08 君とカフェオレを
大して特別でもない今日一日が終わる。
良いこともなければ、取り立てて悪いというほどのこともない。
平凡な私にお似合いの、平凡な一日が終わろうとしている。
「あーあ……」
知らず知らず大きなため息を吐き出していた。
今日も普通だったな。
今日も特別なことは何もなかった。
私には世界を救う使命もなければ、チート級の能力もなく、不思議な運命に巻き込まれるなんてこともない。
悪いことじゃないのは分かっているのに、どうして重苦しいような気持ちになるんだろう。
この閉塞感はどこから?
「つまんないな……」
ぽつりとつぶやく。つぶやいてお気に入りのソファに埋もれる。
嫌なことがなかったのは、ラッキーだって考えることもできるのに、今日はうまく考えることができなかった。
そんな自分にさえも嫌気がさして、そのまま目を閉じる。
目を閉じて、考えることをやめる。
ただ静寂に身を任せる。海の底に沈む貝のように。
いつの間にか眠っていたのだろうか。
どのくらいの時間が経ったのかわからない。
ふと人の気配を感じて目を開く。視線を上げれば君が立っていた。
君の手にはマグカップふたつ。
部屋にはコーヒーの香りが漂っている。
「起こしちゃった?ごめん。君とカフェオレを飲もうと思って」
テーブルにマグカップを置いて隣に腰かける君からも、ふわりとコーヒーの香りがした。
君はいつも、そう。
私が沈んでいる時は、黙ってカフェオレを作ってくれる。
沈み込んだ私の隣にいて、じっと私に思いを向けてくれる。
「ありがと。君とカフェオレが飲みたいと思ってたんだ。私もちょうど」
「良かった」
短い会話を交わした後に広がる沈黙は、居心地の良いものだ。
ふたりで温かいカフェオレを飲む。ただそれだけの沈黙。
大して特別でもないその時間が、心から大切に思えるのはどうしてだろうか。
無口な君の心が雄弁に語りかけてくるような時間。
特別じゃない一日の、何気ないけど大事な時間。
カフェオレを飲み終わった君の笑顔とともに、閉塞感の蓋が開く。
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