第315話 覚醒-To the truth-
「ああああああああああああああああああああああああああああああああああああアアアアアアアアアア!」
叫び声を上げる。
自分自身から溢れ出る
そうだ。
俺はずっと自分のことを封じていた。
能力を封じ、記憶を封じ、全てのことから逃避していた。それは意識してのものではなく、本能的なものだった。
分かっていた。いつか自分がこうなってしまうということは。それでも、幸せな日々を享受したかった。ささやかな平和を、みんなと笑い合って過ごす日々が何よりも大切だった。
でも、それは虚構に過ぎなかった。
俺が向かうべきものはずっと心の内側になったというのに。
体が変質していく。
髪色は色が抜けるようにして、白髪へと変化していく。それに溢れ出る
「……師匠」
横たわっている師匠を見つめる。
四肢が弾け飛び、溢れ出る血液が止まることはない。俺は今の自分の状態を分かっていたからこそ、彼女にすっと手をかざす。
するとまるで何事もなかったかのように、手足がもとに戻り血も止まっていく。完璧に力を使えているわけではないが、なんとか師匠は一命をとりとめる。
「う……ごほっ……」
血を吐き出す。
意識は戻っていないが、呼吸が徐々に安定してくる。
「ハハハハ! アハハハハハハ! やはりレイ、お前が最高傑作だ! リディア=エインズワースなどという紛い物ではない! お前こそがこの世界の到達点なのだ!」
笑っている。
あぁ。知っているとも。
俺は彼との記憶を思い出していた。
名前はアインス。実の兄であり、幼少期は色々と教えてもらったこともあった。しかし彼は……この世界の全てを破壊しようとしている。
「兄さん……久しぶりです」
声をかける。
すると、高らかに笑いながら彼は両手を広げる。
「あぁ! 久しぶりだとも! やっと、やっとだ! 記憶が戻り、力が戻ったレイと出会うことをずっと求めていたんだ!!」
歓喜。
彼は歓喜に満ち溢れていた。この真っ白な世界において、存在しているのは俺たちだけ。師匠はかろうじて存在を許されており、なんとかこの世界に残ることができている。
ここは
そして、彼が最後に求めているのは俺の魂。
腑に落ちる。
納得する。
理解する。
どうしてこの極東戦役が行われることになったのか。その答えは──
兄のことはよく知っている。
俺の出身は極東の小さな村だった。そこはずっと平和であり、皆が笑い合っている場所だった。ただし、この村の人間は……その一族は特殊な存在でもあった。
魔法。
魔術が台頭している中で、俺たちの村の人間は魔法を使うことができた。コード理論を使用することなく、心的イメージをそのまま具現化できる異能。すでに魔法は淘汰され、人々は魔術に適応したとされたがその中で唯一魔法使いの末裔として生き残っているのが俺たちだった。
しかし、その魔法を使って何かをしようなどということは誰も思っていなかった。そう……兄が生まれるまでは。
兄は俺のことをずっと連れ回していた。何事にも好奇心旺盛で、全てのことを突き詰めなければ納得がいかない。そんな性格だった。
「レイ。この世界をどう思う?」
「兄さん……?」
ふと、兄がそんなことを尋ねてきた。
幼い俺は意味が全くわからなかった。この世界の仕組みなど、当時は理解できるわけがなかったのだから。
「やっぱり、世界には根源的な場所が存在する。そこにたどり着けばきっと……世界の全てを理解できるのかもしれない……」
「……そうなんだ」
翌日。
村は火の海に飲み込まれることになった。
兄は数人の仲間を引き連れて村を火の海にし、家族ですら殺して行った。全ては神の領域に辿り着く布石に過ぎないと。俺はそんな中、両親に逃げるように促されてただ呆然と走り去るしかなかった。
焼け焦げた家に潰され父はすぐに絶命。母はなんとか生きていたが、小さな俺が家に押し潰されそうな母を助けることなど不可能だった。
「お母さん……!」
喚く。
幼いながらにも異常事態は理解できていた。このままでは母が死んでしまう。だから手を差し伸べようとするが、彼女は大きな声で語りかけてくる。
「レイ! 逃げて……! どこか遠くに逃げるのよ……っ!」
「でも……っ!」
「このままだと、あなたも死んでしまうわ!」
分からない。分からない。分からない。
周囲には火の海になっており、悲鳴と怒号が聞こえてくる。昨日までは平和な村だったというのに、全てが地獄と化していた。
「行って! レイ、お願いだから……!」
その瞬間。
俺と母を分断するように、家がさらに崩れていった。その時、母がどうなったのか俺は知らない。でもきっと死んでしまったのだと、思った。
「あぁ……あ……うわああああああああああああああああああああああああああああアアアアアアアアアア!」
それから先のことはよく覚えていない。
ただ夢中になって、無我夢中に走るしかなかった。そして俺は当時の記憶を封じ、無意識に自分に宿っている能力も封じて師匠たちと出会い……今に至ることになる。
「あぁ……レイ。本当はお前も、こちら側に迎え入れるつもりだったんだ。でも、お前は運良く逃げてしまった。後に、お前こそがこの世界の鍵だと知って嘆いたものさ。どうにかして、お前を手に入れることができなかと思って。しかし! それもやっと、終わりを迎えることができる! レイを殺して、私は
そう。
俺という存在は魔法使いの末裔の伝説にある、特殊な存在だった。曰く、一族の中に千年に一人、
ずっと村では大事にされてきた。過保護や親に、村の人たちも俺のことをなぜか尊敬と畏怖の視線を送っていた。当時はどうして自分のことをそんなに見つめるのだろう、と思っていたが今ならばはっきりと理解できる。
村の人たちは俺が
でもみんな、俺を利用しようなどとは思っていなかった。平和に、慎ましやかに暮らしていくものだと思っていたが……それを全て兄が壊した。
「どうして……どうして家族を、村のみんなを殺したんだ?」
静かな怒り。
ギュッと血が出るほど拳を握りしめると、兄にそう尋ねる。すると彼は、まるで理解できない……という表情を作る。
「崇高な目標の前に犠牲は付き物だろう? それに村の連中は魔法使いの末裔であり、
あぁ。
そうか。
そうだったのか。
きっと兄と自分は根本的に違う生き物なのだ。
それがやっと分かった。
このままでは兄は世界を壊し尽くすだろう。自分の好奇心を満たすために、どれだけの人間が犠牲になったとしても関係ないと言い続けるのだろう。
それは……ダメだ。ここで俺が引導を渡さないといけない。
「……兄さん。俺があなたを止めるよ」
「あぁ! そうだ! 存分に殺し合おう! 俺はお前の全てを凌駕して、
笑っている。
今から殺し合いをするというのに、歓喜に満ちて笑っている。
そうだ。
それこそが逆転という能力であり、俺の本質である。
「──
世界は純白に染まる──。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます