「俺は小野さんが気になっている」

 俺は佐藤龍也。華の高校2年生だ。


 クラスの女子たちからは、「長身でイケメンでサッカー部のエースで勉強もできる佐藤君ってすごいよね〜」「そうそう、かっこいいよね」「ああいう人が彼氏だったらなぁ〜」なんて評価をしてもらってるみたいだ。


 だけど、それは彼女たちが勝手に言っていること。別に俺が自分で言ってるわけじゃないんだ。ただまあ、否定はしないけど。


 恋人? 恋人はいるかって?


 もちろん、と言いたいところだけど、今はいない。あんまり、多くの女性たちからお声がかかるもんだから、そう簡単に交際に踏み切れないという事情があってね。


 それともうひとつ、俺は待っているんだ。ある人からの告白を。


 そのある人とは、同じクラスの小野ゆみ子だ。


 彼女と出会ったのは、高2になった春。俺はクラス替えで同じクラスになって初めて彼女のことを知った。うちの学校はひと学年9クラスあるから、なかなかすべての生徒と知り合うのは容易ではない。


 その意味でも運命だと思うね、小野さんと同じクラスになったのは。


 4月、5月、6月と俺は彼女からのアプローチを待った。なぜただ待っていたのかって? この俺、佐藤龍也が自分から声をかけることなどしないからだ。俺にはわかるんだ。俺と小野さんが将来的にどういう関係になるかってことが。




 が、彼女はこの3ヶ月間、俺にひとことも話しかけてこなかった。


 クラスにいるとき、彼女は常に本を読んでいた。そして、俺が近くを通りかかっても、まるで核シェルターの中にいるかのように全く反応を示さなかった。


 俺はおかしいと思った。何かがおかしい。俺が近くを通りかかって一瞥すらしない女子などいなかったからだ。


 そして、俺は思った。


 めっちゃ萌える、と。


 近づく、無視される、最高ではないか!? と。


 今まで、俺の愛を求めてきた女子たちは、皆、過剰なまでに愛情をアピールしてきた。「好きです」「愛してます」「龍也君のためなら学校のプールの水、全部飲みます」そう言って、俺の気をひこうと必死だった。


 ところが、小野さんはどうだ? まったく俺に関心を示さない。そんな彼女に言われてみたいじゃないか。


「龍也君、私のためなら、都内の学校のプールの水、全部飲めるわよね」って!


 ただ問題は、彼女からのアプローチがないということだ。これは由々しき事態だ。


 かくなる上は、自ら先手を打つか。いや、しかし、そんなことは俺のプライドが許さない。だが、もうプライドなどと言っている場合ではないのか……。いや、でも、プライドが……。




 こういう場合は、小野ゆみ子の性格、性質、趣味、嗜好、思想、行動パターンなどに関する綿密な調査を行い、それに基づいて彼女の関心が俺に向くように仕立てるしかない。


 と思いついたはいいものの、彼女について誰に聞いたらいいものか。なにせいつも一人で本を読んでいる彼女のことだ、女子ですら友達だというやつもいなさそうだし……。


 1年の時、同じクラスだったやつはどうだ。確か小野さんは、1年の時、6組だったな。


 1年の時、6組だったやつと言えば……、ああ、きっとあいつがそうだ。しかもあいつ俺と同じ中学だったし、話も聞きやすい。


 よし、ちょっと相談してみよう。



【今回の余談】

佐藤 「小野さん、なんの本読んでるんだろうか。いつもブックカバーしてるんだよな」


【次回】

「難しすぎる相談」

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ゆみ子さんの愛情はゆがみ過ぎている 〜とある高校生男女の日常〜 OK Saito @Okayokey

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