第256話 リディアの軌跡


 リディア=エインズワース。


 彼女がその頭角を現し始めたのは、まだ幼少の頃だった。エインズワース家は魔術師の家系ではあるが、貴族でもなければ有力な家柄でもない。


 魔術師の家系の中では、平凡と形容するのが正しいだろう。


 そんなリディアの存在は突然変異とでも呼ぶべきものだった。


「わはははっ! あははははっ!」


 幼い頃から体を動かすのが大好きで、それはもう至る所を走り回る。彼女の中にある選択肢は、走るか止まるか。それだけだった。


 両親もそんな彼女には困っていたのだが、とても元気だと言うことで喜んでいる部分もあった。


 ある日。庭でいつものように走り回っていたリディアが、氷柱つららを作っていることに気がついた両親。


「リディア。それはどうやったんだ?」

「なんかぐっと力込めたらできたっ!!」

「魔術……? この年齢で?」

「あなた、もしかしたらリディアは天才なのかもっ!」


 リディアには妹がいた。妹の方は彼女ほどの才能はない。エインズワース家の中では当たり前の存在。しかし、リディアは幼い頃から魔術を使用することができた。


 本来ならば魔術を使用できるとしても、もう少し時間がかかるのが普通。加えてここまで精巧な氷柱を作ることなど不可能。彼女の才能の片鱗はこの時から現れていた。



「むむ……むむむっ!」


 いつものように庭で氷を作って遊んでいるリディアだが、それはもはや遊びと言っていいのか分からないものだった。


 彼女はどうやら氷魔術に対する適性が高いようで、毎日毎日氷を作ってはそれを成型していく。


 最近ハマっているのは動物の形を模した氷を作ることで、庭には多くの動物の形をした氷があった。一見すれば、何かのイベントごとでもあるのだろうかと思うほどだ。


「ぐぬぬ……ぬぬっ!」


 両手を掲げて、ピキピキと音を立てながら氷を延長させる。今作っているのは、昨日本で読んだユニコーン。


 特に角の部分を作り出すのが難しく、唸りながら魔術を使っているが……数十分後。


 リディアは満足のいくものが完成して、すぐに母親を呼びに向かうのだった。


「おかーさーん!! 見て、見てこれっ!」

「まぁ……これは全部リディアがやったの?」

「うんっ!」


 母親はあまりにも現実離れした光景に、驚きを隠せなかった。目を見開き、手を口に当て呆然としていた。


 それも無理はないだろう。この庭いっぱいに、氷のアートが生み出されていたのだから。


 その日の夜。両親は彼女の今後について考え始めた。


 リディアの才能は間違いなく破格。もしかすれば、白金級プラチナまたは聖級グランドの魔術師に至ることができるかもしれない。いや、もしかすれば七大魔術師に届く可能性も……。


 そして月日は巡り、リディアは十一歳になった。


「リディア。飛び級だけど、ちゃんと友達はできる?」

「ははは! 大丈夫だ! 母さんは心配しすぎ」

「……う〜む。まさかこの年であの名門であるアーノルド魔術学院に入学とは。リディア、本当にすごいな」

「へへへ。父さんも大袈裟だけど……私は天才魔術師だからな! 当然だ!」


 男勝りな性格に育った彼女は飛び級制度を用いて、この世界の中でも名門であるアーノルド魔術学院に入学することになった。


 もちろん、正規の試験に合格した上での入学。


 アーノルド魔術学院は飛び級を採用しているが、実際にする者はかなり少ない。あの三大貴族でさえ、飛び級を利用するものがほとんどいないことから、それはもはやあってないようなものだった。


 しかし今年に限って言えば、リディアを含めて三人も飛び級がいるらしいのだ。彼女は残り二人がどんな人間か楽しみにしていた。


「お前も飛び級なのかっ!」

「あぁ。そうだが」


 リディアとアビーの出会いは入学式の時だった。二人は真反対の性格をしていたが、意外と話が合うようですぐに友人になった。そして、その中に入ってくるのは……ものすごく目立つ一人の少女だった。


 髪の毛をポニーテールにまとめ、髪飾りをこれでもかと付けている。その目立つ容姿に二人は驚くが、それこそがキャロルだった。


「やっほ〜☆ キャロル=キャロラインですっ! 気安くキャロキャロって呼んでね! キャピっ☆」


 と、初めての出会いは色々とあったのだが三人は友人として一緒に過ごすようになった。


 また飛び級ということで色々と大変なこともあったが、それは全てリディアが蹴散らしていった。


 上級生の男子生徒に決闘を申し込まれたこともあった。「お前みたいなガキが来ていい場所じゃねぇんだよ」と言われ、彼女の怒りは最高潮に達する。


 そして問答無用で叩き潰し、その存在は学院の中でもかなり目立つものとなった。


 座学でさえも、魔術でさえも学年でトップの成績を取り続ける。しかしそれは、決して努力して頑張っているという感覚ではなかった。



「リディア。まだ寝ないのか?」

「あぁ。もう少しな……」



 最上級生になった時でさえ、彼女は変わることはなかった。ただ毎晩、本を読み漁る。中でも魔術に関する読書量は、読書家のアビーでさえ叶わないと思っている。


 努力を呼吸のようにする存在。天才であり、努力もできる。そして、その努力を努力と思っていない。アビーはその時、やはりリディアは真の天才だと思った。


「う〜ん。むにゃむにゃ……もう食べられないよぉ……えへへ」


 キャロルといえば、何か幸せそうな夢を見ているようだった。


「私は先に寝るぞ」

「あぁ。灯りは自分の分だけ灯しておく。いつもすまないな」

「いや、構わない。リディアのそんな部分は尊敬しているからな」


 その言葉に対して返答を返すことはなかった。


 ただただ没頭する。その本の世界に潜り込み、新しい魔術を創造する。すでにリディアは魔術を学ぶという立場にはない。彼女は新しい魔術を創造するという立場に至っているのだ。


 その中でも、氷魔術が得意とはどのようなことなのか。


 学院に入学してからそのことを突き詰めた。そこでたどり着いたのは、【減速】と【固定】というコードだった。そもそも今までただ感覚的に使用してその魔術を、より深いコードで理解しようとしたのが始まりだった。


 彼女は氷魔術が得意なのではなく、あくまで【減速】と【固定】という二つに適性が高いことに気がついた。


 そこから先は氷魔術ではなく、【減速】と【固定】に絞って新しい魔術を生み出し続けた。


 しかし、学院在学中には満足のいく結果を出すことができなかった。


 その後。三人の進路は王国軍へと進むことになる。



「リディア。またやっているのか?」

「ん? あぁ、すまない。起こしたか?」


 実地訓練が明日から本格的に始まるというのに、リディアはテントの中で魔術を使って実験をしていた。


 求めるべきは、冰剣。それをどうやって成型していくのか、ずっと考え込んでいたのだ。


「ちょっと音がしたからな」

「没頭してたみたいだな。気がつかなかった。すまない」

「ま、学生の頃からリディアはそうだったからな。で、何か掴めたのか?」

「いや。まだ時間はかかりそうだ。そもそもコード自体はしっかりと走っているはずなんだ。きっとどこかに、この魔術に綻びがあるに違いない……と思っている」



 いつになく真剣な様子だった。リディアの様子を見て、アビーは微笑みを浮かべる。



「どうした? 急に笑って」

「いや。本当に昔から変わらないな、と思ってな」

「そうか? 私としては成長したと思っているがなっ!」


 自慢気に胸を張ってそうアピールするが、そのようなところが変わっていない……と言いたいところだが、アビーは何もいうことなく再び床につく。


「寝不足にならない程度にしておけよ?」

「あぁ。そうするよ」


 そしてリディアは今日もまた、新しい魔術の開発に挑むのだった。



 ◇




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