「レイ! 何をしているんですの!」

「す、すまない……つい」

「ステラにしている癖が抜けいない。そんなところでしょう?」

「よく分かったな」


 ザックといい、アリアーヌといい。どうして俺のことがそこまで分かるのだろうか。


「べ、別に他意はありませんわよっ!」


 プイっと顔を背ける。


「ふむ……アリアーヌ嬢。顔が赤くなっているようだが?」

「これは日差しのせいですわっ!」

「いや明らかに照れて──」


 次の瞬間。アリアーヌはザックの肩を強く叩くのだった。


「ザック。乙女には、触れてはいけない部分がありますの。理解しましたか?」

「あ……あぁ! 僕は聡明だからね! これ以上は追及しないでおくよ!」

「えぇ。ザックはとても聡明ですわよね?」

「あぁ!」


 何やら問答をして、無事に収まったようだ。


「さて、進むに当たってだが……俺が先頭。後ろにはエリサとザック。後方はアリアーヌがいいだろう。近接戦闘は任せて欲しい」

「ふむ。それが最適解だろうね。去年の大会の実績から見るに、レイとアリアーヌ嬢は非常に近接戦闘が得意だ。おそらくは、学生の中でも屈指と言えるだろう。一方で僕とエリサ嬢は、近接戦闘はからきし。後方からの魔術支援をすればいい。だろう?」

「あぁ。流石はザックだ」

「ふふ。それほどでもないさ」

 

 くいっと眼鏡をあげて、得意げそうな顔をするザック。どうやら全員のことはしっかりと頭に入っているようだな。


 そうして四人で進んでいく最中、魔物と遭遇したりもしたが、全員の力を合わせて無事に突破していく。


 アリアーヌは去年よりも体のキレが良くなっているし、エリサも成長している。ザックのことはよく知らなかったが、とても綺麗なコード構築をしている。


「ふぅ。すまないね。僕はコード構築が遅くて」

「いや、非常に綺麗だと思う。誰かに習ったのか?」

「いや独学だよ。魔術のことを考えるあまり、気がつけばクセが抜けなくてね。魔術は面白い。とってもね」


 にこりと微笑むザックは本当に魔術のことが好きらしい。これはきっと、将来は偉大な研究者になるのかもしれないな。


「僕のことよりも、レイ。君だよ!」

「うおっ!」


 ザックがグイッと詰め寄ってくる。


「君、本当に一般人オーディナリーなのかい!?」

「まぁ……一応そうだが」

「ふむふむ。しかし! 内部インサイドコードの扱いは、学生の中でも随一。いやそれ以上だね! ただ君の場合は、魔術というよりも戦うことに慣れているような? 去年の大会でも思ったけどね」

「……」


 的を得ている。


 どう返答しようかと迷っていると、アリアーヌが助け舟を出してくれる。


「ザック。あまり追及するのは良くないですわよ」

「おっと……これは失敬。悪い癖でね。すまない、レイ。君もいろいろと事情があるのだろう。ただやはり君は、素晴らしい魔術師だね。そのことだけは、間違いないね!」

「恐縮だ」

「良ければ、少し僕に内部インサイドコードを教えてくれないかい?」


 その瞳は俺の過去を探ろうとしているものではない。純粋に、魔術そのものに興味があるという顔だった。


「あぁ。構わない」

「あ! わたくしも聞いておきたいですわ!」

「私も……!」


 俺たちは休憩がてら、魔術談義に入る。全員ともに魔術に対する造形が深く、とても有意義な話をすることができた。


 特にザックは魔術に対する知識量がかなり多い。俺もそれなりに詳しい自負はあるのだが、ザックは俺と同等かそれ以上。


 そうしてしばらくの間、魔術談義を続けるのであった。

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