07 細雪


「初めてなんです。外に出るのは」


澄んだ声が告げた。少女の弾んだ声を聞くと、これまでの彼女を取り巻く鬱屈とした状況が暗に示されたようで、はっとさせられる。

私の気持ちを知ってか知らずか、彼女は鈴を転がすような声で笑い、あれやこれや物珍しげに問うた。目につくものが全て、好奇心の対象になっているらしい。

そんな様子が何とも微笑ましく思えた。


あの時、躊躇いもなく私の手をとった彼女。

白亜の荘厳なる神殿から、迷いなく飛び出した彼女。

山のような文献に囲まれた博識さを持ちながら、その実物にはほとんど触れたことがない彼女。


超然とした美貌をたたえた少女は、風の匂いを珍しがって笑い、雪の輝きに息を飲んではまた笑っている。

あの場所から抜け出した今、実際の年よりむしろ幼いくらいに映る。

ふと彼女が私に視線を向けた。そして小さく華奢なその手で私の手を引く。


「行きましょうか、追っ手がかかる前に」

「ええ。私があなたを守ります。誰が来たとしても」


それは誓いだった。

あの時、私が彼女に誓った。

あの時、私が私に誓った。



蒼紫がかった影を負う白の中、ただ二筋の足跡が続く。

続いていく、果てまでも。

必ず彼女の願いを叶え、連れていく。何処までだって。

見上げれば、雪がちらつき始めている。

雪原の夜が早くも迫ろうとしていた。

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