第351話 三校合同演習、概要
「では、まず初めに今回の合同演習の概要を説明する」
早速始まるガイダンス。俺たち二年生は黙って教員の話を聞くのだが、何故だか俺に対してかなり視線が集まっているような気がした。
また、今回のガイダンスの説明をしているのはアビーさんだった。なんでもこの三校合同演習を立案したのは彼女だとか。革新的なことをするのに驚きはないが、去年のこともある。
去年はグレイ元教諭が裏で暗躍していたこともあった。そのことを生徒側で知っているのは俺を含めてごく少数だ。その件もあるのか、今回は教員の数がかなり多い。それによく見ると、教員ではない人間もこの中には混ざっているようだ。
おそらくは軍人。アビーさんの伝手で呼んだのだろう。
「今回の演習。基本的には一年生の時と同じ、サバイバル形式になっている。しかし、同じことばかりではない。今回の演習では三校合同演習ということで、基本的には他の学院の生徒と組んでもらうことになる」
説明を聞くに演習内容は去年から大きな変更はない。ただし、四人一組でのパーティは基本的には別の学院の生徒と同じになるようだ。
新しい出会いに心が躍るのもあるが、やはり俺はどこか気になる点があった……。
「君たちには三日間、ジャングルを抜けた先にある目的地を目指してもらう。もちろん必要なものはすでにこちらで準備はしてある。ただし、去年の森での演習とは異なり今回はジャングル。人の管理はほぼなく、密生した木や草などで覆われている。魔物の種類も多種多様だ。そこは十分、気をつけて欲しい。万が一の時は、魔術で知らせればすぐに駆けつけよう」
今回の演習は森ではなく、ジャングル。違いはあまりなさそうに思えるが、森は基本的に人間による管理がなされている。カフカの森やドグマの森なども、ハンターによる管理下に置かれている。
ただしジャングルはそうではない。今回の演習、かなり過酷なものになりそうだ。それに加えて、今までとは違うパーティーで取り組む必要がある。確か今回の演習で使用されるジャングルはそこまで厳しいところではないが、新しい人間と一緒に進んでいくとなると……また話は変わってくる。
人間関係というものはかなり重要だ。相手の性格や得意な魔術。それを知った上で立ち回りができるというのに、今回は一から人間関係を構築していく必要がある。
しかもすでにパーティーメンバーは決めてあるという。おそらくは教員間でかなりの議論を交わした上で決めたのだろうが、それを踏まえても今回の演習は一筋縄ではいかないな。
「それでは、パーティーメンバーを発表していく。名前を呼ばれたものから、前に出て来てくれ」
そして次々と呼ばれていく生徒の名前。アメリア、エヴィ、アルバート、クラリス、。いつものメンバーはそれぞれ別のパーティーになったようだ。エリサの名前はまだ呼ばれていないようだが。
そして最後の方になって俺の名前が呼ばれた。
「……レイ=ホワイト」
「はい」
軽く声を上げると俺は立ち上がって前の方へと歩みを進める。
その後、俺と同じパーティーメンバーの名前が呼ばれることになったが、それは意外なものだった。
そう。俺と同じパーティーになったのは、アリアーヌとエリサ。加えて、メルクロス魔術学院の男子生徒だった。四人で集まるとまずは自己紹介をする。
「こほん。それでは自己紹介でもしましょうか。あまり時間がないようですしね」
アリアーヌがそう口にするとまずは彼女から自己紹介をしていく。
「知っているかもしれませんが、三大貴族が一人。アリアーヌ=オルグレンですわ。以後お見知り置きを」
さらっと自身の髪を流しながら自己紹介をするアリアーヌ。今日もいつも通り美しい。その立ち振る舞いは流石の三大貴族といったところか。
次はエリサの番だった。
「あ……えっと……エリサ=グリフィスです! よろしくお願いします!」
ペコリを頭を下げる。緊張しているのか、エリサの声は少しだけ震えていた。知り合いである俺がいるとはいえ、アリアーヌとはほぼ初対面に近いし、もう一人の男性生徒は全く知らない。無理もないだろう。
「レイ=ホワイトだ。よろしく頼む」
簡素な感じで自己紹介を済ませる。そして最後の彼が自己紹介をするのだった。
「僕の名前はザック=グライムス。気軽にザックと呼んでほしい」
茶色い髪は少しだけウェーブがかかっている。基本的に顔立ちは目立つ方ではないが、話し方とかけている眼鏡から彼は利発そうな印象を受けた。
「よろしく頼む。ザック」
「おぉ! 君があのレイ=ホワイトだね!!」
彼はグイッと俺の近くに寄ってくると、メガネをクイっと持ち上げる。
「あの……?」
「あぁ! 君は去年の
早口で一気に語っていくザック。なるほど……メルクロス魔術学院は基本的には魔術理論で有名な学院だ。俺が抱いた印象は間違っていなかったようだ。
しかし、去年のあの戦いからそこまで分析しているのか……。ある程度は抑えていたとはいえ、決勝戦ではかなり本気を出して戦った。見る人間見れば分かるのだろうが、同い年の人間にそれが分かるとは。
彼はやはりとても聡明なようだ。
「そう……だな。一応、特別な訓練は受けている」
「やっぱり!! うんうん。やはり僕の分析は間違いないようだね……!」
キラキラと目を輝かせて彼は自分の推論を語ってくる。俺も魔術理論に関しては興味があるので、彼とは話が弾んだ。と、二人で語り合っているとアリアーヌがパンパンと手を叩いた。
「お二人とも。そこまでですわ。まずは、このパーティーでどうやってこの演習をクリアしていくのか。話し合いませんと」
「おっと……僕としたことが。つい熱くなってしまって。でも、アリアーヌ=オルグレンさんにも僕は興味があるんだよ」
「その話はまた後でしましょう」
「それもそうだね。僕としては、この四人パーティーになったことは意外じゃないかな?」
「意外じゃない、ですの?」
「あぁ」
ザックはすでにどうしてこの4人なったのか分かっているようだった。いや、俺としてもある程度は分かっているのが……自分で言う必要はないようだ。
「まず僕はかなり運動音痴だ。正直言って、去年の演習では苦労したよ。いかにメルクロス魔術学院とはいっても、実技は避けられないからね。学年では一番下といっても過言ではない。そして、エリサ=グリフィスさん。僕は君のことも知っているよ」
「え……ど、どうして私のことを?」
「君、頭が良いだろう? それに将来は僕と同じ研究者を目指している。違うかい?」
「あ、合ってます!!」
「ふふ。同年代の優秀な人間はすでにデータとして集めているからね」
彼は満足そうに微笑みながら再びクイッと眼鏡を持ち上げる。
ふむ。やはり彼も将来は研究者志望なのか。
「僕が持つデータを照らし合わせれば簡単さ。おそらく、レイ=ホワイト君とアリアーヌ=オルグレンさんはこの二年生の中でトップクラスの身体能力を持っている。一方で僕とエリサ=グリフィスは一番底辺の身体能力。上と下が組むことでバランスをとっているのさ!!」
このパーティーのメンバーを見れば、おおよそそうではないかと俺も思っていた。まず、俺とアリアーヌがパーティーになるのは正直あまり考えていなかった。共に身体能力はかなり高いからな。となると、残りのメンバーは体を動かすのが苦手と思うのが至極当然だろう。
「う……やっぱり、そうだようね……」
「エリサ。落ち込むことはない。人間には適材適所がある」
「う……うん! ありがとうレイくん」
エリサは去年はかなり緊張もしていたし、落ち込んでもいた。足を引っ張るかもしれないとずっと考えていたからだ。しかし、一年が経ってエリサも成長している。身体能力という観点でみれば、まだまだかもしれないが彼女は精神的に大きく成長した。
きっと大丈夫だろう。
「ふふ。僕としては色々な意味で面白いメンバーになったと思うよ。さぁ、この演習をもっと華麗に、そして美しくクリアしようじゃないか!! はっ、はっ、はっ!」
一人で高笑いをあげるザックを見て、アリアーヌがこそっと耳打ちをしてくる。
「どうやらかなり濃いメンツになったようですわね……」
「そうだな。でも、俺も楽しみにしている。それにアリアーヌと会うのは久しぶりで、こうして同じパーティーになれて嬉しく思う」
「も、もう……! レイはいつも……!!!」
顔を赤くしてバシッと背中を思い切り叩かれる。何か気に触るようなことでもしてしまったのだろうか……。
ともかく、俺たちはこの四人で演習に取り組むことになるのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます