11 海風ときらめき
髪を切った。
背中まであったロングヘアを、思い切ってショートにしたのだ。
久しぶりに頭が軽くなって良い気分でいたら、知り合いに出会い頭に尋ねられた。
「もしかして失恋したの?」
うんざりした。
言われるかなと思っていたけど、やっぱり言われた。
女が髪を切れば、すぐ失恋って。
古い考えだし、何よりそんなことを聞くなんてデリカシーがないとも思う。
適当に笑ってごまかし、さっさとその場から離れた。
どうでもいい人に根掘り葉掘り聞かれるより、ひとりになりたかった。
そのまま海岸通りに足を運んだ。
カモメが鳴く声が聞こえて空を仰げば、青い空の上を滑るように雲が流れている。
渦巻くような風は、切ったばかりの私の髪の毛を容赦なく掻き回していく。
砂浜に降りてみた。波打ち際で立ち止まって、しばらく風を浴びていた。
カモメが波の上を低く飛んでいる。魚でも追っているのだろうか。
水面は午後の太陽を弾いて、きらきら、きらきら。
強い風に巻き上げられた波しぶきが、冷たくてちょっとくすぐったい。
そうだよ、私は失恋したよ、悪いか。
失恋したから髪を切るなんて、陳腐なアイデアを思いついて。
それを実際やっちゃう単純なヤツなんだよ。
悪いか。
季節外れの誰もいない海で、やけっぱちな声なき問いに答えるものは当然いないけど。
光るさざなみは、別に悪くないんじゃないと言ってくれたような気がして。
強い風が意外に優しく私の髪や背中を撫でてくれた気がして。
目から少し水がこぼれたけど、それは海風が染みたせいだと思う。
まばゆいきらめきは、柔らかな海風は、包んでくれる。
新しい、私のシルエットを。
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