第296話 最前線からの帰還
最前線での戦闘を終えて戻ってきた
全員ともに張り詰めたような雰囲気のまま、簡易的に作られている基地へと戻ってきた。
そこは野戦病棟も兼ねており、消毒液の匂いに満ちていた。魔術によって治療はできるものの、魔術も万能ではない。そこでは依然として懸命に治療に当たっている人間が数多くいた。
最前線の壮絶さは想像を絶するものだった。
しかし、
そのためにも全員ともに休息することが必須である。いくら優れた人間であろうとも、休まなければ十分なパフォーマンスを発揮することはできないのだから。
「レイ。大丈夫か?」
「はい。問題ありません」
「そうか……」
戻ってきたレイは冷静だった。あの森での惨状を見たというのに、彼は平静を保っていた。
「とりあえずは休むことにしよう。まだ戦いは始まったばかりだ」
「了解です」
極東戦役が本格的に幕を開けることになったが、これはまだ序章に過ぎなかった。
「レイ! あまり行き過ぎるなッ!!」
「分かっていますッ!!!」
一週間後。
再び
そのため、今回の作戦では敵の兵力をできるだけ削り、時間を稼げばいいだけだった。
しかし問題になっているのは、敵が魔物を使役してきたということだった。周囲にあふれている魔物の群れ。さらにはそれと連携を取るようにして、敵は魔術を使用してくる。
流石の
《
《
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《エンボディメント=
「……」
最前線を主に支えているのは、リディアだった。彼女が先陣を切って、次々と敵を屠っていく。
使用しているのは冰剣。それに加えて、
それによって相手を一箇所に集めていくと、両手に握っている冰剣によって敵をなぎ払っていく。魔物と敵兵をまとめて沈め、返り血を拭うことなく進んでいく。
その後ろにはぴったりとレイが張り付いていた。現在はリディアとレイの二人でこの最前線を維持している。残りのメンバーは別の場所で漏れ出した敵の足止めをしており、戦闘も佳境だった。
「はあああああああああああああッ!!」
迷いなどなかった。
ただ懸命に己が命をかけて進み続けた。幾多もの敵を屠り、それでも前に進み続ける。それをサポートするようにしてレイもまた併走し始める。
森の中を縦横無尽に駆け抜け、レイは氷によって敵の足止めを図る。また彼はすでにこの周辺に
「師匠ッ!!」
「分かっているッ!!!」
レイが合図をした瞬間、周囲には一気に氷の世界が展開されていく。パキパキと音をたてながら、この場は一瞬にして凍り付いていった。
そうして敵の足止めをしながら、容赦無く敵を屠っていく。あくまでレイはリディアのサポートにはなるが、この活躍の裏にいるレイの存在は何よりも大きい物だった。
おそらくは他の人間では代替できないだろう。
それがたとえ長年の付き合いであり、天才の中の天才であるアビーであったとしても。
レイとリディアのコンビネーションはそれほどまでに極まっていた。
「終わったな」
「はい。敵は撤退して行ったようです」
ヒュッと冰剣を振るうと、地面に血が滴っていく。今回の作戦、おそらく敵側はチャンスと思ってかなりの物量をぶつけてきた。しかしそれは、リディアとレイのたった二人によって妨げられてしまった。
王国側としては、現在は負傷している兵士が多いためあまり前線に戦力を割くことが出来なかった。そこで無理を言って、リディアとレイの二人でこうして最前線にやってきて無事に任務を完了した。
まだ戦いは終わっていないが、時間を稼ぐことは十分にすることが出来た。
「レイ。戻るぞ」
「はい」
翻る。血に塗れた長い金色の髪を靡かせながら、二人は来た道を戻っていくのだった。
リディア=エインズワース。その存在が敵の中で畏怖の存在として初めて刻まれた戦闘はこうして幕を閉じることになった。
◇
「エインズワース。よくやってくれた」
「いえ。自分は当然のことをしたまでです。中佐」
基地に戻ると、そこにはヘンリックが待っていた。どうやら負傷した兵士達はほぼ全てが後方へと戻ることが出来たようだった。そして、彼女は一人で報告にやってきていた。
レイには休めと言ってあるので、彼は大人しくすでに就寝している。
現在の時刻は深夜三時。長く続いた戦いも、とりあえずは落ち着いたようだった。
「戦況はどうなっていますか?」
「……どうやら、こちらが思っているよりも被害は拡大していようだ。この場ではとりあえずは前線を維持することが出来たが、また他の箇所での戦火が拡大しているらしい」
「では、次はそちらに赴くと?」
「そうなるだろう。
「了解いたしました」
今後の方針を受諾し、リディアは敬礼をした。今まではただ傍若無人に生きているだけの人間と評されていたが、今の彼女は違う。
確かな意志と使命を持って、この戦場に身を投じているのをヘンリックは理解していた。
「正直なところ、エインズワースとレイの二人には感謝している。最小限の戦力で最大の成果を上げてくれる。今回の件もまた、本来ならば撤退にもっと時間がかかるはずだった。それはやはり、後方からの支援を必要とするからだ。しかし、その役割をたった二人でこなしてくれることで、こうして無事に撤退は成功。後はさらなる兵力の増強を待つだけでいい」
「自分の力が役に立っているなら、いいのですが……」
と、なぜかリディアの顔には影が差す。それをヘンリックは訝しく思い、追求するのだった。
「どうかしたのか?」
「レイのことです」
「もしかして、何かあったのか?」
「いえ。逆に何も無いのが問題なのです」
リディアは思っていた。今回の作戦では、レイが厳しいようならば自分一人で任務をこなしてしまおうと。あくまでレイはサポートに過ぎず、たった一人で敵を撃退するだけの自信が今のリディアにはあったのだ。
「正直なところ、今回の戦闘ではレイの尽力が大きかった。おかげで私もかなり動きやすかったのです」
「あの年齢で、すでにその領域に至っているのか。本当にレイは何者なんだろうか」
ふと、空を見上げるようにして彼は頭上を見上げた。レイの存在は一体何なのか。それはまだ誰にも分かっていない。
「レイが何者なのか。それは私にも分かりません。しかし、中佐。レイのことはどうか自分に任せていただければと」
「……それに関してはエインズワースに一任する予定だ。今の君について行けるのは、レイしかいないからな。どのみちそうなる予定だ」
「は。了解いたしました」
改めて敬礼をすると、下がっていいと言われたのでリディアはテントから出ていくのだった。
「さて、この戦争はいつまで続くのか……」
ボソリと呟くヘンリック。彼には予感があった。それはある種の直感なのかもしれない。この戦争は長引いてしまうそうだと。さらには、自分たちが考えてもいない別の思惑があるのでは無いかと。
こうして
◇
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それでは今後とも本作をお楽しみください! 過去編も終盤に近づいてきましたので、頑張ります……っ!
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