第201話 恋する乙女……ですの?


 無事に予選が終了しましたの。


 わたくしたちのチームはなんと、全ての試合で勝利を収めてAリーグの予選を一位で通過することに!


 レイとアメリアがいるので当然のことですが、それでもやはり嬉しいものは嬉しいものです。


 今回の予選では、全てのリーグを総合して上位二チームがシード権を獲得することができます。わたくしたちのチームは一位のチーム:フォルストと僅差の二位ということで、無事にシード権を獲得。


 そのため、本戦は二回戦からの参戦となります。



「はぁ……今日も疲れましたわぁ……」


 現在は実家に帰ってきており、お父様に報告をしました。すると、全試合を観戦していたようで、とても褒めていただきました。


 曰く、「筋肉の輝きが素晴らしかったなっ!」だとか。


 確かに、わたくしたちのチームは素晴らしい連携と筋肉を兼ね備えていましたわ。


 それは自他共に認めます。


 レイは言わずもがなですが、アメリアも最近は訓練の成果で素晴らしい筋肉がついています。


 本人は、「最近ちょっと筋肉質になってきて、嫌なんだけど……」と言っていましたが、きっといつかはその筋肉の素晴らしさに気がつくことでしょう。


 もちろん、レイの筋肉の素晴らしさは今更語ることはないですわ。あれこそ、至高にして頂点の筋肉なのですから。


 それにわたくしの筋肉も最近はとても良いものに仕上がっております。これも全て、レイのおかげですわ。



「お姉ちゃーん! 一緒にお風呂はいろーっ!」



 と、一人で入浴をしようと思っていると、妹のティアナがやって来ました。まだ幼いですが、最近はその美しさに磨きがかかっているような気がします。きっと将来は、とても美人になるでしょう。


「えぇ。もちろんですわ」

「わーいっ! やったーっ!」


 しかし、おてんばなところは変わらず、家のメイドたちをよく困らせているとか。


 また話を聞くと、お父様と一緒に大会を観戦していたようでそれはもうはしゃいでいたとか。


 家族が観にきているとは知りませんでしたが、オルグレン家の長女に恥じない試合ができたと思っていますわ。


「ふぅ……今日も疲れましたわぁ」

「おつかれさまだよーっ! お姉ちゃん! わたしがお背中ながしてあげるねー!」

「それはとても助かりますわ」


 そして、ティアナがわたくしの背中を流してくれます。その後は入れ替わりで、ティアナの背中を流してあげて二人で一緒に浴槽に浸かります。


 まだ体が小さいので、ちょうど膝の上に納ります。しかし、昔に比べればとても大きくなったと思います。


「ねぇねぇ、大会はゆうしょうできそうなのっ!!?」


 キラキラした瞳でそう尋ねてきますが、もちろん思っている事を素直に話します。


「えぇ! もちろんですわっ! アメリアとレイもいるので、わたくしたちは無敵ですわっ!」

「無敵っ!? すごーい! でも、アメリアちゃんは知っているけど……レイって誰のこと?」

「あ……そ、それは……」


 確か、ティアナはレイが女装した姿であるリリィーのことは本当の女性だと思ったままのはず。


 正直に伝えてもいいのですが、ここは夢を壊さないためにもいうべきではないと判断しました。


 ということで、レイのことは別に話すことにしました。今までレイとどのように過ごしてきたのか、ありのままに伝えました。



「もしかして、お姉ちゃんって……そのお兄ちゃんのことが好きなの〜?」



 ニヤニヤと笑いながらティアナがそう言ってきますが、ここは姉として毅然とした態度を貫き通すべきです。


 しかし、その言葉を聞いた瞬間、顔が真っ赤になるのが自分でもわかってしまいました。


「なぁっ!? ち、違いますわっ! レイとはその……同じチームで、仲の良い友人というかっ!」

「でも、お話してるとき、とってもうれしそうだったよ?」

「う……」


 最近はおてんばなのに加えて、ちょっとマセてきているティアナ。それも相まって、わたくしの事をじーっと見つめて追及してきます。


「そ、それとこれとは話が別ですわっ!」

「……そうなの?」

「えぇ。これはティアナも成長すれば、分かりますわ」

「へぇ〜。そうなんだ〜」


 どうやら納得してくれているようですが、わたくしの胸中にはある違和感が残ります。


 そうしてティアナとお風呂から上がって、しばらくしてから自室へと戻ります。


 簡素な部屋ではありますが、自分の部屋というものは落ち着くものです。


「はぁ……やっと落ち着きましたわ……」


 ティアナはお風呂から上がると、今度は家中を走り回ってわたくしと鬼ごっこをしました。もちろん、叱りつけるのですが、言う事を聞くことはなくそのまま笑いながら走る始末。


 わたくしも、とってもティアナのことが可愛いので強く出ればいのがいけないのですが、やはり妹は可愛いものなのです。


「それにしても……」


 ティアナに言われて、改めて考えますが……わたくしはその……レイのことが気になっていますの?


 い、いえ!


 別にアメリアやレベッカ先輩のようにはなっていませんわ。でも、その……レイのことを知れば知るほど、放って置けないと言うか。


 いつも毅然としていて、冷静沈着。でも、どこか常識に欠けていて抜けているとこも多いです。その経歴からそれは当然とも思えるのですが、どうしてこんなにも気になってしまうのでしょうか。


「もしかして……?」


 と、心の中にある懸念を少しだけ意識してみます。すると、自分でも分かってしまうくらいには顔が赤く染まってしまいます。


 初めての出会いは、女装姿でした。それはもう、唖然としましたが……そのクオリティは普通の女性よりも美人で本当に驚きました。


 そこから先は、アメリアの仲の良い友人という印象の方が強かったですわ。学院が違うということで、会う機会も少なかったですし。


 しかし、アメリアが変わったのを見て、わたくしも変わりたいと。


 だからレイに今回の大会に、同じチームとして参加して欲しいと誘ったのです。そこから、レイと同じ時間を過ごすことが多く彼のことを知る機会が多くなりました。


 わたくしとしては、アメリアの邪魔をするつもりではないので、もちろんサポートに徹するつもりでした。もともとは、アメリアの恋は応援するつもりだったので。


 ですが、レイのことを知れば知るほど、アメリアがレイに惹かれてしまう気持ちが理解できてしまうのです。


「ん? 理解できる……?」


 ベッドで横になって、天井を見つめます。


 そして自分の思考が、徐々に明瞭になっていきます。



「まさか? まさか、まさか、まさか?」



 そ、そんなことはありませんわっ!


 わたくしは初恋もまだですし、この気持ちをそのように定義するのはまだ分かりません。


 しかし、レイのことを考えるとどうにも自分の胸が暖かくなるのを感じてしまうのです。


 か、仮に……仮の話ですが……もし、もしもの話ですわよ?


 レイと恋人になったら、わたくしはどう思うのでしょうか──?



「────────────ッ!!」



 おそらく今までの中で、一番顔が顔が赤くなっていることでしょう。いえ、顔だけではありません。全身が今は、とても熱いです。


 この気持ちはきっと……その、一時の気の迷いですわっ!


 決してわたくしが、【恋する乙女】ということではなりませんわっ!!



「も、もう寝ましょう……考え過ぎは良くないですわっ!」



 ということで、もう寝ることに決めましたの。これ以上余計なことを考えるのは良くないですわ。


 しかし、寝よう寝ようと思っていても思い出してしまうのはレイとの思い出ばかり。


 特に最近のレイは妙に輝いて見えというか、魅力的に見えるというか、ふと見えるその筋肉に目が引きつけられるというか……って! わたくしはまた何を考えていますのっ!!?


 あーっ! もーっ!


 わたくしは決して【恋する乙女】ではありませんことよ!


 今のわたくしは、【戦う乙女】なのですからっ!


 しかし、結局のところ眠ることができたのは、それから数時間後のお話でした……。

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