第192話 大規模魔術戦、開会式
大会当日。
俺たちは
本日の予定は、十時に開会式が開始。その後、十二時からさっそく試合が開始される。
また、試合の様子は投影魔術により
投影に関しては、上空から鳥の視界を共有して映すという技術が使われるらしい。
これはキャロルの魔術であり、支配した鳥から視界を共有する形で投影するようだ。
基本的にキャロルは魔術師として本当に優れている。それは、極東戦役の時から思っていたことだがこうして役立っているのを見ると……何だか感慨深い気持ちになる。
といっても、あの性格は相変わらずだが。
「レイ! おはようっ!」
「おはようございます。レイ」
二人がこちらに向かって、走ってやってくる。
アメリアとアリアーヌ。顔色は良く、気力は十分なようだった。
それに俺たちの試合は……なんと、大会の初戦なのだ。つまりは、開会式が終了してからすぐにカフカの森へと移動になる。
「おはよう。二人とも」
俺もまた今日の試合に向けて、体調は完璧に調整してきている。それに、今回の相手はシャーロット=ハートネット率いるチーム:ハートネットだ。
白兵戦はおそらくこちらの方が上だろうが、魔術の技量は侮ることはできない。
事前のリサーチでそれはすでに把握している。もちろん、今回の大会に際して他のチームの情報は三人で共有しているし、完璧に選手の魔術特性を把握している。
おそらくだが、Aリーグでの試合は全勝することができると思っている。しかし、油断は禁物。どの試合に関しても全力で取り組む必要があるだろう。
「調子はどうだ?」
「ふふん! とても調子いいわよっ!」
アメリアは胸を大きく張ってそういうが、確かに調子が良さそうだ。そして、アリアーヌもまた、アメリアと同様に声を上げる。
「わたくしもバッチリですわっ! それにわたくしたちは初戦! 勝利を飾りますわよっ!! 燃える乙女ですわっ!」
そうして俺たちが、会場の前で話し合っていると……ふと、あの人と視線が合うのだった。
「おーっほっほっほ! レイ=ホワイト! お久しぶりですわね!!」
そう。やってきたのは、シャーロット=ハートネット先輩。それに後ろでは、メイドのケイシー先輩と、キャシー先輩も控えている。
「お久しぶりです。ハートネット先輩」
「おーっほっほっほ! お久しぶりですわねっ!」
「今日は初戦でぶつかるということで、よろしくお願いします」
丁寧に頭を下げて、握手を求める。すると、顔を少しだけ逸らしながら握手に応じてくれた。
「ま、まぁ……よろしくしてあげるわっ! でも勝つのは絶対に私たちよっ!」
すると後ろの方で、メイドのお二人がヒソヒソと話をしていた。
「見て。照れているわよキャシー」
「そうね、ケイシー。一丁前に照れているわね」
その声を聞くと、ハートネット先輩は怒声を上げるのだった。
「ち、違うわよっ! これは試合の前で興奮しているだけ! 決して男性と握手したのが初めてで、照れているわけではないわっ!」
そんな様子をボーッと見ていると、トントンと肩が後ろから叩かれる。くるりとそちらを向くと、アメリアがニコニコと笑っていた。
それはいつもよりも二割増しで輝いて見えた。
「シャーロット先輩と知り合いなの? レイ」
「あぁ。この前、街で偶然出会ってな」
「ふ〜ん。なんか、仲が良さそうだけど……」
じっと半眼で睨みつけてくるが、おそらくは相手と馴れ合うことを心配しているのだろうが、それは杞憂だ。
全く、アメリアの意識の高さには脱帽である。
本当に徹底しているようだ。
「いや。俺は
「ふ〜ん……嫌われてるねぇ……」
アメリアとそう話している間に、気がつけばハートネット先輩は去ろうとしていた。
「試合! 楽しみにしていなさいっ!」
「はい。楽しみにしています」
後方に控えているメイドの二人がペコリと頭を下げて、去っていく三人。
相変わらず愉快な人だと思っていると、アリアーヌがあからさまにため息をつく。
「はぁ……レイってば、相変わらずですのね……」
「何の話だ?」
「シャーロット=ハートネット。血統主義で有名な方で、レイはとても嫌われていると思っていましたが……何をしたんですの?」
アメリアは依然としてじっと俺を見上げ、アリアーヌは呆れたような顔をしている。
よく分からないが、ここは素直に答えていくことにした。
「街の本屋で偶然出会ったときに、本の趣味があってな。といっても、俺の名前を聞いた途端、
「……はぁ。ま、レイのことですから何かしたんでしょうね」
「もう嫌だぁ……ライバル多いよぉ……」
確かに、ライバルは多い。
しかし、ライバルがいるからこそ俺たちは前に進めるのだ。
「アメリア。ライバルは確かに多いだろう。しかし、この大会でそのライバルたちとぶつかるからこそ、成長できるというものだ」
「……うん。完全に勘違いしてるけど、いいや……大会はもちろん頑張るわよっ!」
そうして俺たちは、ついに会場入りすることになり、開会式が開始されることになるのだった。
「それでは選手入場です」
選手たちが入場していく。どうやら観客は満員のようで、この
ふと観客席を見ると、クラリスとエリサが一緒にいるのが見えた。それに、隣にはステラも一緒にいた。まだ二人には紹介してないのだが……どこかで偶然であったのだろうか。
その隣には変装しているようだが、オリヴィア王女もいた。彼女に会うのは少し怖いので、そっと目を逸らしておいた。
そして、アリアーヌを先頭にしてチーム:オルグレンが入場していく最中、俺に視線が注がれているのを感じ取る。
やはり、三大貴族が二人のチームに
明らかに嫌悪している視線も混ざっているが……こればかりは、大会で実力を示すしかないだろう。
「さて、諸君。今回の大会は急遽決まったものだが、こうしてこれだけの生徒が参加してくれたことに感謝を示したいと思う」
開会式の挨拶は、
「
その場で軽く頭を下げると、壇上から降りていく。
しばらく挨拶が続いて、開会式が無事に終了することになった。俺たちは初戦ということで、すぐにカフカの森へと移動しなければならない。
そして、
「はぁ……はぁ……よかったです。間に合って」
「レベッカ先輩? どうかしましたか?」
すると、彼女はポケットから小さな何かを取り出した。
「これ。お守りです」
「お守りですか」
「はい。きっと優勝できるようにと、想いを込めました」
「それは……本当に嬉しいです。ありがとうございます」
そして、レベッカ先輩はアメリアとアリアーヌの方へも向かっていく。
「お二人もどうぞ」
「あ、ありがとうございます」
「ありがとうございます!」
アメリアは複雑そうな表情をしていたが、アリアーヌは元気よくお礼をしている。
「それでは、健闘を祈っていますね」
再び俺のところへと戻ってくると、ギュッと俺の両手を包み込んでくる。そんな先輩の瞳はわずかに潤んでいた。それにわずかに頬も赤く染まっているような気がした。
先輩は、そのまますぐに去っていく。試合が直前ということで、気を使ってくれたのだろう。
「よし! レベッカ先輩の応援に応えるためにも、初戦は勝利を飾ろうっ!」
「……そうね」
「で、ですわね……」
空気が少し悪い気がしたが、俺たちはそのまま初戦へと望むのだった。
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