13 辿れば、足跡

 ビルとビルの間の谷底、人ひとりやっと通れるくらいの通路を黄昏時に通り抜けた先。

 真夜中に小さな公園の使用禁止のすべり台を逆に登った時。

 またたく街灯の点滅五回目でスクランブル交差点に踏み入れば。


 そんな話は無数にある。

 なんてことはないような動作は全部、ある結果をもたらしてくれる。


 すべて、繋がっているのだ。

 異界への入り口へ。

 それはわたしだけが知っている、世界の小さくて大きな秘密。



 この世界は常に、ここではない何処かへと繋がっている。

 多くの人間はそのことを微塵も知らずにいる。


 向こう側には向こう側のルールがあって、決まった法則に従って動けば道はあっさり開ける。

 シンプルなことなのだ。

 ちょうど、鍵穴に相応しい鍵を差し込んで回した時のように。


 そんな道は実はそこここにあって、それでも全然知られていない。

 あるいは忘れてしまったのだろう。

 人は感覚を摩耗させて生きているから。



 タン、と軽い足音を立てて。

 捕まえようとする手をすり抜けて、わたしは踏み出していく。


 世界の裏側に触れていく。

 その手触りはざらりとして抵抗が強く、不快だけれど心地よい。



 わたしを捕まえられたヒトは誰もいない。これまでも、たぶんこれからも。

 あの手がつかんだものは、きっと微かに笑いの残った空虚な闇ばかりだ。



 ああ、でも。


「追いかけてきてご覧よ。ヒントは残しておいてあげるから」


 笑い声とともに足跡は残してあるから。


 もしもあの手の持ち主が、がむしゃらに追いかけてきてわたしを捕まえようと言うのなら。

 微かな手がかりからでも、食らいついて来ようと言うのなら。

 それも一興、また面白い。



 軽々と飛び越えていく。

 夢と現の境界さえも。


 シルエットは溶けていく。

 闇とも光とも知れない色の中に。


 辿って来るが良い、足跡を。

 辿れるものならば、だけれど。


 わたしはまた笑いながら、新たに見つけた道に足を踏み入れた。


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