22 かがやくあなた

 華やかな祭囃子まつりばやしが聞こえてくる。

 夜のとばりが降り、飾られた提灯ちょうちんはほのかに光り始めている。


 浴衣ゆかた姿の少女がひとり、佇んでいた。

 何度もスマホの画面に目を落としては、進まない時間をもどかしく思い、人波を見やる。

 そうかと思えば、今度は結い上げかんざしを差した髪が乱れていないか気になって落ち着かなくなる。

 約束の時間の二十分も前に、待ち合わせ場所に着いてしまったのに。どうしてこんなにも焦ってしまうのか。

 神社に向かう参道はすでに人混みでにぎやかだったが、あいにくと待ち人の姿はまだ見えないようだった。


 今日は、夏祭り。彼女にとって生まれて初めて付き合った人と過ごす、初めての大きなイベントごと。

 ちょっとだけおめかししてみたい。

 彼女がいちばんに思いついたのは浴衣のことだった。


 冷やかされながら祖母に着付けてもらった浴衣は、少し窮屈きゅうくつであまり快適とは言えない。

 パンツスタイルの普段と違って、気をつけて控えめに歩かなければならないのも正直不便だと思う。

 それでも青い蝶々の柄の浴衣は涼しげで可愛らしく、ぽってりとしたシルエットの巾着も水玉模様の鼻緒の下駄も、物珍しくて気持ちが弾んだ。



 再びそわそわと辺りを見回した時、不意に彼女の目に喜びの色が灯った。

 待ち人来たる、である。

 そしてその直後に、彼女は笑み崩れる。


 遅れたかなと慌てて駆け寄ってくる彼もまた浴衣姿だったのだ。

 紺色の生地にワンポイントの柄物の白い角帯。落ち着いた涼しげな様子は、いつもの学生服の彼よりずっと大人びて見える。


 初めてのお祭りデートには気合を入れたかった。

 なんのことはない。お互いに同じ考えだったのだとわかって、二人は顔を見合せて笑った。


 彼の方が似合っている。素敵だ。

 いや、彼女こそがと二人は譲ることなく主張する。

 ひとしきり褒め合った後、少し紅潮した顔でまた笑い合うと、二人は肩を並べて歩き出した。

 指先をそっと絡めて。


 そうして二人は、輝くお互いの姿を心のアルバムの一ページに飾る。

 これから積み重ねられる思い出の始まり。

 輝くあなたを。

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