第28話 マギクス・シュバリエ
魔術、と言うものがこの世界に定着して100年以上が経過した。
それまではあらゆる超常現象は魔法と表現されていたが、魔術の始祖がコード理論を発見し、そこから魔法を魔術へと体系化した。それから先は早いもので、すぐに魔術は生活に応用された。
インフラやその他の生活雑貨、それに衣食住にすら魔術は食い込んでくるようになり、もはや人間にとって魔術は必要不可欠なものになった。
そしてそんな魔術の発祥の地は、アーノルド王国だった。世界の西に位置している巨大な大陸の上に成り立つ王国。それは長い歴史を持つ、伝統的な国であるが、そんな国も魔術によって変化することになった。
王国の中に3つの魔術学院を設立。
そしてそこから数多くの優秀な魔術師を今も生み出している……というのが王国の現在だ
「ふむ……」
「どうした、レイ? 寝ないのか?」
「すまない。もう少し読書させてくれ」
「はいよ。じゃ、俺は寝るぜ」
「あぁ」
寮の一室。
俺はそこでこの世界の歴史についての本を読んでいた。別段知らないわけではないのだが、改めて勉強しようと思い王立図書館から借りて来たのだ。まぁ別に、この学院の図書館でもよかったのだが、エリサと行ったついでに……という感じだ。
「なるほど……」
改めて、本に目を通す。
アーノルド魔術学院、ディオム魔術学院、メルクロス魔術学院。
この3つが世界三大魔術学院と評され、それらが全てこのアーノルド王国の中にある。
アーノルド魔術学院は総合力に秀でている。学術研究、それに魔術剣士といった実戦魔術の両方ともに高水準の教育を施し、世界最高峰の魔術学院として名を馳せている。
ディオム魔術学院は実戦に特化した魔術学院だ。総合力ではうちの学院に劣るものの、その魔術剣士を育成と実戦能力はうちよりも秀でている面もあるらしい。
メルクロス魔術学院は学術研究に特化した魔術学院。ここに入る生徒は、その多くが将来は研究者になるなど、それ系統の道に進む傾向にある……とか。と言っても、
それぞれ特色はあるも、各学院が一強というわけでもなく拮抗しているのが現状である。
そうしてこの3つの魔術学院同士がぶつかり合う、
◇
「はぁ〜い。みんな〜、おはよ〜☆ キャロキャロだよ〜? 今日はねー!
正直いって、キャロルの顔を見るのは本当に嫌なのだが……まぁこれも仕方ないと思って俺はすでに諦めた。
確かに今のところ別に問題も起こしていない。
その派手な服装と、派手な髪と、普通ではない言動をどうにかしてくれれば文句はないのだが……。
「みんな知ってると思うけど、改めて説明ねぇ〜。
もはやその言動にみんな慣れているのか、それとも七大魔術師に対する尊敬なのか、突っ込むものなど誰もいない。
それにしても……なるほど。優勝者がいる学院は枠が増えるのか……昨年はレベッカ先輩も優勝していたから、本戦の方も6人の枠になるな。
ちなみに
メルクロス魔術学院は一番の弱小と思い込んでいる者もいるが、実際は剣士の技術よりも、その卓越した魔術によって優勝している者も過去にいるらしい……とのことだった。
「じゃあ、参加したい人は今日の放課後に手続きを済ませてね〜☆ そ・れ・と、ボランティアになるけど〜、運営委員に参加したい人はいるかな〜? 校内予選の運営と、
キョロキョロと周囲を見渡すキャロル。
だが挙手するものはいない。ほぼ全員がキャロルから目を逸らすようにして、下を向いている。
ふむ……運営委員か。実際のところ、何をするのかはよく知らない。でもアメリアは
ならば……裏から支えるのも、悪くはないな。
そして俺はスッと手を挙げた。
「お! レイちゃんやってくれるの〜?」
「はい。私がやりましょう」
「ありがと〜!! あとでお礼、す・る・か・ら・ね?」
「いえ。お気持ちだけで結構です。キャロライン教諭」
「ぶー! レイちゃんが冷た〜い!」
ちなみに俺とキャロルの関係性はバレていない。というよりも、バレたくはない。このアホは何かと俺に教室でも絡んでくるのだが、普通に距離をとって対応している。本当はこいつを教諭と呼ぶのも嫌なのだが、キャロルと呼び捨てにすると更に面倒なことになるので、俺は耐え忍んでいる。
「……よし」
改めて心を入れ替えると、俺は運営活動に力を入れると誓うのだった。
◇
「それにしても、意外だったわね。レイが運営に回るなんて」
「それは俺も思った!」
「わ……私も……誰がやるんだろうって……」
昼休み。
この4人で昼食をとることはすでに当たり前のことになっていた。ちなみに俺に関する噂もかなり収まってきた。
それは俺の蔑称として定着していたが、ミスター・アリウムとそれにアメリアと剣を交えて以来風向きが変わったらしい。
なんでも実戦能力だけなら、学院の中でもずば抜けているとか……なんとか……という噂が今度は立っているらしい。ちなみにこれはエヴィに聞いた話だ。
「あぁ。俺も実際のところ、どうしようかと思ったが……アメリアが参加するようだし、少しでも力になりたくてな」
「え、そういう動機だったの?」
「あぁ。でもそうだな。俺は選手としては参加できないから、別の形で関わりたい……という気持ちもあったかもしれない」
「レイは結局でないの? 受付の締め切りは今日の放課後までだけど?」
アメリアだけではない。エヴィもエリサも、じっと俺を見据えてくる。
確かに俺に『冰剣の魔術師』としての能力がなんの問題もなく使えるのなら、参加していたかもしれない。でも未だに俺は、
一戦ならまだしも、連戦は無理だろう。
「残念だが無理、だな。俺はまだ完治していない。でもこの4年間の中でいつかは出場できたらいいと思う」
「う……あなたが出ると、優勝間違いないでしょ」
「いやわからないさ。まだ俺も途上の身の上だ。それに試合とは最期まで分からないものだろう?」
「それはそうだけど……」
と、アメリアは釈然としない様子だったがすぐに話題を切り替える。
「そういえば、ルールはどうなっているんだ? 俺はまだ詳しく把握していないが……」
「胸にある薔薇を……散らすか……場外に落とすか……だよね?」
「そうね。エリサのいうとおりよ。基本的には薔薇を散らすのが一番効率がいいわね。それに危ないときは教師の介入も入るし……毎年負傷者は出るけど、死者は出ていないわ」
「なるほど……確かに戦闘不能になるまで戦うとなると、それは殺し合いになりかねんからな……」
「でも俺は去年の
「む。そうなのか、エヴィ?」
「あぁ。それぞれ学院の名前を背負っているからな。色々と対抗心とかで盛り上がるみたいだぜ?」
「……それは楽しみだな」
ということで、俺は
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