第4話 魔術剣士



「さて、ここに集まった生徒は魔術剣士も卒業後に視野に入れている。そう思っていいね?」



 午後の授業は選択制になっている。その中で俺は、魔術剣士のための授業を選択した。この中には見知った顔もいて、アメリアにそれに隣にはエヴィのやつもいる。


 ちなみに現在は外の演習場に出てきていて、服装もまた軽装になっている。




「おっとその前に自己紹介だね。僕はエリオット=アークライト。みんなにはライト先生と呼ばれているよ。ちなみに白金級プラチナの魔術師だ。よろしくね」



 にこりと微笑むその姿は、同性ながらもきっと魅力的なものであると理解した。


「さて、と。魔術師と魔術剣士の違いはわかるかな?」

「はい」

「えっと君は?」

「アメリア=ローズと申します」

「なるほど。君が今年の首席だね。それでは、違いの説明をお願いしようか」

「魔術師とは主に魔術を行使する者です。その一方で魔術剣士は剣戟に魔術を組み込む剣士のことです」

「では本質的には何が違うかな?」

「速度です」

「いいね。続けて」

「魔術師は後方支援、大規模な魔術など術式構成に時間をかけることができます。一方で魔術剣士は速度が何よりも重要。何故ならば、超近接距離クロスレンジの戦闘はリアルタイムの判断が求められるからです」

「パーフェクト。ミス・ローズの言うとおり、魔術剣士は速度が重要だ。それこそ一秒以下……ゼロコンマの世界で戦っていると言ってもいい。だからこそ君たちが初めに身につけるべきは、剣技の型と高速魔術クイックだ。さてここで、高速魔術クイックをについて説明しよう」



 ライト教官は生徒に少し距離を取るように言うと、まずは普通の魔術を行使する。



「まずはこれが普通の魔術……」



 すると彼の右手には、炎が燃え上がる。時間にしても二秒近くかかっているだろう。しかし、高速魔術クイックはその名の通り高速で魔術を使うことだ。



「そしてこれが高速魔術クイックだ」



 瞬間、先ほどとは比べ物にならない速度で炎が燃え上がる。時間にして一秒にも達していないだろう。出力は先ほどよりも劣るが、それでも十分なほどだった。


 流石のその技量には生徒たちも感嘆の声をあげる。



高速魔術クイックのポイントは、コード理論を省略しないことだ。例年の生徒を見ても、無理やり高速魔術クイックを使おうとして、まともに魔術が発動しない生徒がいる。大切なのは調整だ。感覚としては、出力を抑えるって感じだけど……そうだね。蛇口の水をゆっくりと細く流していく感じかな。では、みんなも実践してほしい」



 教官がそう言うと生徒たちは一斉に高速魔術クイックの練習を始める。すぐにできるも出力が足らない者、それに逆に発動すらしない者。多種多様な生徒が数多くいた。


 かく言う俺は……。



「おぉ! レイは器用だな!」

「そうだな。これは嫌というほど教えられたからな……」

「ん? 誰にだ?」

「まぁ俺のことはいい。で、エヴィはどうなんだ?」

「俺か? まぁ見てろ……」



 そう言うと瞬く間に彼の手にも炎が舞い上がるのだった。魔術の構成要素は全てがコード理論に基づいているが、やはりそれでも理論を知っているのと、実際に使うと言うのはそれなりに隔たりがある。


 特に初めは、コード理論を意識せずに感覚でやってしまうことが多いので、俺はよく叱られていた。今となっては懐かしい思い出だ。



「実はこう言う繊細なのも得意なんだぜ?」

「そうか。よく似ているな」

「なんの話だ?」

「いやその……なんでもない」



 エヴィと二人でそう話していると教官が俺たちの方へと向かってくる。



「二人はできたのかな?」

「はっ! 教官殿!」

「えっと……その、君の名前は?」

「レイ=ホワイトであります。教官殿」



 当たり前の礼儀として、俺は敬礼をする。その後は手を後ろに組んで、少しだけ足元を開く姿勢を維持する。



「あぁ! 君が学院始まって以来の一般人オーディナリー出身の生徒だね」

「は。その通りであります」

「それにしてもなんと言うか……」

「なんでしょうか?」

「いや15歳とは思えない振る舞いだね。以前は普通の学校に通っていたのかい?」

「いえ……自分は学校というものはこの学院が初めてでして……これ以上は詮索しないで頂けると助かります」

「おっとごめんね。踏み込みすぎたようだ。どうにも君に興味が湧いてね」

「は。恐縮であります」



 それから先は、剣術の訓練になった。


 全員が木刀を持って、各自相手と剣戟を交わす。一人の相手に対して時間は二分ほど。それを様々な生徒でローテーションして進めていく。初めは型の練習をすると思ったが、ライト教官は実戦を重視する人のようだ。


 見た目が若いということもあり、きっと柔軟な思想を持っている人なのだろう。



「おい、一般人オーディナリー

「君は入学式の朝に出会ったな。確か同じクラスで……名前はアルバート=アリウム。ミスター・アリウムと呼んでも?」

「は、流石に貴族ノーブルへの礼儀はなっているようだな」

「そうだな。貴族ノーブルに限らず、誰に対しても礼節は持っておきたいものだ」

「でもあれは失策だったな」

「あれ、とは?」

「アメリア=ローズに取り入ろうとしたんだろう? ま、気持ちはわからんでもないがな。でも一般人オーディナリーのお前には高嶺の花だな」

「取り入るとはどういう意味だ?」

「そのままの意味だ。お前はこの学院で後ろ盾がない。入る派閥も、何もかもがない。だから三大貴族に縋ったんだろう?」

「いやそれはない。そもそも俺はアメリアが三大貴族とは当初は知らなかったからな」

「は、れたな。まぁいい。とりあえずは、相手してやるよ」

「よろしく頼む」



 俺を心配してくれているのか、ミスター・アリウムは俺に色々と忠告をしてくれたようだ。やはりこの学院は初めに聞いていたよりもいい人が多いようで、俺も一安心だ。



「オラッ!!」

「む……ッ!」

「……これはどうだッ!!」

「むむ……ッ!」



 ミスター・アリウムはどうやら攻撃的な性格の持ち主のようだった。今までの生徒ならば少しはその剣の動きに迷いが出ていた。それはたとえ木刀であろうとも、人に剣を向けるということは普通は怯えるものである。だがしかし、彼はそうではないようだ。流石は貴族といったところだろうか。剣筋も決して悪くはない。


 しっかりと努力しているのが見て取れる。


 俺はそんな彼の剣戟を真正面から受け止める。いや、受け止めるだけではない。時には受け流し、その攻撃を全て捌いていく。



「……く、どうなってやがるッ!?」

「……ミスター・アリウム。少し直線的だな。時折フェイントを混ぜるといいかもしれない」

「うるせえッ!」



 さらにムキになってくるが、感情的になればなるほど人間というものは直線的になってしまう。


『魔術師は冷静に努めなければならない』、それは俺が教えられた教訓の一つである。



「はい。じゃあ次の人にいってね〜」



 教官殿がそう告げるので、俺は木刀を引いて彼に対して礼をする。



「いい練習になった。ありがとう。君の剣には努力の足跡がよく見えた」

「は……うるせぇよ。いい気なるなよ? 防御が得意だからって……」

「忠告、痛み入る。そうだな。俺もまだまだだ。精進したいと思う」

「は、言ってろ……」



 最後にそう告げて彼は次の相手の元に進んでいく。


 なるほど。学友と切磋琢磨する。これは経験のしたことのないものだ。正直言えば、この程度の技術ならば俺は朝飯前であるが……せっかくこの学院に生徒として入学することができたのだ。


 自分を見つめ直すという意味合いも込めて、まずはまた基礎からしっかりと積み上げていこうと思う。


 ミスター・アリウムだけでなく、アメリアやエヴィのような意識の高い生徒も多い。俺はきっと、ここで満足した生活を送ることができるだろう。


 そんな未来に想いを馳せながら、俺はさらにこの授業に集中して取り組むのだった。

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