第2話 白昼夢

「やっと終わった……」

 俺、小松なお24歳は、この梅雨時期の多忙な仕事ノルマをようやくクリアすることができ、上司から帰っていいとの許しを貰えた。

「今日も一日長かった……」

 もう眠い。

 寝たい。

 ってか、今日もさやかが可愛かった。

 俺は今恋をしている。

『明日晴れたら、告白しよう』と思ってる。

梅雨真っ只中だぞ!?

 もちろん、さやかは俺の事が好きのかどうかなど分からない。

 けど、今まで自分の気持ちから逃げて逃げて、離れたくなかったけど、結局は大学は別々になってしまった。

 俺が、ばかだったから……

 だから、俺はさやかの4年間を知らない。

 その4年間で、彼女はもしかしたら、彼氏が出来ていたのかもしれないし、その先もあったのかもしれない……

 ダメだダメだ!!!

 変なことを考えるな!!

 いいじゃないか!別に……1人や2人

「はぁー」とため息をつく。

 いいんだよ、別に。

 いいんだよぉぉぉぉぉぉぉ!!!

「いいわけねーじゃん!!!」

 だって俺は、さやかのことが好きすぎるから。

 こんな過去のことを考えても、何も変わらない。

「寝る」

 スマホを見たら、もう12時を回っていた。

 ベットに、吸い込まれるように倒れ込む。

 今日は、ちゃんと仕事できたよな……きっと。

 そう思いながら、目を閉じた。


「やーいやーい」

 遠くから、たくさんの声が聞こえる。

 あれ?なんで俺こんなに目線が下なんだ?短パンを履いている、子供のような足が、3人分見える。

 小さい、男の子のような声でまだ高い声だ。

 あれ……この光景見たことがある気がする。

 いつだ?どんな時だっけ?

「こーまつな!!」

 手拍子がさらに、彼らのテンションを上げる。

 小松菜……?あっ、俺か。

 小松菜小松菜小松菜小松菜小松菜小松菜小松菜小松菜小松菜小松菜小松菜小松菜小松菜小松菜小松菜小松菜小松菜小松菜小松菜小松菜小松菜小松菜小松菜小松菜小松菜小松菜小松菜小松菜小松菜小松菜小松菜小松菜小松菜小松菜小松菜小松菜……

 うるさい。

 うるさい。

 黙れ、ほっといてくれ。

 多分俺は、この頃から、曲がった性格になったんだろう。

「このやろぉぉぉ!!!」

 声の主の方に振り返って見ると、見覚えのある、シルエットが見えた。

 真夏の太陽が眩しくて、目を萎ませながらでしか見れなかった。

 その子は、肩で息をしながらこう言った。

「コイツは、小松菜じゃねぇ!!」

『小松なおだ!』

 その瞬間。弓で心臓を撃ち抜かれたような、斬新な感覚がした。

 守ってくれたのが嬉しくて

 けど、守られたことに悔しくて

 自分の感情が矛盾していることに気づいて、さらに苦しくなる。

「ちぇ!また来たよ」

「さやかだ、つまんねーな」

「もう行こうぜ」

「おー、行こうぜ」

 そして、あいつらはいなくなった。

 この、無言の時間が嫌で、なにか言おうとしていつもの言葉を言う。

「ありがとう」

 か細く、ぼそっと言った言葉はさやかに聞こえたのだろうか。

 今の自分の顔がどんなのかが分からなくて、伏し目がちに言う。

「ほらっ!立ってよ!」

 優しく笑いかけた、さやかは眩しくって、目を閉じてしまいそうになる。

 弾けるように笑うさやかは、きっと太陽よりも大きくて、いつでも俺のヒーローなのだろう。

 どんな時でも、絶対……

 何があっても……

 俺は、離れない。


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