第342話 レイの行先


 いつものように授業を受けている最中のことだった。


 俺は去年からずっと魔術が上手く使えなかった。魔術領域暴走オーバーヒートの後遺症を自分で封じるために魔術領域のほとんどを消費してしまっていたからだ。


 それに加えて師匠との制約もあったので、一時的に解放できるとはいえ満足に魔術を使えるのはかなり先になる……そう思っていたが今現在はかなり調子がいい。


 完全に完治したわけではないが、魔術領域暴走オーバーヒートは限りなく治まって来ている。そして今日の授業ではアメリアと肉薄するほどには良い魔術を使うことが出来たと思う。


「レイ。調子良さそうね」

「アメリア」


 今はちょうど演習場で実践魔術の授業中。課題である魔術をこなしていくのだが、俺とアメリアはかなり早く終わってしまった。


「そうだな。自分が思ったよりも、感覚が戻って来てるのかもしれない」

「それなら今年は出れそうじゃない?」

「もしかして魔術剣士競技大会マギクス・シュバリエのことか?」

「えぇ。私たちはもう二年生だから新人戦には出れないけど、本戦にレイなら挑戦できると思うけど」

「そうか……そうかもしれないな」


 魔術剣士競技大会マギクス・シュバリエがもうすぐやってくる。まだ代表選手を決める校内予選は始まっていないが、すでに学院内で噂されている。今年は誰が出て、誰が優勝するのか。


 去年の新人戦の覇者はアメリア、本戦はルーカス=フォルスト。


 俺が仮に本戦に出るとなると、アメリア、アリアーヌ、ルーカス=フォルストと戦う可能性は大いにある。思い出す。去年の魔術剣士競技大会マギクス・シュバリエ終了時に、絶刀の魔術師であるルーカスに言われたことを。


 彼は俺と戦いたい、と言っていた。決して殺し合いをした上で優劣を決めたいのではなく、あくまで大会のルール内で優劣を決めたいということだろう。

 

 でもそうか。俺にもそんな選択肢があるのか。


「レイ。今年はお前も出るのか?」

「アルバート」


 アルバートもまた課題を終わらせたようで、こちらにやってくる。


「そうだな。もしかしたら、出るかもしれない」

「それは楽しみだな。俺ももちろん今年も出場する。去年はアリアーヌ=オルグレンに敗北したが、今年こそは勝ち切ってみせる。それにレイとももう一度戦いたいしな」

「アルバート。そうだな、俺もまた戦いたい」


 出た言葉は純粋に思ってのことだった。アルバートとは去年のグレイ教諭の事件の時に戦い、次は大規模魔術戦マギクス・ウォーで戦った。ちょうど一年前に出会ったアルバートは全てを血統で決まると思い込み、才能こそが世界の全てだと思っていた。


 しかし、改めて自分自身を見つめ直し一から努力しているアルバートはすでに学内でも屈指の魔術師。アメリアに次ぐ実力者として評価されているのは知っている。


「レイ。私もよ」

「アメリア」

「私もレイと戦ってみたい。去年はあなたに支えてもらうことが出来なければ、優勝なんて出来なかった。でもだからこそレイも少しは表舞台に出てもいいんじゃないかなって……もちろん、戦うからには負けないけど!」


 アルバートだけではない。アメリアもまた、俺にそんな言葉をかけてくれる。そうだな……今年は出場してみようか。魔術剣士競技大会マギクス・シュバリエに。


「そういえば、レイの妹も出るんじゃないのか?」


 アルバートが尋ねてくるがステラが魔術剣士競技大会マギクス・シュバリエに参加するという話は聞いていない。最近は主に学院での話しか聞いてないからな。これからの行事についての話は特にしていない。


 しかし、ステラが出るとなると優勝する確率はかなり高いだろう。むしろ本戦に出てもかなり良い成績を残すに違いない。

 

「その話は聞いていないが、そうだな。ステラが出ればかなりいい線に行くと思う」

「ステラちゃんの噂聞いてるけど……あれって本当なの?」

「本当だ。ステラは近接格闘戦ならば俺に匹敵するほどだ。もちろん総合的な魔術戦になればまだまだだが、物理的な戦闘能力だけでいえば学生レベルではない」

「あ……あはは……あんなに小さくて可愛いのに、えげつないのねぇ……」

「ステラは俺と師匠の教育を受けているし、素直な性格だからこそ愚直に努力できる。当然だな」

「はいはい。レイのシスコンはいいから」


 と、軽くあしらわれてしまう。


 そう話している間にも授業は終了。俺たちは校舎へと戻っていくのだった。


 それにしても魔術剣士競技大会マギクス・シュバリエか。これは師匠に相談して方がいいのかもしれない。一応だが確認は取っておいた方がいいだろう。


 ということで放課後になってから俺は師匠のもとへと向かうのだった。



「エインズワース先生」

「ん? あぁ。レイか。どうした、そんな改まって」

「一応、周りの目があるので」

「おっと……そうだったな。で、話があるのか?」

「はい」

「じゃあ学院長室でも使うか」

「分かりました」


 廊下で出会った師匠とともに学院長室へと向かう。ノックをすることもなく、師匠は豪快に扉を開けて室内にズカズカと入っていく。


「おい。リディア。何度も言っているが、ノックもなしに入ってくるな。それとここはお前の部屋じゃないとあれほど」

「今日はレイが相談があるらしくてな」

「レイが?」

「はい。申し訳ありません」

「そうならそうと早く言え」


 アビーさんは立ち上げるってから紅茶の準備をしてくれた。どうやらアビーさんも話を聞いてくれるらしく、テーブルには三人分の紅茶が置かれた。


「それでどうしたんだ?」


 師匠は一気に紅茶を飲み干した後にそう言って来た。隣ではアビーさんが師匠のことを睨んでいるが、全くき気にしていないようだった。


魔術剣士競技大会マギクス・シュバリエのことなのですが」

「あぁ。出たいなら出ればいい」

「え……いいんですか?」

「別にいいだろう。なあ、アビー」

「そうだな。私も別に良いと思うぞ。今いる学生はかなりの粒揃い。レイであっても簡単には勝てないだろう」


 意外だった。


 いや、別に反対されると決めつけていたわけではないのだが、あっさりと許可されたので拍子抜けしたというのが正しいだろうか。


「ただし、完全に本気は出すなよ? 冰剣は使って良いが、赫冰封印パンドラは無しだぞ?」

「もちろんです。では……今年は出場してみようかなと思います」

「あぁ。学生時代の思い出は大切だからな。ただ私は魔術剣士競技大会マギクス・シュバリエで四連覇だったが、レイはそれは無理なのが残念だな」

「はは。そうですね。四連覇はステラがしてくれるんじゃないんですか?」

「ステラか……あいつの実力なら十分にあり得るな……」


 そこでアビーさんは思い出したかのように「あ……」と声を漏らした。


「リディア。そう言えば、ステラとホスキンズに決闘をさせたな?」

「あぁ。悪いのか? 別に珍しいものじゃないだろう」

「はぁ……もっと先に言っておくべきだったか。ホスキンズ家は上流貴族の中でも、かなりの力をつけてきている。無駄にプライドを傷つける行為は控えるように、先に注意しておくべきだったか……」

「別にいいだろう。貴族だからって、私の教育には関係ない」

「まぁそこは雇ってしまった私の責任だな。今後はもう少し、生徒の事情も考えてくれ」

「はいはーい」

「はいは一回でいい」

「はいよ」


 二人のそんなやりとりを見て、どこか懐かしく思う。あの時、一緒に同じ部隊で戦っていた人たちが同じ学院で談笑しているのを見るとなんだか嬉しく思う。


 俺だけではない。師匠もアビーさんもたくさん傷ついてきたからこそ、こうして二人が普通に話しているだけでも俺は感慨深いと感じる。


「それでは自分は失礼します」

「あぁ。レイ、頑張れよ」

「はい。師匠」


 立ち上がってから扉を開ける。するとそこには、ギョッとした顔のキャロルが気まずそうな顔をしていた。


「あ、あははー! 別に盗み聞きをする気はなかったんだよ〜? ちょっとタイミングがねー! ねね?」

「別にいいよ。キャロルも聞いたと思うが、今年は魔術剣士競技大会マギクス・シュバリエに出ることにするよ」

「そっか。頑張ってね、レイちゃん」

「あぁ」


 キャロルは真剣な顔つきで応援してくれた。


 そうして俺は改めて学園生活を送っていくのだった。

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