第240話 みんなで森へ


 残り数日もすれば、年が明ける。俺たちは特に何かをする予定もないので、家にいるのだが……流石にちょっとだらけすぎではないだろうか。


「ハァ〜。この、炬燵こたつってやつ……すごいわねぇ……あったまるわぁ」

「そうだねぇ。アメリアちゃんもハマっちゃったねぇ……」

「えへへ。そうねぇ……」


 なんでも東の方から輸入された品物らしい。それを実験的にうちで預かって、利用しているのだとか。両親の仕事の伝手で手に入れたものらしいが、すっかりとハマってしまっている。


 ちょうど朝起きると、すでにアメリアとステラがその炬燵こたつに入ってまったりとしていたのだ。


 だらしなく緩んでいる顔は、きっと余程その暖かさが気持ち良いのだろう。最近は特に寒くなってきているからな。


「ささ。レイも入りなよぉ〜」


 アメリアに促されるので炬燵こたつに入ることにした。中はかなり暖かくなっており、確かにこれはまったりとするのも理解できる。


「あら。皆さん、朝からくつろいでますね」


 レベッカ先輩も合流。そして彼女もまた、空いている箇所から炬燵に入るのだった。


「ふぅ……ものすごくあったまりますねぇ」


 どうやらレベッカ先輩もお気に召してくれたようだった。


 しかし、きっとこの展開は長く続くことはないだろう。なぜならば……。



「よし! ということで今日は、みんなで外に遊びに行こう!」



 急にガバッと立ち上がると、ステラは小さな胸を張ってそう声をあげる。基本的には、冬でも外に出て遊びたがるステラのことだ。


 こうなることはすでに予想はついていた。


「よし。いくか」


 炬燵から出ると、早速準備を始めようとする。レベッカ先輩も一緒に炬燵から出て、準備をしてくれようとするが……。


 アメリアだけは、じっと炬燵の机にあごを乗せてまったりとしていた。



「えぇ〜。寒い方やめとこうよぉ〜。私はこの温もりが手放せないわぁ〜。ぬくぬくなのにぃ……」



 そう言うので仕方はないが、三人で行こうとするが先輩はアメリアに少しだけ近寄る。


「えぇ。それが良いですね。アメリアさんは、たった一人、、、、、でこの炬燵にずっといる良いですよ。ねぇ、レイさん」


 と、話しかけられるのでとりあえず同意しておくことにした。


「まぁ、無理やりというわけではないしな。アメリア、ではまた」


 そして去ろうとすると、袖がギュッと掴まれる。振り向くと、いつの間にか炬燵から出てきていたアメリアがじっと見上げてきていた。


「……行く。私も、行くからっ!」


 結局、四人で外に遊びに行くことにした。外に出ると、ここ数日は晴れが続いていたこともあって、積もった雪は消えつつあった。


 眩い光が、照らしつけ消えつつある雪がキラキラと輝いて見える。


 とりあえず目的もないまま、俺たちは歩き始めてがステラは先頭をタタタと走っていくと、あの場所に向かおうとしていた。


「みんなで森に行こうよっ!」


 どうやら、ステラはドグマの森に行きたいようだった。しかし……俺とステラだけならばまだしも、アメリアと先輩は大丈夫だろうか。いや、アメリアはなんとかギリギリついてこれるだろう。


 だが先輩は、少し厳しいかもしれない。しかし、俺がしっかりとそばにいてあげれば良いだけか。


「そうだな。行ってみるか。アメリアとレベッカ先輩もいいですか?」

「私はいいけど。森って、ドグマの森のことでしょ? 危険じゃないの?」

「俺とステラにとっては庭のようなものだ。それに、アメリアはエインズワース式ブートキャンプを完全なものではないとはいえ、修めている。十分についてこれるだろう」

「そっか。ならいいけど」


 

 アメリアの許可はすぐに取ることができたが、果たしてレベッカ先輩は了承してくれるだろうか。そう思っていると、先輩が俺の袖をギュッと握りしめていた。


「レイさん……私、ちょっと怖いです」


 潤む瞳で、じっと見上げてくる。


「先輩が怖いのでしたら、今回はやめておいた方がいいでしょう」

「そんな! 皆さんの邪魔をするわけには……っ! そ、その。レイさんが側で守ってくれるのでしたら、私は大丈夫ですっ……」


 そっとその柔らかい体を寄せてくる。その際に、フワッと先輩特有の優しい香りが鼻腔を抜ける。なんだか芝居がかっているような気もするが、流石に考えすぎだろう。


「大丈夫です。レベッカ先輩を守ることなど、容易いことです」

「レイさん……っ!」


 そんなやりとりを、アメリアとステラはジトっと見つめていた。


「はぁ……なんだか、相変わらずって感じよね」

「うわぁ。お兄ちゃんてば、罪な男なんだねっ!」



 とりあえず全員の許可が取れたことで、ドグマの森へと進んでいく。俺とステラがいるということで、今回もほぼ顔パスで通過することができた。もっとも、ちゃんと書類にはライセンスと名前を書き記しているが。


「うわぁ……カフカの森と違って、緑がすごいわねぇ」

「ですね。冬だというのに、とても生い茂っています」


 アメリアとレベッカ先輩を挟むようにして、俺たちは移動する。先頭はステラに任せて、その後ろにアメリアとレベッカ先輩。一番後方に俺、という配置になっている。


 そして、四人で歩みを進めているとさっそく魔物を発見した。


「おっ! こんな冬に巨大蛇ヒュージスネークがいるなんて! それにかなり大きいし! 亜種かな、お兄ちゃんっ!?」

「そうみたいだな。通常の、1.5倍くらいはあるな」

「ふふ〜ん。これは美味しくいただくよっ!」


 瞬間。ステラは大地を思い切り踏み締めると、内部インサイドコードを発動。


 ドンッ、という鈍い音がした時にはすでに、目の前の巨大蛇ヒュージスネークをその拳一つでその場に沈めていた。


 ドォオオオオン、と巨体が地面へと倒れていく。


 ふむ。流石のステラだな。急所に一撃。


 どうやら、腕はさらに磨きがかかっているようだ。


「え……?」

「へ……?」


 呆然としている二人だが、無理もないだろう。ステラは一見すれば、愛らしいただの少女にしか見えない。だが、俺と師匠により教育を受けた彼女はまさにサラブレッド。


 この森の魔物ですら、ステラならばたった一人で相手にできるほどだ。


「へへーん! どう、すごいでしょっ!」


 俺たちに向かってニコッと笑って、ピースをするので親指をぐっと立ててその功績を称える。


 流石は我が妹だ。惚れ惚れする技量だ。どうやら、日頃の鍛錬は怠っていないようだな。


「レイとは血の繋がりはないって聞いてたけど……」

「えぇ。正真正銘、レイさんの妹さんみたいですねぇ」


 半ば呆れるような感じて話していたが、ステラの強さを知った人の反応はこんなものだ。仕方ないだろう。


「よし。では、食べてみるか」


 持ってきていたポーチからナイフを取り出すと、調理に入ることにした。いつものように蒲焼きにして、エインズワース式秘伝のタレをかけて焼けば完成だ。


「わーいっ! いただきまーすっ!」


 ガブリと一口。すると、その頬を抑えてあまりの旨さに震えているようだった。


「うーん! 美味しいね! 流石はお兄ちゃんの料理だよ!」

「ふふ。褒めても何も出ないぞ?」


 アメリアとレベッカ先輩にも渡したのだが、二人はじっとそれを見つめていた。


「……ごくり。せ、先輩。先にどうぞ?」

「いえいえ。ここはアメリアさんが」

「う。でも、ステラは美味しそうに食べてたし……はぐっ!」


 思い切って食べてみるアメリア。もちろん、その反応は分かっているとも。


「おっ、美味しいいいいいいっ! 何これ、すっごく美味しいわっ!」

「……! 本当です! 野生の魔物なんて食べてことはありませんが、とても美味しいですねっ!」


 どうやら二人の口にもあったみたいだ。


 その後、俺たちは森の中を色々と探検するのだった。


 冬ということもあって、生態系は夏に比べて変化している。そのような中でも、俺とステラが対応できない魔物などいない。


「きゃ……っ!」


 と、歩いている最中、アメリアが足をつまづかせて転びそうになる。


「おっと。大丈夫か?」

「あ。えっとその……あ、ありがとうレイ。でもその……あの、当たってるから……」

「す、すまないっ!」


 アメリアが転びそうになったので、後ろから思い切り抱きかかえるようにして受け止めたのだが、手が少しだけ彼女の胸に触れてしまっていた。


 すぐパッと離すと、アメリアはその髪をくるくると弄り始める。俺の方も、チラチラと見ているようだ。照れているのは間違いない。


 しかし、不慮の事故とはいえ……俺が悪いのは明白だ。


「う……本当に申し訳ない」


 そう謝罪すると、レベッカ先輩がニコニコと笑いながらアメリアに近づいていく。


「ふーん。アメリアさんも、大胆ですねぇ……」

「ち、ちがっ! 今のわざとじゃないし!」

「まぁ、そういうことにしておいてあげましょう」


 二人がいつものように口論を始めるので、呆然とそれを見つめているとステラがくいくいっと裾を引っ張ってくる。


「ねね。お兄ちゃん」

「どうした?」

「アメリアちゃんとレベッカちゃんて、仲がいいね」

「……そうだな」


 喧嘩するほど仲がいい。きっとこの二人に関しては、それは正しいのだろう。


 今日もまた充実した一日を過ごすことができた。

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