第193話 それぞれの応援
「クラリスちゃん! こっち、こっちっ!」
「エリサっ!」
人混みの中でエリサを発見すると、クラリスはパタパタとその金色のツインテールを上下に靡かせながら走っていく。
今回の
開会式が行われる
「まじで人が多いわね」
「そうだね。私も来た時びっくりしちゃった」
「ま、それだけ注目度が高いんでしょうね。それに今回はレイは悪い意味で目立ってるから」
「うん……そうだね」
レイが悪い意味で目立っている。それは大会の直前には大きな噂になっているほどだ。
そもそも、三大貴族の令嬢が
血統主義の貴族の間ではレイに対しての批判が、かなり高まっている。
そんなレイを心配しながら歩みを進めていると、二人は栗色をしたサラサラとした髪の毛をした少女に出会う。
「あの……もしかして、お兄ちゃん……じゃなくて。レイ=ホワイトのお友達ですか?」
声かけられて振り向く二人。そこにいたのは、ステラだった。
たった一人で大会を見にきていたステラ。そんな彼女はレイのことを話している二人に声をかけた。そもそも、レイからエリサとクラリスのことは聞いている。
そこから、きっとその二人に違いないと言うことでステラは話しかけることにしたのだ。
「そうだけど?」
「やっぱり! じゃあ、あなたがクラリスちゃんっ!!?」
「え……なんで私の名前を知っているの?」
「お兄ちゃんに聞いてるからっ!」
「まさかレイの妹?」
クラリスが驚いた表情をしながら、そう尋ねるとステラは元気よく挨拶をするのだった。
「ステラ=ホワイトです! お兄ちゃんの妹ですっ! ステラって呼んでください!」
その眩しい笑顔に当てられて、エリサは微笑み返し、クラリスは少しだけたじろいでしまう。
そもそも初対面の人間は苦手なクラリス。それに、ステラからレイと同じ天然の香りがするのだ。元々、レイから妹はいると聞いていたが──もちろん、義理だと知っている──ここで出会うなど、夢にも思っていなかった。
「クラリス=クリーヴランドよ。まぁ、クラリスちゃん呼びを許してあげるわ。レイの妹だしね。べ、別に勘違いしないことよ? レイとは別になんでもないんだからねっ!」
いつものようにツンデレを発揮するが、ステラはニコッと笑みを浮かべる。
「知ってるよ! それってツンデレっていうんでしょ!」
「ツンデレじゃないわよ!」
どうやら、二人は相性がいいようだった。
「えっと……エリサ=グリフィスです。よろしくね、ステラちゃん」
「エリサちゃんだー!」
と、ステラは思い切りエリサに抱きつき始める。そしてその大きな胸に顔を埋めるのだった。
「うん! 今まで会ってきた人の中で、一番おっぱいが大きいねっ!」
「あはは……色々と困ることもあるけどね」
「それにとってもいい匂いがするねっ! エリサちゃんは天使みたいな人だよ〜」
そこは兄妹なのか、レイとステラはエリサに対して同じような印象を抱いた。
「なんというか、暴走列車みたいな子ね……レイの妹って、納得できるわ……」
そんな様子を茫然と眺めているクラリスだが、彼女はじっと自分の胸を見る。
平坦。
そこには、なんの起伏もない。そして改めて、じっとエリサの双丘を見つめる。
悔しくなどはない。人には人の良さがあるのだから。
決して羨ましいわけでは……ない、とクラリスは自分になんとか言い聞かせるのであった。
三人でそのまま騒いでいると、そこにもう一人の女性がやってくる。
大きな眼鏡をかけて、純白のコートを羽織り、銀色の艶やかな髪を靡かせながらやってくるのはオリヴィアだった。
「ステラ! 久しぶりだねっ!」
「あ! オリヴィアちゃんだー!」
と、今度はオリヴィアの方へと走っていき、思い切り抱きつく。
ステラとオリヴィアの出会いは文化祭だった。もともとは、レイの妹ということで打算的に仲良くなっておこうと思っていたのだが、ステラの純真無垢な美しさに心を惹かれ、今はすっかり普通の友人となっている。
オリヴィアのことを王女と知っているが、友人として接して欲しいと言われているので、ステラは彼女と親睦を深めている。
今回の
「オリヴィアちゃんに会えて嬉しいよっ!」
「ふふ。ボクもステラに会えて嬉しいよ……っと、こちらの二人は?」
「お兄ちゃんのお友達だよっ!」
「へぇ……」
怪しく目を光らせるオリヴィアを見て、ビクッと体が反応してしまう二人。
「ボクはオリヴィア=アーノルド。第二王女だよ。よろしくね」
「え!!?」
その反応は無理もなかった。こんなところに王族、それも第二王女がやってくるなど予想もしていなかったのだから。
「えっと……その、クラリス=クリーヴランドです……」
「なるほど。上流貴族のクリーヴランド家の人か。こうして会うのは初めてだね」
「は、はいっ!」
完全に緊張しているクラリスだが、一方でエリサの方は比較的落ち着いていた。というのも、二人は面識があるからだ。それは、文化祭の準備をしているときにレイがオリヴィアを寮に連れ込んだときの話だが、特に仲が悪いということはなかった。
「あ……その。お久しぶりです」
「そうだね。あのとき以来かな?」
「はい。で、あの約束は大丈夫だよね?」
「も、もちろんですっ!」
吟味するようにじっと見つめるオリヴィアだが、それはレイとどのような関係なのか見定めるためだった。しかし、今回のオリヴィアの検査では白、ということで友好の証として握手を求める。
「ボクのことは、オリヴィアで構わないよ。二人とも、先輩なんだからね。よろしくね」
レイの前では落ち着きのない少女のように見えるが、普段はこのように落ちつているオリヴィア。伊達に、第二王女ではない。
「よ、よろしく……!」
「こちらこそ、よろしくお願いします!」
そうして合流した四人で、会場へと向かうことになるのだった。
◇
「マリア! 早くいきましょう!」
「ちょっと待ってお姉ちゃん!」
その人混みの中には、レベッカとマリアもいた。二人は今回の大会を一緒に見ようと約束していたので、こうして合流したのだが……レベッカのテンションがいつも以上に高いのだ。
流石にこれは、マリアも辟易してしまう。
「もう。ちょっと張り切りすぎじゃない?」
「だ、だってレイさんが初戦なんだから! 当たり前でしょう?」
当然でしょう、という表情をする。そんな姉の姿を見て、はぁとため息をつくマリアは軽く肩を竦める。
「まぁ……お姉ちゃんが楽しそうならいいけど。でも、レイってライバル多くない? 最近はなんかアリアーヌちゃんとも仲がいいみたいだし」
マリアはアリアーヌとは面識がある。三大貴族の繋がりということで、昔馴染みなのだ。
「あれ? それは知っていますけど、マリアはその話を誰に聞いたの?」
「言ってなかったけ。この前レイと会ったときに、アリアーヌとの訓練が〜、とか言ってから」
「へぇ……そういえば、マリアもレイさんと仲がいいわよねぇ……」
じりじりと近寄ってくるその姿は、悪鬼羅刹が如く。否、それはまさに修羅。
その変貌を遂げた姉を、恐怖の目で見る。マリアのその両足は、まるで生まれたての小鹿のように震えていた。
「ちょ!? べ、別に違うって! 街で偶然あっただけだからっ!」
「他意はないと?」
「ないよっ!」
「でも、仲がいいわよね?」
「ま、まぁ……仲が悪いとは思ってないけど……」
と、その真っ白な頬に軽く朱色が差すのをレベッカは見逃さなかった。
「マリア。仮に妹とは言え、私は手を抜くことはありません」
「だーかーらー! 誤解だってば!」
「ま、そういうことにしておきましょう」
打って変わって、すぐに落ち着くレベッカ。彼女としては、最近はライバルが多く、マークするのも一苦労だと思っている。その中で、妹までライバルになってしまうと、流石にキャパオーバーだと思って牽制したのだが……どうやら杞憂なようだった。
「はぁ……お姉ちゃんって、レイのことになるとちょっとアレだよね」
「アレって?」
「周りが見えなくなるというか。ぶっちゃけ、お姉ちゃんは重いタイプの女だよね」
「が、がーん! ま、まさかレイさんは重い女はき、嫌いとか……?」
「分からないけど、レイならなんでも受け止めると思うよ。きっと大丈夫!」
割と雑に姉を励ますマリアだったが、すぐにレベッカは元気を取り戻す。
「そ、そうよね! よし。絶対にお守りを渡しましょう。絶対に!」
そうして二人もまた、会場入りを果たすのだった。
◇
「ふんふんふ〜ん」
「とても上機嫌ですね」
「当たり前だろう! レイの活躍を見ることができるからなっ!」
カーラとリディア。この二人もまた、
もちろんその目当ては、レイだ。
今まではただストーカーをするだけだったが、こうして合法的にレイを見ることができるということで、リディアはいつになく嬉しそうな声をあげる。
「それにしても、レイの悪い噂をよく聞くな」
車椅子を進めてもらいながら、そう漏らす。
「はい。しかし、血統主義の貴族内では当たり前なのでしょうね」
「あぁ。本当はレイのことを悪く言ったやつを全て抹殺したいが……まぁ、いいだろう。きっと今回の大会の活躍で、レイのことを認めるしかなくなるからな。ククク……アホ貴族どもの顔が目に浮かぶ」
「……」
主人が明らかに貴族を馬鹿にしているが、カーラも特にいうことはなかった。彼女もまた、行き過ぎた血統主義には辟易しているからだ。
と、二人の視線の先に一際目立つ人物を発見する。
真っ赤なロングコートを羽織り、その純白の髪を微かに揺らしている女性。まるでこの世のものとは思えない純白さは、間違いなく彼女だった。
「リーゼ。お前も来ていたのか」
後ろから声をかけると、その場で踵を返す。
「リディア先輩。それにカーラさんも。どうも」
「で、どうしてここに来たんだ?」
リーゼの中で、色々と心境の変化があったのは知っている。しかし、まさかこのような場所に彼女がくるとは持っていなかったので、リディアは少しだけ驚いてしまう。
「試合を見に来ました。レイ=ホワイトとアメリアが出るということで」
「おぉ! お前もレイの良さを分かっているようだなっ!」
しまった、という表情をするが時はすでに遅かった。
リーゼの目的は実際は、アメリアの成長を見ること、それにレイの実力はどの程度なのか知りたい……というものだった。
レイのことになるとリディアが暴走するのは以前経験している。
しかし、ついぽろっと漏らしてしまってから、怒涛の勢いでレイのことを語り続けるリディアに流石にリーゼも辟易してしまうのだった。
ちなみに、カーラはすでに慣れているので今更何を思うところはなかった。
ただし、二人の心境は間違いなく一致していた。
──あぁ。早く終わってくれないかな。
と、内心で思うのだった。
「それでその時、レイが──」
その後。一時間以上に渡って、リディアの話は続くのだった。
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