19 夜にさやかに咲く花よ
ドォン、と大きな音を立て、夜空に光の花が咲く。
ひとつ、またひとつ。
鮮やかな花々が開き、しだれて散っていく。
高校生活最後の夏休みは、一緒に花火を見に来ると決めていた。
この年頃になると、彼氏と二人で、なんて子が増えていたけれど、優香と瑞希にとっては何処吹く風の話だ。
毎年夏の締めくくりに行われる花火大会。
この花火を見に来るのは、優香と瑞希の夏休み恒例イベントだった。
幼稚園や小学生の頃は家族ぐるみで。中学生になったあと高校生の今までは二人で。
一年も欠かさず、花火を見ていた。雨天中止さえもこれまで一度もなかった。
花火大会だからと言って、特別な何かをするわけではない。
出店を冷やかして、ちょっと食べるものを買って。二人で花火の写真を撮って満足したあとは、他愛のない雑談をするだけだ。
その雑談の話題にしたって、いつも学校でしているような類のもので、珍しいものなんて何もない。
でもこれが、大事な時間なのだ。二人にとってはかけがえのない時間だった。
「あーあ、今年の夏ももう終わりかあ」
「早すぎない? 夏休み終わるの」
「毎年このセリフ言ってるよね、うちらって」
会場から少しだけ離れたこの場所は、お決まりの穴場だ。肩を寄せあって縁石に腰掛けた二人は、お決まりのやりとりさえ愉快で、声を出して笑っていた。
優香はTシャツにショートパンツのラフな姿だし、瑞希だって飾り気ないタンクトップにジーンズだ。浴衣もおめかしも関係ない、砕けた空間。
気をつかわないその空気こそが、二人にとっては心地良いのだ。
「優香、たこ焼き一個ちょーだい」
「じゃポテトと交換ね」
二人で屋台で仕入れた食べ物を分け合いながら、光の花を目で追う。
花火大会も後半に差し掛かり、プログラムの関係で大がかりな花火が増えてきた。この進行もいつものこと。
「瑞希って東京だよね、大学」
「そ。優香は地元組だよね」
「うん」
長い付き合いの二人も、来年の春からは大学生。
これから別々の大学に進み、別々の道を歩んでいくことになる。
小さな学校で四六時中一緒にいる日々も、もうすぐおしまいだ。
ドン、と花火が鳴る。
ザア、と音を立ててしだれる。
「あのさ」
と、どちらともなくかけた声が重なる。
あまりのタイミングの良さになんだかキョトンとしてしまった自分たちがおかしくて、二人は顔を見合わせて笑った。
ひとしきり笑ったあとで、優香が言う。
「来年も見よっか、花火。ここで」
「うん。来年も見よ、一緒に」
瑞希も言葉を繰り返してうなずく。
来年も、その先も。ずっと。
そんな気持ちでいるけれど。実際どうなるかはまだわからないけど。
それでも。
「約束ね」
「ん、約束」
空を見上げる。
今日見た、そして今日まで毎年ずっと見てきた、夜の花。
くっきりと綺麗に開いたその花々は、ずっとお互いのまぶたの裏に咲き続けることだろう。
目を閉じればいつでも、一緒に過ごした夏を思い出せる。
また、来年。
友達と咲かせた記憶の中の花は、決して散ることはない。
結ばれる小さな約束を、夜空から花火が見下ろしている。
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