第3話 現実───────リアル
「うわぁ……嫌な夢を見た」
いやいや、嫌な夢ではないか。
過去のさやかにも会えたことだし。
さすがに、あの頃の記憶はいいものでは無いけど、さやかがいてくれたから全然平気だった。
というか、むしろもっと関係を濃くするためにいじめられてもいいとも思ってた。
「そんなこと言っても、さやかはもう……」
『守ってくれない』
会社でも一緒だし、なんなら、席も隣同士だ。
朝、出勤したら誰よりも早くいるし、挨拶だってしてくれる。
けど、それってさやかにとっては、普通のことで、みんなにとってる対応なんだ。
昔の馴れ合いで、挨拶してくれるとか言う、周りよりもワンランク上のことなんてなにもない。
スマホに電源を入れると、5時半を示していた。
そうだ。俺はいつも遅刻ギリギリとか思っているけど、それは会社で言えば遅刻なんかではなく、むしろ早すぎるくらいなのだ。
なぜって……?
そりゃ、朝一番に誰よりも先に、さやかに会うためだよ……?
気持ち悪いと、言われてもいい。
正直俺だってそう思う。
けど、そんだけ愛してるってことなんだと言いたい。
今日なら言えるはず……
カーテンを開けて、雨が降っていなかったら、俺は河野さやかに告白する。
「すーはー」
大きく深呼吸をする。
ぎゅっと目を瞑りながら、カーテンを握って、思いっきり右にスライドさせる。
「どぅ……だ……?」
目をゆっくり開けてみると、完全な晴れとは言えないが、雨は降っていなかった。
黒雲から、僅かに漏れでる太陽の光は、正しく今の俺みたいだった。
「これって……」
今日が、さやかに告白する日ってことだよな。
神様は、俺にもういいよって言っているのかな。
それとも、さっさと振られて、泣きわめけとでも思っているのか……?
けど、いいんだ。
自分との約束だから、しっかりと守る。
気合いを入れて、今日の朝ごはんはイチゴジャムトーストにする。
ドキドキしながら、瓶に手をかける。
しっかりと、手に力を込めて、手が震えるくらいに。
「おりゃぁー!!!」
いつもならば、こんなのではビクともしなかった瓶が今日は簡単に空いた。
「え……」
驚きのあまり、素っ頓狂な声を出してしまう。
「どうした?俺……」
きっと、アドレナリンが出まくってるんだろう。
だから、いとも簡単にこの、頑固な蓋を開けることが出来たんだ。
そして、俺はウキウキしながら、トーストを食べ、いつもより1つ早いバスに乗車した。
────────────────────
「もう居るかな……」
イメージトレーニングは、しっかりやって来た。
まずは、いつもどうりに「おはよう」と言って、椅子に座る。
そして、言い出すんだ。
「小松菜事件から、あなたのことが好きになりました」と……
きっと、全世界の少年少女だってもっとマシな言い方するだろうよ……
こんな言い方だったら、笑われるかな。
けどいいんだ。
俺の気持ちは、ここから始まったんだから。
エレベータに、乗り込みオフィスまで乗る。
心臓が、バクバクと早まってきた。
告白するのは、初めてですごく緊張している。
こういう時に、陽気なアメリカ人になりたかったと、切に思う。
ウヤムヤと、考えていたらオフィスに着いた。
ゆっくりと、開くドアは俺を引き止めているのかもしれない。
それとも、心を落ち着かせるためにわざとやっているのもしれない。
ゆっくりと、1歩を踏み出す。
ここの角曲がったら、きっとさやかが──
『おい、そろそろ返事を聞かせろ』
『えっと……』
男女が話している。
しかも、雑音がない空間だから、ここまでよく響く。
しかも、男性の方が、一方的に強く言いよっている感じだ。
嫌な予感がする。
幸いカーペットなので、足音がそう鳴らない。
俺は、1番近い資料を入れる棚の影に隠れる。
別に、盗み聞きという事ではないが……
いや、これは完全に盗み聞きだよな。
声の方を見てみると、この予感は的中した。
さやか……
言い寄られているのは、さやかだった。
しかも相手は、この会社で1番イケメンと言われている、齋藤徹だった。
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